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科学とニセ科学について書くブログ

謎の化学物質(C6H12O5)2の恐怖

(C6H12O5)2という見慣れない化学式でググると、この化学式で表現される化学物質が極めて危険な物質であることを思い知らされる。この物質は「白い麻薬」と言われるほど習慣性があり、様々な病気や先天的な障害を引き起こすらしい。

でも一番恐ろしいのは、この物質の正体がほとんどすべての家庭に常備されているお砂糖だということだ。

さて、問題です。
これは何だかわかりますか?

(C6H12O5)2 ※数字は小さくして下さい

実はこれ「白砂糖」なんです。

(C6H12O5)2=SUGAR

白砂糖というのは、化学方程式で表せる薬になるのです。

(引用元:http://blog.biken-guide.com/?month=200807)

「白い麻薬」と聞いて何を連想しますか?
決してモルヒネやコカイン、大麻などのことではありません。
私が今回お話しするのは、「砂糖」のことです。

(引用元:http://yaplog.jp/k_ricojp/archive/98)

その白糖を妊婦が大量摂取すると、
脳水腫や無脳症の子どもが生まれる確立が高まります。
砂糖の影響で子宮の形や大きさが抑制され、
頭蓋骨や脳の発育に悪影響を与えてしまうというわけです。

(引用元:http://home-yasupapa.pya.jp/siritai%20keihidoku%20kodomono%20dameiji-1.html)


ちょっと面白いのはこんな記述。↓

砂糖の過剰摂取による弊害は、子どもや若い人への悪影響ばかりではありません。痴呆老人患者の80%が甘いもの好きです。

(引用元:http://www.mizuho-s.com/santyan109.htm 強調は引用者による。)


有名なDHMOジョーク「犯罪者の98%はパンを食べている」などのジョークを地で行くボケっぷりだ。アンサイクロペディアの砂糖の記事とあわせて読むとさらに味わい深い。

どうしてこうなった!

確かに砂糖の主成分はスクロースで、化学式で表記できる二糖である。しかし、実はその化学式は(C6H12O5)2ではなく、正しくはC12H22O11なのだ。どうやら砂糖有害論を流している誰かが化学式を誤って覚えているらしく、この誤った化学式が有害論とセットで伝播しているらしい。

スクロースは、分子式C6H12O6で表されるグルコースと同じくC6H12O6で表されるフルクトースが脱水縮合して生成する。つまり、2つの糖の分子の結合によって水素原子2個と酸素原子1個が抜けるから、単純に二糖だからと言って( 〜 )2の形では表現できるはずがない。(C6H12O5)2が単なる誤植の類ではなく化学に対する無知から生まれた誤表記であることが伺える。

誰が誤表記を広めているのか

明確に印刷物として存在が確認できるのは、小児科医の真弓定夫氏*1監修の『食育冊子』だ。その内容については荻上式BLOGの記事『ちょwwww食育冊子wwwww』に詳しい。実際に(C6H12O5)2の表記も確認できる。他にも真弓氏がセミナーで話していたというブログの記事がある。

最初に誤表記を始めたのが真弓氏だとは限らないし、誤表記や砂糖有害論を広めているのは真弓氏だけではないが、スクロースの化学式のこんな初歩的な間違いにも気がつかないような"専門家"にスクロースの有害性について説かれても説得力に欠けるのは事実だ。

*1:http://www.biken-guide.co.jp/wcl/comic/details/008/index.html の説明によると医学博士で社会文化功労賞受賞者らしい。社会文化功労賞は有限会社日本文化振興会が授与する由緒正しき賞だ。http://jobcolle.com/job/802737.html