やる夫で学ぶホメオパシー1
ここではニセ科学、ニセ医療の一つであるホメオパシーがいかにして興り、20世紀初頭までにどのように批判されたかを概説する。
____ / \ ドイツの医師のハーネマンだお。 / ─ ─ \ ハネ夫と呼んでくれお / (●) (●) \ みんなよろしくお。 | (__人__) | \ ` ⌒´ ,/ / ー‐ \ サミュエル・ハーネマン(1755年-1843年 ドイツ) 後にホメオパシーの創始者として知られる人物である。 ____ / \ ( ;;;;( 医者のハネ夫がいうのもアレなんだけど、 / _ノ ヽ__\) ;;;;) 今の医学はダメダメだお。 / (─) (─ /;;/ 患者が良くなるどころか | (__人__) l;;,´| むしろ死期を早めているような気がするお ./ ∩ ノ)━・'/ ( \ / _ノ´.| | .\ " /__| | \ /___ /
当時のヨーロッパでは瀉血療法が一般的だった。
,,、,、、,,,';i;'i,}、,、 ヾ、'i,';||i !} 'i, ゙〃 ゙、';|i,! 'i i"i, 、__人_从_人__/し、_人_入 `、||i |i i l|, 、_) ',||i }i | ;,〃,, _) 汚血は瀉血だー!! .}.|||| | ! l-'~、ミ `) ,<.}||| il/,‐'liヾ;;ミ '´⌒V^'^Y⌒V^V⌒W^Y⌒ .{/゙'、}|||// .i| };;;ミ Y,;- ー、 .i|,];;彡 iil|||||liill||||||||li!=H;;;ミミ { く;ァソ '';;,;'' ゙};;彡ミ ゙i [`'''~ヾ. ''~ ||^!,彡ミ _,,__ ゙i }~~ } ';;:;li, ゙iミミミ=三=-;;;;;;;;;'' ,,,,-‐‐''''''} ̄~フハ,“二゙´ ,;/;;'_,;,7''~~,-''::;;;;;;;;;;;;;'',,='' ;;;;;;;;''''/_ / | | `ー-‐'´_,,,-',,r'~`ヽ';;:;;;;;;;, '';;;-''' ''''' ,r'~ `V ヽニニニ二、-'{ 十 )__;;;;/ 当時の典型的な医師
瀉血とは皮膚や血管を傷つけてわざと出血を起こすことで病気を治療する方法。現在では一部の例外を除けば有効性は否定されており、当時は不衛生な処置によって逆に感染症を引き起こす場合もあったと考えられている。
そんなある日、ハーネマンは熱帯病のマラリアにキナという樹木の樹皮が効くことを知った。
___ / \ この本にはキナの樹皮が効くのは / ─ ─ \ 苦いからだと書いてあるけど / (●) (●) \ それはおかしいお。 .| (__人__) | __ \ ` ⌒/ ̄ ̄⌒/⌒ / だって他の苦いものは (⌒ / / / マラリアに効かないお i\ \ ,(つ / ⊂) | \ y(つ__./,__⊆) | ヽ_ノ | | |_ ヽ、___  ̄ ヽ ヽ と_______ノ_ノ ___ / \ キリッ / \ , , /\ キナの樹皮がマラリアに効く理由は / (●) (●) \ 他にあるに違いないお。 | (__人__) | \ ` ⌒ ´ ,/ . /⌒〜" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ | ,___゙___、rヾイソ⊃ | `l ̄ . | | ____ ━┓ / \ ┏┛ / \ ,_\. ・ / (●)゛ (●) \ | ∪ (__人__) | でも、どうやればその理由が分かるんだお? / ∩ノ ⊃ / ( \ / _ノ | | .\ “ /__| | \ /___ / ____ ヽ v / /⌒ ⌒\ -(m)- //・\ ./・\\ ≡ /::::::⌒(__人__)⌒:::::\ | `ー'´ | / ∩ノ ⊃ / ( \ / _ノ | | .\ “ /__| | \ /___ / ___ /⌒ ⌒\ /( ●) (●) \ とりあえず飲んでみれば /::::::⌒(__人__)⌒:::::ヽ 分かるかもしれないお! | |r┬ | (ヽ | \γ⌒=/⌒ヽ_(⌒ |/ / ( ^=/ 薬 / ヽ ノ\ | / ,(⌒ヽ/ \ ヽ_ノ ー ' ____ / \ / ─ ─ \ まずいっ / (●) (●) \ もういpp | (__人__) | \ ` ⌒´ ,/ / ー‐ \ ___ /⌒ ⌒\ ━━┓┃┃ /(  ̄) (_)\ ┃ ━━━━━━━━ /::::::⌒(__人__)⌒:::: \ ┃ ┃┃┃ | ゝ'゚ ≦ 三 ゚。 ゚ ┛ \ 。≧ 三 ==- -ァ, ≧=- 。 イレ,、 >三 。゚ ・ ゚ ≦`Vヾ ヾ ≧ 。゚ /。・イハ 、、 `ミ 。 ゚ 。 ____ / ∪ \ 気持ち悪くなってきたお。 γ⌒) ノ三三三ゞ(⌒ヽ 寒気がするし熱もあるお。 / _ノ (>)三(<) \ `、 マラリアを治す薬のはずが、 ( <:::∪:::::(__人__):::::∪| ) これじゃまるでマラリアに罹った \ ヽ ::∪::::` ⌒´∪::// みたいなもんだお | \ __ / _ (m) _ |ミ| / `´ \ ____ /⌒ ⌒\ チーン! /( ●) (●)\ これだお /::::::⌒(__人__)⌒::::: \ | |r┬-| | / `ー'´ ∩ノ ⊃ ( \ /_ノ .\ “ ____ノ / \_ ____ / / ̄ ̄ ̄\ / \ / ─ ─ ヽ | (●) (●) | \ (__人__) __,/ / ` ⌒´ \ _/((┃))______i | キュッキュッ キュッ .. / /ヽ,,⌒)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(,,ノ \ / /_________ヽ.. \ . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / ̄ ̄ ̄\ / ─ ─ \ / (●) (●) ヽ | (__人__) | \ ` ⌒´ __,/ / \ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| トン _(,,) 類似の法則 (,,)_ / | | \ / |__________」 \
ハーネマンはマラリアを治すはずの薬が逆にマラリアに似た症状を引き起こしたことをヒントにこの薬に限らない普遍的な法則として
「病気と似た症状を引き起こす物質はその病気を治す作用がある」
という類似の法則を思いついた。いわゆる"毒をもって毒を制す"に近い発想である。ホメオパシー(Homeopathy)という語は、同類(homeo)と苦痛(pathos)から作られた造語であり、同じような苦痛を引き起こす物質を利用する治療法という意味である。
ちなみに当時は作用機序が未解明だったキナの樹皮の効果は、現在では樹皮に含まれるキニーネという成分がマラリア原虫に毒性をもっているためだと分かっている。また、キニーネには強い副作用が存在する。
____ / \ でも、ただでさえ弱っている患者に /─ ─ \ 似たような症状を引き起こす薬を飲ませたら / (●) (●) \ 余計悪くなってしまうかもしれないお。 | (__人__) | それはまずいお。 \ ⊂ ヽ∩ < | | '、_ \ / ) とりあえず薄めて試してみるお。 | |__\ “ / \ ___\_/ ↓ ____ /⌒ ⌒\ 思ったとおりだったお。 /( —) (—)\ 薄めた薬を飲んだ患者の方が /::::::⌒(__人__)⌒:::::\ 病気が良くなったお! | | もっと薄めてみるんだお! \ /
当時の薬は現在の知識で考えると効果が疑わしいものもが多く、むしろ毒になるものも少なくなかった。そのため、濃い薬を与えられた患者が症状が悪化することになり、むしろより薄められて毒性が低くなった薬を与えられた患者の方が回復しているように見えても不思議はない。
つまり、巷の有害な治療法よりも、実際には効かないし害もなかったハーネマンの治療の方がましだったことになる。
科学的な臨床試験が行われるようになる前の時代ゆえに、なおさらそういう誤解は生まれやすかった。
/ ̄ ̄ ̄\ / \ / ─ ─ ヽ | (●) (●) | \ (__人__) __,/ / ` ⌒´ \ _/((┃))______i | キュッキュッ キュッ .. / /ヽ,,⌒)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(,,ノ \ / /_________ヽ.. \ . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / ̄ ̄ ̄\ / ─ ─ \ / (●) (●) ヽ | (__人__) | \ ` ⌒´ __,/ / \ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| トン _(,,) 超微量の法則 (,,)_ / | | \ / |__________」 \
ハーネマンはここでも強引な一般化を行い、
「薄めれば薄めるほど薬の効果は強くなる」
という超微量の法則を提唱した。
こうしてハーネマンはホメオパシーの基礎理論を構築した。
ホメオパシーでは以上の二つの法則に基づいて、
- 病気と似た症状を引き起こす物質を
- ものすごく希釈して
その薄い液体を糖の粒(飴玉みたいなもの)に垂らして乾燥させ薬とする。こうして作られた薬はレメディと呼ばれる。ハーネマンはさまざまな物質が引き起こす症状を調べ、多くのレメディを開発し記録に残した。
その後の批判
ホメオパシーはハーネマンの死後も、当時の医学のダメさ加減に助けられて、支持者を増やしていったが、科学・医学が進歩するにつれ次第にその有効性に疑問の目が向けられるようになっていった。
無害だが同時に効果もないことが明らかになってきたのだ。
かの有名な看護婦もホメオパシーに皮肉たっぷりの賛辞を送った。
,.r‐- 、 / r┐ `ヽ、 / r‐┘└┐ ヽ / 7::/ ̄ ヽ /,.-''" ̄_二`丶- 、 \ /´ // `ヽ、、 \`ヽ、 ` 、__ 近頃は薬をやたらに使いたがる / / , ' ヽヽ ヽ ヽ、 __ノ 人が多くて困るわ。 / /〃 / ', ', ヽ ヽく でも、ホメオパシーはそんな素人さんにも / / ,',' i i l i ト、 ヽヽ おすすめよ。 l i i ! | __ | | !ト ', ヽ', だって、きっと無害でしょうからね。 l l || i!| -ァ_'´=、_ | | l | ヽ', | i ', '、ll l_!ヒ_、 ニ=rぅ-,、」 | || l } !| ヽi l l トf'‐'| `゙ー‐'" | ト ', ', ! ! l / ', !| | ! j l !ヽ ヽV/ {i i | ! ! ヽ ト'、 ヽ-``ー '、 ノ/// ヽ ヾ=一''´ ,.! \_ ヽ| `ヽ', /' レ' / ,r'ヽ ,. '" トヽ // / ! / { { iヽ、.. ィ´ !ヽ)// / r'ヽ、 ヽ、 ヾ、 ノ/ / _」 レ´/ ! ヽ { ヾ` r'ニ} ハノ'-‐'" ! ヽ _>'7 ヾハ ヽ /// ,..-'" / _,、..-‐'" / ノ ) ノ // スイ / ト| ,. -" _-' ニ___ ,ハ_ ( ヽヽ / /7 ,.r'´ ,.r'",.-'"´ __ ヽ 看護婦にして統計学者 フローレンス・ナイチンゲール (1820年 - 1910年 イギリス)
Notes on Nursing by Florence Nightingaleより。 http://www.gutenberg.org/etext/12439
日本語での解説はここに詳しい→ナイチンゲール曰く、「ホメオパシー療法は根本的な改善をもたらした - NATROMの日記
さらに、薄ければ薄いほど作用が強いとする超微量の法則も批判にさらされ、それは化学の発展に伴ってより決定的になった。
/ ̄ ̄\ / _ノ \ | ( ●)(●) ホメオパシーは . | (__人__) いくらなんでも薄めすぎだろ、 | ` ⌒´ノ 化学的に考えて。 . | } . ヽ } ヽ ノ \ / く \ \ | \ \ \ | |ヽ、二⌒)、 \ ホメオパシーでは、30Cと呼ばれる希釈率のレメディが標準とされる。 30Cとは100倍に薄める操作を30回繰り返すという意味であり、全体として10の60乗倍 に薄めたということになる。 ここでは仮に元になる物質が食塩だったとしよう。(実際に岩塩のレメディは実在する。) 食塩NaClの分子量は約58である。したがって、58 gで1 molとなる。1 molの物質には 6.02×10^23乗 個の分子が含まれる。 58 gのNaClを100 mlの水に溶かしたとしよう(実際には溶解度の関係でここまで濃く溶かす のは不可能に近い。つまり、実際にはもっと薄いはず。)。完全に溶かして均一になるまで よく混ぜて1mlをスポイトで取って、新しく用意した99mlの水と混ぜる。 この操作1回で100倍に薄めたことになる。30回繰り返すと、前述のとおり10の60乗倍に 薄めたことになるので、完成した希釈液100mlに含まれる分子の数は (6.02×10^23)/(10^60)=6.02×10^(-37) となり、平均すれば1分子も食塩/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\が含まれないことになる。 \ つまり、薄めすぎて何も溶け|うるさい黙れ |ていない純粋な水になってしまっ/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\_______/ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨ (゚д゚ ) <⌒/ヽ-、__ノヽノ | ←化学者 /<_/____/ < <
※正確にはNaClは溶液中では分子ではないし、分子量ではなくて式量というのが正しいがここでは分かりやすさのために分子と分子量という言葉を使った。
簡単に言うと、地球の全海水に溶かして薄めるよりも薄い __ / \ / _ノ \ | ( ●)(●) キリッ ____ . | (__人__) /\ / \ そんな大量の水が用意できるわけないお | ` ⌒´ノ /(ー) (ー) \ 嘘つくなお! . | } / ⌒(__人__)⌒ \ . ヽ } \ | |r┬-| | ヽ ノ \ \ `ー'´ _/ / く. \ \ ノ \ | \ \ (⌒二 | | |ヽ、二⌒)、 \ | | 100倍に薄める操作を何度も繰り返せば、倍倍ゲームみたいに どんどん薄まるから、少量の水でも十分可能だろ。 数学的に考えて。 / ̄ ̄\ / _ノ \ | ( ●)(●) . | (__人__) | ` ⌒´ノ . | } ミ ピコッ . ヽ } ミ /\ ,☆____ ヽ ノ \ \ / \ / く \. /\/ ─ ─ \ | `ー一⌒) / (●) (●) \ | i´ ̄ ̄ ̄ \ | (__人__) | \_ ` ⌒´ / / \ ,, ?- 、_ / '' - ,, / '' - ,, / ヽ i / /ヽ ! ,i ./ / ''?、 ! i ,、 n て'' ノノ ヾ ! i ノノノ ノ ノ ''´ ! / j ' ´ ノ ( ヽ | >-,, / ,,=━━・!' ,ノ━== ! ノ 薄めるっていう !・ ヽ | ’ニンniii、 :::::i/ィ7iii= i ) レベルじゃねーぞ! \(てi iヽ ^' ~ -' /} `i_ 、 \ i_ l_j `┐ i /(,,, ,n 〉 /\\  ̄ ̄へ ! ' T'' l | \ | ! i ン=ェェi) i ソ ) | i´\! ,, -ェ`、_ン ノノ 〈 | | \\,, `?''´// | | つ !、_''''''''''''' / 7
こうしてホメオパシーは科学的にほぼ完全に否定されたのだった。
実験の方法と解釈に問題があったにせよ、着想した当時の水準に照らしてみればハーネマンの考えは特別に劣っていたということはなかっただろう。むしろギリシャ時代以来の理論に立脚した瀉血療法を続けていた医師に比べれば、実証的な姿勢は評価できるのかもしれない。