Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

『ちゃんとしたホメオパシー』は実在するのか?

前のエントリで紹介した『レアリゼ』の記事を受けて、id:arakik10 氏は『ちゃんとしたホメオパシー』に関して肯定的な見解を述べている。

すでに前のエントリで述べたように、ホメオパシーは、インフォームドコンセントの考えに反するし、経済的・倫理的にも問題がある。このエントリで引用するid:arakik10 氏の『ちゃんとしたホメオパシーとはカウンセリングの一つの「技法」なのかな?』という記事では、

精神科のカウンセリング(をボクは受けた経験があるのだが)との違いは、最後に処方されているのがレメディか認可薬かの違いだけのようにも思われる。

いくつかのブログから察せられるように、現場のお医者様たちは忙しいはずだから、患者さんに対するじっくりと時間をかけたカウンセリングをするためのチャンネルは「標準的な病院」の外に必要かもしれない。とくに今の日本は「マッチョ」、「自己責任」みたいなプレッシャーが強くなっているから、心療内科的なファシリティへの需要はあるのではないか。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20100418/p1)


と書かれているが、もしホメオパシーにカウンセリングや心療内科的な効果があるのなら、先述のような問題をはらんでいるホメオパシーよりも、そのような問題がなくきちんと効果がある薬を処方しくれるカウンセリングや心療内科を選ぶべきだろう。

そういうリソースの不足や敷居の高さが問題だとしても、別の(しかも克服し難い)問題をかかえるホメオパシーを代替案として選ぶのでは問題を減らすことにはならない。

ちゃんとしたホメオパシー団体?

このブログの著者は『レアリゼ』の記事がホメオパシーによる通常医療の否定の問題を踏まえて精神的な効果に主眼が置かれていることを引き合いに出して、はてなブックマークでのネガティブなコメントに異議を唱えている。

日本の場合、ホメオパシーのビリーバーが標準医療に対して敵対的な態度を取ることが多く、健康を損ねるケースがあるとの話をブログ上でよく見かけるが、ここに書かれた内容で積極的に現代医療を否定するような主張がなされているわけではないので、これにネガコメを投げる神経が私には理解できない。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20100418/p1)


「日本の場合」とあるが*1、別に海外のホメオパシーは通常医療の否定を行っていないわけではない。海外でもホメオパシーによる通常医療の否定は問題になっている。*2

*2:JBpress(日本ビジネスプレス)のホメオパシーの記事について - NATROMの日記によれば、日本には「ワクチン否定を初めとしたかなり問題ある主張を行っている」日本ホメオパシー医学協会と「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師によって構成される」日本ホメオパシー医学会があるそうだ。後者のサイトにはホメオパシーの安全性と危険性のようなページも見られる。問題は標準的な医療との関係であるように思われる。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20100418/p1)


この注釈も明確に間違いとは言えないが、「かなり問題のある主張を行っている」日本ホメオパシー医学協会との対比によって、さも日本ホメオパシー医学会がエントリのタイトルにある「ちゃんとしたホメオパシー」の団体であるかのような印象を受けた。確かにホメオパシージャパン系の日本ホメオパシー医学協会の活動は目立つし有害に思える。しかし、私には日本ホメオパシー医学会だってとても信用が置ける団体とは思えない。

例えば、日本ホメオパシー医学会の会長である帯津良一氏は、がん患者にホメオパシーを適用しているようだ*3。言うまでもなくホメオパシーがガンに有効だと判断すべき証拠はない。ホメオパシーがガンに有効であるかのように患者に誤認させる行為は、例え通常医療の否定を伴わなくても、患者の貴重な時間と資金を浪費させ、信頼と期待を(バレないにしても)裏切っているという意味で問題があるだろう。*4 ホメオパシーによって病気が改善したと誤認し、適切な診断や治療を受ける機会が失われるというリスクもある。ちなみに帯津氏はサトルエネルギー学会の会長でもある。「学会」というがウェブサイトを読む限り、私には怪しい健康グッズの見本市と化したオカルト団体にしか見えない。

また、ホメオパシー医学会の理事である東京女子医大の川嶋朗氏は『水からの伝言』で知られる江本勝氏の「I.H.M.国際波動友の会」の会員であり*5、やはり怪しい健康グッズの宣伝に一役買っている人物だ*6

帯津氏も川嶋氏も歴とした医師である。このブログで指摘されているように日本ホメオパシー医学会は医学協会とは違って「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師によって構成される」のかもしれないが、だからといってこの団体やこの団体の構成員の言う事が信用できるわけでもなさそうだ。

通常医学を否定しない団体なら安心か?

怪しい団体と関係しているにしても、通常医療を否定する団体よりも否定しない団体の方が圧倒的に安全なのはおそらく事実だろう。ただし、きちんと区別がつくとは限らない。

ホメオパシー医学協会/ホメオパシージャパンは、通常医療を否定する危険なカルト集団として批判されている。*7

しかし、そのような悪評の一方で、厚労省の担当者の前ではこんなことを述べている。

由井会長は、ホメオパシー医学と現代医学はその長所とする分野を相互に活用し、短所となる分野を補い合って、協力して国民の健康に貢献していくべきであるという、従来からの考えを述べ、担当者の方からは、病院で行われている現代医学とホメオパシーのコラボレーションのような事例を積み重ねていくことが重要との言葉をいただきました。

(引用元:http://www.jphma.org/fukyu/country_100403.html 強調は引用者による。)


いかにも穏健な"補完医療"を推進する団体であるかのような口ぶりだが、これはまさしくホメオパシー医学協会会長の弁である。「カルト」がその本性をむき出しにしている保証はないし、患者が本性を知った上でホメオパシーを選択できるとは限らない。

そももそ科学と矛盾することを主張している時点で

科学は万能ではない。だからこそ医学の分野でも日夜研究が進められ、試行錯誤が続いている。従って、現時点では有効性が認められていなくても、それがインチキだということにはならないし、研究する価値がないことにもならない。

しかし、ホメオパシーはもはやそういう次元のものではない。ホメオパシーはメカニズムの側面からも科学と矛盾するし、事実上効果がないことが臨床試験からも明らかになっている。このような状況にもかかわらず、ホメオパシーを有効だと信じる医師は必要最低限の科学のスキルが欠落しているとしか思えない。そうでなければ、善意にせよ悪意にせよ、ホメオパシーが有効だと信じているフリをして患者を欺いているとしか思えない。*8

科学が現代医学に不可欠なことを考えれば、少なくとも私には前者のような能力不足の医師に身を預ける気にはなれないし、後者のような不正直な医師を信用することもできそうにない。もちろん、患者の選択する自由は尊重されるべきなので、それでもホメオパシーを受けたいという患者を止める術はないかもしれないが、レメディが偽薬に過ぎず、その医師が高校生以下の科学の理解しかないか、患者に正直に接していないという事実を知った上で、それを選ぶ患者がどれだけいるだろう。

あえて言うなら、そういう事実を告げた上で行われる正直なホメオパシーこそ『ちゃんとしたホメオパシー』と呼ぶに相応しいと思う*9。残念なことにそういうホメオパシーを私は知らない。

*1:別に海外のホメオパシーは安全だと書かれているわけではないので、このブログが間違ったことを書いたわけではない。

*2:[http://transact.seesaa.net/article/121037382.html:title] [http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/newsnight/5178122.stm:title]

*3:[http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1232672820:title]

*4:もしかしたらガンを直接治療するのではなく、ただカウンセリングによって自然治癒力を高めると主張しているだけだ、というような言い訳がなされるかもしれない。しかし、この言い訳はレメディが偽薬に過ぎないことによる倫理的問題を回避することはできないし、そもそもホメオパシーによる自然治癒力のアップの存在が裏付けられていない点で説得力に欠く。

*5:http://www.twmu.ac.jp/AWNML/N/annai/staff.html

*6:http://www.shinkiko.com/engage/talk/200507.html

*7:[http://www.jphma.org/fukyu/country_100403.html:title]

*8:もしそれ以外の可能性があるのならブクコメで教えていただきたい。

*9:こういうことを書くと、「癌の告知をしない医師は不誠実な医師なのか?」というようなツッコミをいただくような気がした。確かにただ常に正直な医師が最良な医師とは言えないかもしれず、そういうジレンマがあることは認めざるを得ない。でも、ホメオパシーを選択する医師はそういうジレンマの結果としてホメオパシーという"方便"を選択したのだろうか? もしそうなら末期の患者にホメオパシーを提案することがあっても、ホメオパシーを看板に掲げて、それを見た末期以外の患者にまで虚しい期待をさせることはしないと思う。 少なくともそういう誤解を広める宣伝はやめて欲しい。