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Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

朝日新聞の記事に対するホメオパシージャパン系団体の滅茶苦茶な反論と謎の「隠しコメント」

ホメオパシー

朝日新聞は7月31日の記事で「ホメオパシー」を名指しした上で、山口のビタミンK2不投与訴訟に言及してホメオパシーの批判記事を掲載していた*1が、8月5日*2には、さらに踏み込んだ内容の記事を公開した。押さえるべき点は余すことなく書かれているが、特に日本助産師会に取材し、兼ねてからホメオパシーとの密接な関係が取り沙汰されていた日本助産師会理事の神谷整子氏から具体的な話を聞き出したのは、かなり決定的だったように思う。

 テレビ番組で取り上げられたこともある有名助産師で、昨年5月から日本助産師会理事を務める神谷整子氏も、K2シロップの代わりとして、乳児にレメディーを使ってきた。

 取材に応じた神谷理事は「山口の問題で、K2のレメディーを使うのは、自重せざるを得ない」と語る。この問題を助産師会が把握した昨年秋ごろまでは、レメディーを使っていた。K2シロップを与えないことの危険性は妊産婦に説明していたというが、大半がレメディーを選んだという。

 一方で、便秘に悩む人や静脈瘤(りゅう)の妊産婦には、今もレメディーを使っているという。

(引用元: http://www.asahi.com/health/news/TKY201008040482.html 強調は引用者による)


少なくとも引用されている神谷氏の発言だけ見ていると、騒ぎになったせいで渋々自粛しているだけとしか読めず、とても今まで新生児を命の危険にさらしていた人間の態度とは思えない。ましてや、お産の専門家にして助産師会理事まで務める人間が、不投与を危険性を認識していながらそれをやっていたというのだから驚きだ。少なくとも道義的な責任はあると言って間違いないように思う。日本助産師会の内部調査とその後の対策・対処について注目しておく必要がありそうだ*3

日本ホメオパシー医学協会の反論になってない反論

ホメオパシージャパン系団体の日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)は早速朝日新聞の記事に関してコメントを出しているが、案の定不備だらけである。

日本ホメオパシー医学協会は「ワクチンを打つな」などと主張する過激なホメオパシーグループか否か?

朝日新聞8月5日付 福井悠介、岡崎明子記者
?「ワクチンを打つなとか、薬を飲むななどと主張する過激なホメオパシーグループも存在する」

ホメオパシーを医者だけに推進している、川嶋朗准教授の発言として掲載されていますが、この記事を読んだとき、人はJPHMAがあたかもそのグループであると誤認してしまうことが懸念されます。川嶋氏は以前にも、このように事実でないことをJPHMAの問題責任のように、ある雑誌に発言していたことがありました。
川嶋氏に、その事実の確認を依頼しましたが、なかなか回答が得られず、弁護士を通じて、回答するように抗議をした結果、最終的には、JPHMAの問題ではないということを明らかにした事例がありました。

JPHMAは、法律的に義務化されていない限り、国民1人1人がワクチンやクスリの害と効用をしっかりと知り、選択すべきものであると認識しています。当然、ワクチンを打つなとか、薬を飲むななど主張する立場でもなく、そのような主張を行っているという事実も全くありません。国民1人1人が判断する材料として、ホメオパシーの考え方や臨床経験から情報提供しているのみです。

また、JPHMAは、協会倫理規定にも書かれている通り、現代医学とホメオパシー医学の両者の長所を生かして医療機関との協力体制を理想とする姿勢を1998年の設立以来一貫して打ち出しています。
現在、川嶋氏に上記発言の事実確認、事実である場合、過激なホメオパシーグループは本当に実在するのか?実在するとしたらそれはどのグループなのか確認しているところです。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_oshirase0805.html 強調は引用者による。)


日本ホメオパシー医学協会を含むホメオパシージャパン系団体が、少なくとも表立っては「ワクチンを打つなとか、薬を飲むな」とは言っていないのは事実かもしれない。しかし、id:ublftbo氏による『はてなブックマーク - 覚え書きみたいな - ホメと予防接種』を読めば、ホメオパシージャパン系団体がこれまで予防接種に対してどのような立場をとっていたかは一目瞭然である(ただし、この中にはホメオパシージャパンとは無関係の団体のページへのブックマークもあるので注意。)。


例えば、ずばり「日本ホメオパシー医学協会の予防接種に対する見解」というページでは、こんなことが書かれている。

私たちは、ホメオパシーを通じて直面してきたこの事実こそが、「予防接種が心身を問わず多くの病気や副作用を引き起こす原因の一つとなっている」ことを示唆するものであると確信しています。また、予防接種については、その有効性そのものに対する疑問の声も多く、本来、異物や毒物を生体内に直接入れるという行為は、生体にとっては危険を伴うものであり、ましてや、免疫系の発達が十分でない乳幼児にとっては、その危険性は計り知れないにもかかわらず、十分な警鐘が鳴らされていない事実を憂いています。

私たちは、子供のかかる病気は自然に任せるべきであり、その病気にかかることは子供たちがすこやかに育つために「かかる必要があること」と考えています。そして、その病気にかかった時には、ホメオパシーで対処することにより、かかり切る、出し切る、治りきることができ、これにより子供たちは一皮剥け、身体的にも精神的にも成長を遂げることができ、生きる力を強くし、後の人生を楽に生きていくことができるになると考えています。

(引用元: http://www.jphma.org/topics/topics_9.html 強調は引用者による。)


新型インフルエンザに関連しては、陰謀論を展開しつつも、巧妙に自己責任論に誘導し、結果的に判断の責任をホメオパシーユーザーに押し付けようとしている。

今、新型インフルエンザ(豚インフル)で世間は大騒ぎしていますが、大事なことは、物事の本質を理解し、賢く対応するということです。

●理解されるべきは、症状はありがたい、病原体はありがたいということ。
●恐ろしい病原体がいるというのは幻想で、本当に恐ろしいのは免疫力の低下であるということ。
その免疫力を低下させるものの代表として予防接種があるということ。
●浄化のために起こる症状を抑圧することで、免疫力が低下してしまうということ。
●免疫力を高めるためには食生活を正し、体毒を排泄し、心と体のこだわりを解放し、自然体となるようにすること。

(中略)

一方で、この大騒ぎの背景には、予防接種をさせたい人々、現代医学の威信を取り戻したいと思っている人々、恐怖をあおって薬や予防接種に依存させたいと思っている人々の意図があることは想像に難くありません。すなわち、人々の健康の支配権を持ち、健康をコントロールしたいと思っている人々がいるということです。そしてそれは、彼らだけが悪いのではなく、私たち自身の中に、自分の健康の責任を他者に委ねたいという弱さがあることの反映でもあるわけです。結局のところ、誰も責めることはできず全ては自分に責任があるわけです。

(中略)

もし予防接種に予防効果があったとすれば、それは予防接種によって重い病気になってしまい病気を押し出せない弱い体になったということ。つまり、慢性化状態になったということを意味します。予防接種によって達成される予防とは、突き詰めるとそういうことなのです。抗体を生産させ、その抗体をずっと血液中に高い値に留めておくということは、異物(インフルエンザウイルス)が排泄されず、血液中にあり続けるということで(血液中に抗体や異物がたくさんあって、しかもそれを排泄することができない状態)、つまり慢性化している状態と考えられるわけです。

(引用元: http://www.jphma.org/topics/topics_79.html 強調は引用者による。)


さらにホメオパシージャパン系団体のボスである由井寅子氏は「発達障害へのアプローチ」について聞かれたときに以下のように答えている。

  • 発達障害へのアプローチについてお話しください。

由井:まず、予防接種をしないことが最も重要です。ワクチンには有機水銀やアルミニウム塩、ホルムアルデヒド、抗生物質、動物由来のタンパク質や病原体など多くの異物が含まれます。ですからワクチンを皮下注射すると、一度に大量の異物が血液中に入ってしまうため、多くの異物が血液中に留まり続けたり、神経系にまで行ってしまいます。

(引用元: http://www.jphma.org/topics/media_station/magazine/magazine_l_a1.html 強調は引用者による。)


確かに日本ホメオパシー医学協会を含むホメオパシージャパン系団体は「予防接種をしないことが最も重要」と言っても、文字通りには「予防接種を受けるな」とは言っていないかもしれない。しかし、ここまで言われて誰が予防接種を受けようと思うだろうか?

そして予防接種が全くの無害でないにしても、ホメオパシージャパン系団体は明らかにそのリスクを誇張している*4。確かに予防接種をしないと判断したのはホメオパシーユーザー個々人であるかもしれないが、ホメオパシージャパン系団体が誤った情報・誇張された情報を垂れ流している以上、判断の責任を個人に押し付けることはできないはずた。

阪大の菊池氏へのダメな「ダメだし」

朝日新聞8月5日付 福井悠介、岡崎明子記者
?「元の物質の分子が残らないほどに希釈した水を含む砂糖玉が体に作用を及ぼす」との考えが科学的におかしいのは明らか。」

大阪大の菊池氏の発言として掲載されていますが、もしこれが事実としたら、研究もせずに、自分の持つ価値観、自分が学んだ範囲でのみ考えて結論を出し、頭から否定するというのは、科学者として頭が固すぎるといわざるを得ません。過去の歴史からも、未知のものを既知としていくところにこれまでの発見があり、発展があるということを学ぶことができるのに、そのことさえも認識されていません。
科学的に根拠に関しては、以下のRAHUK体験談の管理人のコメントが参考になると思います。
http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?mode=allread&no=2329

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_oshirase0805.html 強調は引用者による。)


やる夫で学ぶホメオパシー1で紹介したようにホメオパシーの歴史を学べば、むしろ無効なホメオパシーがどうして世の中の無視できない数の人に受け入れられるようになったのか理解できるし、「管理人のコメント」でも挙げられていて今でもホメオパシーを裏付けるものとされることが多いベンベニスト博士の実験の顛末についてはやる夫で学ぶホメオパシー2でご紹介した通りだ。

ちなみに、菊池氏ご本人もこの記述については『日本ホメオパシー医学協会にダメだしされる』というエントリーで言及している。私には上記の内容がある種の中傷のように思えたが、本人曰く「ダメだし」らしいので、見出しはそれに習った。

希釈倍率についてのいい加減な計算

朝日新聞8月5日付 福井悠介、岡崎明子記者
?100倍に薄めることを30回繰り返すなど、分子レベルで見ると元の成分はほぼ残っていない

100倍希釈を30回繰り返した場合、10の60乗倍希釈となり、原成分はほぼ残っていないのではなく、1分子も全く、残っていません。

※約10の24乗倍希釈で原成分は1分子もなくなります。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_oshirase0805.html 強調は引用者による。)


この手の希釈率の話は、まともな人が読めば、わざわざ何の有効成分も含まれていないことを自白しているようでいかにも滑稽に思えるが、実は現代のホメオパシー信奉者はそんなことは百も承知なのだ。むしろホメオパシーが安全であることの根拠として引き合いに出されることもしばしばある。

本当に滑稽なのは「※約10の24乗倍希釈で原成分は1分子もなくなります。」という部分だ。「約10の24乗倍希釈」はおそらくアボガドロ定数の6×1023よりも1桁大きい値を出したのだと思うが、「原成分は1分子もなくなります。」と言ってしまうのは誤りか、好意的に見ても誇張である。

(6×1023)/(1024)=0.6

つまり、仮に1molの原成分を1024倍希釈して、始めの溶液と同じ体積だけの希釈後の液を一粒のレメディ製造に用いたとしたら、レメディに含まれる分子の数は平均0.6個になる*5。1分子以上の原成分が含まれるケースが無視できないくらい高確率で起こりうる計算だ。

いずれにしても1分子〜数分子の成分を経口摂取して何かの効果があるとは思えないし、ホメオパシーが無効であるという結論には何の影響もないわけだが、彼らがいかにいい加減に科学を扱っているのかを示す好例と言えるだろう。

ビタミンKについてのコメントアウトされた記述

id:takjitan氏のはてブのコメントでの指摘で知ったのだが、朝日新聞に対する反論ページのHTMLのソースを読むと、なぜかコメントアウトされていて非表示になっているビタミンKについての日本ホメオパシー医学協会の「隠しコメント」が読めた(今は変更が加えられきれいに削除された模様)*6
この反論ページの冒頭部分に「なお、山口での訴訟に関係する内容については、現在民事訴訟が進行中ですので、JPHMAとしては現段階でのコメントを控えさせていただきます。」とあることから考えても、ビタミンKの是非・意義についての直接の言及を含む下記の内容は公開を見送るつもりだったのかもしれない。しかし、ソースからの削除ではなくコメントアウトという中途半端な方法がとられたため、結果的にちょっと工夫すれば、その内容を誰でも読める状態になっているのだ。

以下はコメントアウトされた内容のすべてである。

朝日新聞8月5日付 福井悠介、岡崎明子記者
?「新生児は・・・生後3カ月までの間に3回ビタミンK2シロップを与えるのが一般的である。」

現在、ビタミンK2シロップをとるかとらないかは新生児の両親の選択に委ねられています。法律上、ビタミンK2シロップを必ずとらせることと規定されていません。また、助産師としての業務のガイドラインにもなっていません。海外では、新生児にビタミンKを投与することを疑問視する意見もあります。
http://www.wddty.com/ 以下訳です。
「No need for vitamin k(ビタミンKは必要ない)

新生児の出血性疾患を防ぐ為に、全ての新生児にビタミンKを与えるとよい、ということは特ににないようだ。血液を凝固させるのに役立つビタミンKの不足が、割礼を含め、健康な赤ん坊の様々な出血の原因となることがわかってから、万が一の策として、新生児にビタミン投与が1950年代に始まった。ビタミン Kは、通常、健康な内臓でつくられる。生まれたばかりの赤ん坊は、出生時、この濃度が大変低いので、それを食べ物から取らなくてはならない。 British Medical Journal(英国医師会 ジャーナル)におけるビタミンK注射と経口投与の比較研究では、ビタミンKを投与しなかった場合でも、生後一週間における出血は殆ど稀であったということがわかり、驚愕を示している。

「この事実は、一般的に、人口の50%以上がビタミンKの生化学的欠乏であると信じられているのとは正反対である」と、Rudiger von Kriesは付随論説で語っている。言い換えれば、通常のビタミンK測定法は不十分であるかもしれないという事だ。
研究者の推測によれば、たとえ英国の新生児が誰もビタミンKを投与されなくても、脳内出血が原因での死亡は、たった40人でしかないだろうとのことである。
上記の事実からさらに、もしビタミンKを生後初期に投与することによって起こる潜在的副作用について研究してみると、新たな事実がわかるかもしれないとも、付け足している。」

一方、ホメオパシーの手引きシリーズ(ホメオパシー出版刊)の著者であるラビ・ロイ氏など、ビタミンKの副作用について懸念する人もいます。

「ビタミンKシロップや注射は、特に注射の場合、より白血病のケースを引き起こすという深刻な副作用を示しています。アロパシーでは、この研究は決定的なものではなく、証明する事ができないと言っています。その他の副作用としては、じんましんで、この為に喉が閉鎖し、死に至る可能性があります。」

繰り返しますが、当協会として、ビタミンK2の使用やワクチン接種を否定することはありません。同様に、ビタミンKのレメディーを使いたいお母さんがたにも、それを止めることはしていません。

なお、法律で義務化されておらず、任意となっている予防接種や薬の摂取については、国民に対し、効能とリスクに関わる正しく、十分な情報が開示され、国民1人1人が、自己の責任で、その選択をする、しないという判断を行うべきものと考えます。JPHMAは、様々な議論のある予防接種や薬について、ホメオパシー療法の立場から、様々な情報を提供することにより、日本人の健康をサポートするという方針をとってきています。

朝日新聞8月5日付 福井悠介、岡崎明子記者
?「ホメオパシーを取り入れている助産師の一部は、シロップの代わりにレメディーと呼ぶ特殊な砂糖玉を飲ませている。」

当然の事ですが、ビタミンKレメディーがK2シロップそのものの代わりにはなりません。
シロップをとるかとらないかということとレメディーを飲むか飲まないかは別々のことであり、独立事象です。
あくまで親がK2シロップをとるかとらないか、レメディーをとるかとらないかをそれぞれ選択するということです。レメディーは自然治癒力を触発して自然な出産や母子の健康をサポートするために使われるものであります。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_oshirase0805.html 強調は引用者による)


結局、ビタミンKのシロップが必要だったと言いたいのか、必要なかったといいたいのかはっきりしない文章になってしまっている。ホメオパシージャパンの関連会社のホメオパシー出版*7がビタミンKの副作用で「死に至る可能性」があると主張する本*8を出版していたというのは初耳だった引用部分から読み取れるのは可能性を指摘している人がホメオパシー出版から本を出しているということだけでした。お詫びして訂正いたします。

ビタミンKの有効性を疑問視する意見として挙げられているURL「http://www.wddty.com/」は『What Doctors Don't Tell You』という代替医療系のサイトのトップページのもので、ここにはビタミンKについての記述はない。しかし、このサイトには上記の翻訳部分と合致するページが存在した。

There seems to be no particular benefit to giving every infants vitamin K to prevent haemorrhagic disease of the newborn.

This vitamin began to be given to newborns as a just in case measure in the Fifties, after it was discovered that a deficiency of vitamin K, which assists in blood clotting, was the cause of various kinds of bleeding, including from circumcision, in otherwise healthy babies.

Vitamin K is normally manufactured in a healthy gut. As newborn babies have very low concentrations of it at birth, they rely on it in the diet.

A study in the British Medical Journal attempting to compare vitamin K shots with oral administration was surprised to find that bleeding was rare in the first week of life when no vitamin K was given. "This contrasts with a prevalence of biochemical deficiency of vitamin K over 50 per cent in this population," said Rudiger von Kries in an accompanying editorial. In other words, the usual methods of measuring vitamin K might not be sufficient.

If no newborns in Britain were to receive vitamin K, researchers estimate that only 40 would die from a brain haemorrhage.

Researchers also add, almost as an afterthought, that it might be a good idea if we study the potential side effects of giving vitamin K so early.

(引用元: http://www.wddty.com/no-need-for-vitamin-k.html 強調は引用者による)


なるほど。なんだか胡散臭い広告が目立つサイトだが、そういう「意見」があるのは事実のようだ。しかし、疑り深い懐疑派の私は、この「意見」で引き合いに出されている「 British Medical Journal(英国医師会 ジャーナル)におけるビタミンK注射と経口投与の比較研究」を読まないと気が済まなかった。いろいろ調べた結果、これは1991年の「Haemorrhagic disease of the newborn in the British Isles: two year prospective study.」という論文だと分かった。この論文の内容はオンラインで無料で読むことができるが、アブストラクトを見たら結論は簡潔に書かれていた。

CONCLUSIONS: All newborn infants should receive vitamin K prophylaxis. Intramuscular vitamin K is more effective than oral prophylactic regimens currently used in the British Isles.

(引用元: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1671305/?tool=pubmed)
「結論:すべての乳児はビタミンKの予防的投与を受けるべきである。ビタミンKの筋肉注射は現在イギリス諸島で行われている経口摂取よりも効果的だった。*9


驚くべきことに、『What Doctors Don't Tell You』の記事の主張とも(それを引用してビタミンKの有効性に疑問を投げかけた日本ホメオパシー医学協会の「隠しコメント」の主張とも)食い違う結論が出されているではないか!

それなら、この研究を受けてのRudiger von Kriesの付随論説はどうなのか?
確かにRudiger von KriesはビタミンKの予防的投与を受けていない場合の出血症の少なさから、ビタミンKの代謝異常の見積が不正確な可能性があることを指摘しているが、ビタミンKの予防的投与の是非に関しては『What Doctors Don't Tell You』とは正反対の主張、すなわちビタミンKの予防的投与の推奨を行っているのだ。

Should prophylaxis with vitamin K be given to all newborn
babies and if so in what form? Without prophylaxis some 40
cases of intracranial haemorrhage due to deficiency of vitamin
K in early infancy would be expected annually in the United
Kingdom. Considering the consequences of intracranial
haemorrhage for the affected children, their families, and
society preventive action seems justified. At present parenteral
prophylaxis with vitamin K seems the only safe option
and is therefore recommended for all newborn babies.

(引用元: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1671262/pdf/bmj00151-0007.pdf 強調は引用者による)
「ビタミンKの予防的投与はすべての新生児に対して行われるべきか? それはどのような形でそれは行われるべきか? 予防的投与なしでは年間約 *10 40例の早期乳児期のビタミンK欠乏性頭蓋内出血が英国内で発生すると期待される。頭蓋内出血が乳児自身とその家族、社会全体に及ぼす影響を考慮すれば予防措置は正当化される。現時点では、ビタミンKの非経口予防的投与が唯一の安全な選択肢であり、従ってすべての新生児にそれが推奨される。」


日本ホメオパシー医学協会の中の人が元論文を読まずに代替医療系ウェブサイト『What Doctors Don't Tell You』の論文を180度曲解した記事を鵜呑みにしてしまったのか、BMJの元論文までチェックした上で敢えてその内容に言及しなかったのかは分からない。前者だとすれば、人間の命に関わる重大な事案に関する根拠に適当なウェブサイトを挙げようと試みたこと自体が失態だし、後者だとすれば著しく不公正なやり方である。*11 それ以前にビタミンK不投与で現実に人命が失われたというのに、いまさらビタミンKの投与の有効性に疑問を投げかけることで不投与を正当化を図ろうとしていたのなら、その浅はかな考え自体が許しがたいことだ。また、今日では読売の記事では常識とすら書かれた*12ビタミンKシロップの投与*13が一つの選択肢に過ぎないかのように書かれているのも理解に苦しむところだ。

結果的には、この部分はコメントアウトされているから、この嘘っぱちで無責任な内容を"公式に"公表することにはならなかったが、きちんと削除せずにソースコードからバレてしまったというのも、それはそれで問題のような気がする。

*1:この記事もホメオパシージャパンに墓穴を掘らせた。http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100731/1280608405

*2:http://www.asahi.com/health/news/TKY201008040482.html http://www.asahi.com/health/feature/homeopathy01.html

*3:しかしくどいようだが、[http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100731/1280608405:title=訴訟が報道された直後の杜撰な対応]を思い出すと、私には日本助産師会の自浄作用はあまり期待できないように思う。

*4:予防接種は危険だと言いつつも、感染症に罹ることを推奨している辺りなど、ホメジャの予防接種のリスクについての見方がいかに偏っているかを如実に表している。

*5:ただし、実際には成分によっては容器の内壁への吸着によって理論通りに希釈できず、本当に一分子も含まれなくなる可能性もなきにしもあらず。

*6:追記:変更前のHTMLはこちらで保全されていた。http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20100809

*7:http://www.homoeopathy-books.co.jp/

*8:これだろうか。 http://www.homoeopathy.gr.jp/cart/hp/index.php?m=prod_detail&out_html=detail_hp&syo_mas_num=PB056A

*9:論文中では経口投与の効力は筋肉注射と比べて限定的だったようだが、効果が認められなかったわけではない。本文中では乳児に与えたビタミン剤が吐出されてしまう可能性があるため、日本のように繰り返し経口摂取される方式が考慮されるべきだと指摘している。

*10:『What Doctors Don't Tell You』ではこのsomeがonlyに入れ替わっている。確かにsomeにはonlyの意味もあるが、この場合は頭蓋内出血の発生数の推定数を述べているわけで、文脈的にもsomeは「約」の意味だと解釈するのが適当だと私は思う。

*11:あるいは第三の可能性としてBMJの内容を読んで『What Doctors Don't Tell You』の不公正な引用の仕方に気づいてこの部分をコメントアウトし、人目に触れないよにした可能性もある。

*12:http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20100709-OYS1T00214.htm

*13:8月5日に日本周産期・新生児医学会が発表した緊急声明では医師や看護師、助産師にその重要性を再確認するように求めている。 http://www.jspnm.com/topics/data/topics100805.pdf