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Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

琉球大医学部のホメオパシーの講義に使われた(と思われる)教科書を読む

ホメオパシー

朝日新聞*1沖縄タイムス*2は、琉球大学医学部保健学科の「助産診断・技術学」の講義でホメオパシーが教えられていたと報じた。問題の科目はホメオパシーに特化した講義というわけではなかったようだが、助産師志望の学生の必修科目であり2004年から計34人の学生が受講していたそうだ。朝日新聞によると、講師は「日本ホメオパシー医学協会認定の療法家」だという。日本ホメオパシー医学協会は山口の訴訟の被告のホメオパシー助産師の所属団体*3であり、「あかつき問題」*4に関わっていたホメオパスの所属団体でもある。

講義で使用されていた教科書については、 ず氏が琉球新報の記事で 日野原重明・井村裕夫 監修『看護のための最新医学講座』だと確認している*5。この教科書は全36巻*6だが、ず氏も指摘しているように、この講義で使われたのは長尾和治氏 編集の33巻『alternative medicine』だと思われる。現にこの巻には、日本ホメオパシー医学協会由井寅子会長が担当したホメオパシーについての項が設けられている*7

ホメオパシーの項の内容について

全体を通して

全体的に日本語がたどたどしく読みづらかった。由井氏のプロフィールには「『看護のための最新医学講座(全36巻)』の中の第33巻代替医療の中のホメオパシーを執筆、好評を得る。」と書いてある*8が、いったい誰に好評を得たのだろうか。

また、引用するほどのことではないが、欄外の注釈でさりげなく自分たちのホメオパシースクールを宣伝していること、具体的な症例を報告している部分で「問診」「再診」という診断行為ととられかねない表現が使われている点が目についた。なお、本全体を通してカラー刷りで図表がふんだんに用いられているが、何かと話題の由井氏によるスケッチは残念なことに一枚も使われていなかった。

お決まりのBenveniste博士についての言及

薄めれば薄めるほど、物質のもつ情報は高まるという定義を証明することは今の化学ではできていない。フランスのベンベニステ(Benbeniste)教授が唯一この分野で研究を進めているが、原物質がなくなるほどに薄めてもアレルギー反応を起こすという彼の研究結果(ホメオパシージャパン(株)資料)は化学者たちには認められず、ノーベル賞を与える代わりに弾圧され続けている。

(引用元:日野原重明・井村裕夫 監修『看護のための最新医学講座』33巻alternative medicine 190,191ページ: 強調は引用者による)


ホメオパシーの「物質のもつ情報は高まる」という話は定義だったらしい。定義なら仕方ない。しかも、「定義を証明」ときた。定義なら証明する必要ないだろ、常識的に考えて。

挙句にBenvenisteがノーベル賞を受賞するのが当然だったと言わんばかりの書き方だ。そこに「弾圧され続けている」という陰謀論まで混ぜ込んでいる。由井氏やその支持者の文章に慣れている私からしてみれば「まーた始まった」で済まされる記述だが、普通の看護学生がこの記述を読んだらドン引きしてしまうのではないかと心配になる*9。また、Benvenisteの研究結果は科学雑誌Nature誌で発表されたものなのに、なぜ(ホメオパシージャパン(株)資料)という記述があるのかは謎である。

なお、Benvenisteの研究はNature誌の調査チーム*10、ロンドン大学ユニバーシティカレッジのグループ*11によって調査・検証されているが、Benvenisteが主張していたようなホメオパシー的効果は再現できず、幻だったと結論づけられている。ちなみに、Benvenisteは本家のノーベル賞を受賞することはなかったが、ノーベル賞のパロディであり"面白おかしい"研究に与えられるイグノーベル賞を2回受賞した現時点で唯一の人物である*12

現代医学に対する偏見に満ちた記述

現代医学のように病状だけを敵とし、たたきつぶすのでは病気は治っていかない。それは、火事が起こっていることを知らせる警報機だけをたたきつぶして、何事もなかったかのように振舞っているようなものである。警報機は止まってもまだ火事は残っているのである。病状とは心や体が病気であるという心の叫びであり、サインである。たとえば、何かの原因で熱が出たとする。ホメオパシーでは熱には熱の花のレメディーであるBelladonna(イヌホウズキ)を舌下に入れる。このBelladonnaは平温で健康体のときにとると、とっている間だけカーッと熱くなり、あたかも熱が出ているかのように反応する。しかし、熱がある人がとるとすぐに熱が下がっていく。これは熱が出ているのに何もしない怠けた自己治癒力に熱の刺激を与え、「これはいかん高熱だ」とばかりに何とか熱を下げようと自分で気づき、自己治癒力がフル回転して押し出すのである。

(引用元:日野原重明・井村裕夫 監修『看護のための最新医学講座』33巻alternative medicine 192ページ: 強調は引用者による)


要は"現代医学は対症療法"という代替医療支持者にありがちな決めつけを説明したいらしいのだが、由井氏の現代医療に対する尋常ならざる敵愾心を反映してか表現が穏当ではない。「カーッ」とか「これはいかん高熱だ」とか「フル回転」いう専門書らしからぬ表現もアレだが、ホメオパシーの説明も説明になっていない。由井氏には内なる自己治癒力さんが「これはいかん高熱だ」などと陽気な独り言を発しているのが聞こえるのだろうか? そうでなければ何を根拠にこんな妄想じみた話を教科書で披露しているのか理解出来ない。

好転反応についての記述と安全性についての説明

私が気がついた範囲では好転反応という言葉自体は登場しなかったが、以下のような悪化を正当化する説明がなされている。

ホメオパシーではレメディーをとると一時的に悪化することがある。それは体内にたまった体毒や心のつまりが一時的に増えて出てくるのである。それを治る方向性という(図71)
それらには、ハーネマンの弟子であるヘリング(Hering)が確立した以下の5つがある(ヘリングの法則)
(1)上から下へ
例) 頸に出ていたアトピーがレメディー摂取後、手足に移る
(2)内から外へと(4)見えない臓器から見える臓器へ
例) 肝臓の痛みにレメディーをとると目が充血する。
(3)心が病んでいるときらは体の明確な症状が出ない
例) 分裂症の人がレメディー摂取後にかぜを引く。
(5)過去において治りきっていない症状が出る。
例) 捻挫に対してレメディーをとると慢性膀胱炎が出ててくる。
レメディーはほとんど毒を用いるが、極限的に薄められているために乳児や妊婦が摂取してまったく害がない。その毒のもつスピリットが自分が出す毒の想念や心に同種的に作用するのである。臓器や血液、脳などと人間を別々に治療していく現代医学と異なり、心や体に効き、最も安全なエネルギー体に直接作用するホメオパシーは、これからの医療といってよいだろう。この医療を行うためには、体だけでなく心、精神、魂的な観点から人間を理解することなしではできないのである。

(引用元:日野原重明・井村裕夫 監修『看護のための最新医学講座』33巻alternative medicine 199ページ: 強調は引用者による)


いわゆる好転反応に関する記述もさることながら、乳児・妊婦に対するホメオパシーの安全性をうたった記述があるのは見逃せない。朝日新聞によると、講師は「お母さん方から質問された時に、説明できるように取り入れた。今後はホメオパシーはリスクがあるものと伝えていく。」と話しているという。これまでホメオパシーがノーリスクなものとして説明されていたことも問題だが、琉球大を卒業した助産師たちが、この教科書に書かれているようなホメオパシーについての"誤った説明"をお母さん方にしていないかが私は心配だ。

この教科書のホメオパシー以外の代替医療に関する記述について

パラパラとめくって所々斜め読みした感想で言えば、ホメオパシーにかぎらずこの本の内容はあまり教科書として推奨できるものだとは思えなかった。

例えば、各論に入る前にEBMについてそれなりのページ数を割いて概説しておきながら、他の部分では以下のように書いてこれを台無しにしている。

西洋医学の分野では、臨床疫学の見地あるいは、医療経済の観点から、いわゆるEBM、根拠のある医療が要望されるようになっている。この根拠を"科学的"と主張する学者もいるが、これは医療においては必ずしも妥当ではなく、多くの反論がみられている。その理由としては、まず医療そのものが必ずしも科学的観点からのみからみるべきではないという根本問題がある。さらに西洋医学の統計的方法ではなく、患者の個性、あるいは個人差を重んじる特性があるからである。そのためには、従来の方法とは相異なる「新しい理論」に基づいた科学的方法論でなければならない

(引用元:日野原重明・井村裕夫 監修『看護のための最新医学講座』33巻alternative medicine 54ページ)

*1:http://www.asahi.com/health/news/TKY201009160388.html

*2:http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-09-18_10329/

*3:http://jphma.org/About_homoe/jphmh_oshirase0805.html

*4:http://www012.upp.so-net.ne.jp/mackboxy/Health/

*5:http://www.zukeran.org/shin/d/2010/09/18/homeopathy-problem-at-u-ryukyu/

*6:http://www.nakayamashoten.co.jp/bookss/define/kango/smn.html

*7:全403ページ中12ページ

*8:http://www.jphma.org/homoeopath/h_ya/h_yu_1.html

*9:ホメオパシー助産師が少なくないことを考えると、残念なことに普通じゃない看護学生もそれなりにいることを認めなければならない。

*10:J. Maddox, J. Randi, W. W. Stewart, Nature 334, 287 (1988).

*11:S. J. Hirst, N. A. Hayes, J. Burridge, F. L. Pearce, J. C. Foreman, Nature 366, 525 (1993).

*12:http://www.improb.com/ig/ig-pastwinners.html