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Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

朝日新聞WEBRONZAの記事で紹介されたホメオパシーでADHDが顕著に改善したとする二重盲検の話は本当か?

ホメオパシー

追記:朝日新聞WEBRONZAさんへ: 記者がヒトデの脚なら、編集長/編集長はヒトデのどこなんでしょう? 私の記事にリンクをはるのは一向に構いませんが、それだけでは何一つ検証したことにはなりませんので、万が一にも誤解なきようにお願いします。それから、ヒトデは軟体動物ではなく棘皮動物です。 http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/special/2010122800005.html
http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2010122800018.html


朝日新聞が運営するニュースサイトWEBRONZAに、スイスのホメオパシー事情を紹介した記事が掲載された*1。記事の筆者の岩澤里美氏自身がホメオパシーの効果を実感したという体験談まで載っていて、かなりホメオパシーに好意的な記事だという印象をうけた*2。さんざんこのブログでも説明してきたので言うまでもないことだが、体験談はほとんど何の証拠にもならない。

一方で気になったのはこの部分だ。

 ホメオパシー薬の効能の実験も進められている。たとえば、子どもの患者の8割をホメオパシー薬で治しているという首都ベルン近郊のハイネール・フライ小児科医は、ホメオパシー薬の効能が偽薬(プラシーボ)ではないことを証明しようと研究を重ねている。2001〜2005年には、治療が難しいといわれる発達障害の1つのADHD(注意欠陥・多動性障害)の子ども(6〜16歳)62人を対象に仲間たちと実験を行った。時期をずらしてホメオパシー薬と偽薬の両方を与えた結果、ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させたという。実験は二重盲検試験で、子どもたちも、親も、薬を投与した医師たちも薬の中身は知らされていなかった。

(引用元: http://webronza.asahi.com/global/2010121000001.html)


本当に二重盲検試験でポジティブな結果が得られたのなら、それは一考に値する*3。記事中には論文のタイトル等の書誌情報は掲載されていなかったが、著者の名前や被験者の人数等から判断して、H. Frei, et al. , European journal of pediatrics 164, 758 (2005). だと考えてまず間違いないだろう。

この論文をPubmedで引けばすぐに分かることだが、この記事にはコメントが付けられている*4。これはRolf H. Adlerらが臨床試験とその解釈の不備を指摘したもので、結論としては以下のように書かれていた。

In our view, the overall picture emerging from this study is most simply interpreted assuming no intrinsic homeopathy effect, but rather a pronounced effect of the medical treatment procedure on the family system.

(引用元: Eur J Pediatr. 2007 May;166(5):509. 強調は引用者による。)


つまり、この論文はホメオパシーの効果というよりもそれ以外の効果によると考えた方がよりシンプルに実験結果を解釈できるというツッコミだ。具体的にはそう判断する理由として箇条書きで3つの点について指摘している。それらすべてを引用すると全文転載になってしまうので、ここではそれは止めておくが、臨床試験の論文と併せてその指摘の内容を解説したいと思う。

実は二重盲検試験に参加した62人は選ばれた患者だった。

実はWEBRONZAで紹介された試験に参加している62人は、実験計画の始めの段階で集められた患者の全員ではないのだ。複数の診断法でふるいにかけられADHDと認められた患者は始め83人いた。試験を執り行なったフライ医師らは、その83人にまず盲検でないホメオパシー治療を実際に施し、Conner's Global Index (CGI)というADHDの症状の程度を示すスコアが一定以上低下した人だけを二重盲検の対象とした。どうやら、フライらはホメオパシーが効く患者と効かない患者がいると考え、前者を対象に二重盲検でその効果を立証しようと意図しているようだ。従って、この二重盲検でホメオパシーの有効性が証明されたとしても、それは全てのADHD患者にホメオパシーが効くということを意味しない。ちなみに、この事前試験でホメオパシーが十分に効かないとしてふるい落とされた人は8人いたそうだ。その他に二重盲検試験への参加拒否、締切りに間に合わなかった等の理由で13人が脱落し、最終的には62人が二重盲検に参加することになった。

Adlerは始めの参加者のうち1/4も落とされてしまうのは、治療の現実に即していないと指摘している。とはいえ、全ての患者を二重盲検に参加させることは不可能だし、もしホメオパシー治療が効く人と効かない人がいるとすれば前者のみをふるいにかける彼らの手法が完全に間違っているとまでは思えない*5。しかし、WEBRONZAの記事では62人が事前試験によって選ばれた"ホメオパシーが効きそうな人"*6だということは完全に抜け落ちているので、どんな人にもホメオパシーが有効であるかのような印象を読者に与えかねない。なお、62人が事前試験でふるいに掛けられていることはフライの論文に包み隠さずはっきり書かれていることだ*7

「顕著に改善」は本当か?

WEBRONZAの記事には二重盲検により顕著な改善が認められたかのように書かれている。

時期をずらしてホメオパシー薬と偽薬の両方を与えた結果、ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させたという。実験は二重盲検試験で、子どもたちも、親も、薬を投与した医師たちも薬の中身は知らされていなかった。

(引用元: http://webronza.asahi.com/global/2010121000001.html 強調は引用者による)


しかし、論文を読むとそうは書かれていない。

Effects of homeopathy in children with ADHD have been demonstrated in the present randomised double blind crossover trial. The within-patient difference in CGI between treatment with verum or placebo was statistically significant ( P =0.0479) and supports the positive effect of homeopathy. However, CGI decreased by only 17% (1.67 CGI points), somewhat less than that expected from the results of an earlier study.

(引用元: H. Frei, et al. , European journal of pediatrics 164, 758 (2005). )


ホメオパシーの効果に肯定的な結果が結果が得られたが、効果の程度は以前の研究と比べて低いと書かれている。以前の研究というのは二重盲検でない研究のことでCGIが平均11.25ポイント低下するほどの効果が得られていた。それに対して今回の二重盲検試験の効果では、低下の幅は(プラセボと比較して)1.67ポイントほどに留まったというわけだ。

フライらはいくつかの理由を挙げて言い訳をしているが、Rolf H. Adlerらはこの結果はホメオパシーの無効性を示すものではないかと指摘している。確かに素朴に考えれば、二重盲検にすると効果が小さくなってしまうということは、これまでホメオパシーの効果だと考えていたもののかなりの部分が実はプラセボ効果であり、ホメオパシー自体の効果はわずかだったという解釈になるような気がする。

また、少なくとも論文を読む限り、WEBRONZAの記事にあった「顕著に改善」というニュアンスは読み取れなかった。ここからは私の推測の話になるが、WEBRONZAの記事を書いた岩澤氏はsignificantという単語を誤訳している可能性があるのではないかと思う*8。たしかに辞書にはsignificantの意味として「著しい」という訳が載っているが*9、ここで言うsignificantは文脈から明らかに「(統計学的に)有意な」という意味だ。統計学でいう有意というのは変化の大きさについて何かの情報を含むものではなく、「一定の基準の下で偶然とは考えにくい」ということを意味する。つまり、この論文の内容は、大きな効果は認められなかったが、一定の水準(P=0.0479という情報がそれにあたる)の下で偶然以上の効果が認められた、ということになる。ホメオパシーの効果に肯定的な結果には違いないが、WEBRONZAの記事から伝わってくるニュアンスと論文のそれとではだいぶ隔たりがあるようだ。

実は、時期をずらした二重盲検試験の結果はちょっと不可解

WEBRONZAの記事には「時期をずらしてホメオパシー薬と偽薬の両方を与えた結果、」とあるが、より詳細に書けば62人は以下の二つのグループに分けられて試験が行われた。

  • A: 試験期間の前半に本物のホメオパシー薬を与え、後半に偽薬を与える(本→偽の順)
  • B: 試験期間の前半に偽薬を与え、後半に本物のホメオパシー薬を与える(偽→本の順)

もしホメオパシーが偽薬以上に有効なら、A群では後半よりも前半で大きな改善が見られ、B群では逆に前半よりも後半で大きな改善が期待できるはずだ。しかし、現実にはそうならなかった。



上の図はは実際に論文に記載されているグラフで一番左の点が二重盲検試験開始前、その右が前半終了後、さらにその右が後半終了後、一番右は二重盲検終了後に確認のために行われた非盲検の試験の後のCGIの値を示している。繰り返しになるが、CGIは高いほどADHDの症状が重く、低いほど軽くなっていると解釈すればよい。

B群はホメオパシー薬が投与された後半の期間終了後に期待通りCGIの低下、すなわち症状の改善が認められるが、A群ではホメオパシー薬が投与された前半において逆にCGI値が増加し症状が悪化してしまっているのだ。この期待はずれの結果について著者らは以下のように説明している。

Another reason for this small difference is the unexpected increase in CGI during crossover period one in both treatment groups. This increase could possibly be explained by a psychological expectancy effect [26]. Parents and children both may have anticipated placebo in crossover period one rather than two, and this presumed expectancy (period) effect was stronger than the treatment effect.

(引用元: H. Frei, et al. , European journal of pediatrics 164, 758 (2005). )


被験者の親子たちが後半よりも前半でプラセボが与えられると予想していたために心理学的な効果が生じてしまったとする説明だ。そういうことがないとは言い切れないが、個人的には非常に苦しい言い訳だと感じた。そういう心理学的効果が存在するのなら、この研究で実施されたような時間をずらして偽薬と本物の薬を投与するという実験方法*10は、少なくともこのケースでは、そもそも成立しないのではないか。Rolf H. Adlerらもこの結果がホメオパシーが有効だとする仮説と矛盾するものだと指摘している。

ここまでのまとめ
  • 実験の対象になったADHDの被験者62人は事前の非二重盲検試験でホメオパシーが「効く」ことが確認済みの人で、予め「効かなかった」人は除外されている。しかし、そのことはWEBRONZAには書かれていない。
  • 論文では二重盲検の結果、ホメオパシーの効果に肯定的な結果を得ているが、その効果の程度は非二重盲検と比べてわずかだった。にも関わらずWEBRONZAでは二重盲検試験の結果、「ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させた」と書かれている。
  • 二重盲検試験の結果には部分的にホメオパシーの有効性と矛盾する不自然な点がある。

結局のところ、ホメオパシーはADHDに有効なのか?

効果が小さいとは言え、フライらによる二重盲検試験でホメオパシーの効果を支持する結果が得られたのは事実だ。では、ホメオパシーは本当にADHDに有効なのだろうか。

この論文だけから結論を下してしまうのは危険である。ホメオパシーによるADHD治療に関しては、いくつかの系統的レビューが行われている。U. Altun〓らによる小児疾患のホメオパシー治療を広く対象にした系統的レビュー*11によると、ここで紹介した研究の他に2件、彼らの設定した条件を満たす臨床試験がヒットし、うち1件はホメオパシーの効果に否定的な結果だったと報告した。彼らが下した結論は以下のようなもので、結論としてはその使用を推奨していない。

CONCLUSION: The evidence from rigorous clinical trials of any type of therapeutic or preventive intervention testing homeopathy for childhood and adolescence ailments is not convincing enough for recommendations in any condition.

(引用元: U. Altun〓, M. H. Pittler, E. Ernst, Mayo Clinic Proceedings 82, 69 (2007).)


コクラン・レビュー*12においても、ここで紹介した研究を含む4件の研究が取り上げられているが、結論は以下のようにホメオパシーによるADHD治療に否定的なものだった。

Homeopathy for ADHD

This review aimed to assess the evidence for homeopathy as an intervention for attention deficit/hyperactivity disorder. Four trials were retrieved and assessed with mixed results. Overall the results of this review found no evidence of effectiveness for homeopathy for the global symptoms, core symptoms or related outcomes of attention deficit/hyperactivity disorder.

(引用元: Heirs M, Dean ME. Homeopathy for attention deficit/hyperactivity disorder or hyperkinetic disorder. Cochrane Database of Systematic Reviews 2007, Issue 4. Art. No.: CD005648. DOI: 10.1002/14651858.CD005648.pub2)


以上のように、総合して考えればホメオパシーがADHD治療に適用可能だとは言えない。

WEBRONZAの記事の問題点

今回のWEBRONZAの記事には大きく分けて2つの問題があると思う。一つ目は記事中でのフライらによる二重盲検試験の紹介が不正確・不十分なことだ。ホメオパシーについての論文を紹介することはいいにしても、それは正確になされるべきだ。もうひとつの問題は岩澤氏自身のものを含む複数の体験談と相まって*13、この記事がホメオパシーが有効であるという誤った印象を読者に与えてしまうことだろう。

この記事を読んだADHDを含む発達障害の子どもを持つ親の中には「もしかしてホメオパシーでうちの子の発達障害が治療できるかもしれない。」と思う人がいるかもしれない。そのうち何人かは不幸にもホメオパシー団体のセミナーに参加してしまうかもしれない。そうなったら、どんな話を吹き込まれるかはホメオパシー団体のウェブサイトを見れば容易に想像できる。

  • 発達障害へのアプローチについてお話しください。

由井:まず、予防接種をしないことが最も重要です。ワクチンには有機水銀やアルミニウム塩、ホルムアルデヒド、抗生物質、動物由来のタンパク質や病原体など多くの異物が含まれます。ですからワクチンを皮下注射すると、一度に大量の異物が血液中に入ってしまうため、多くの異物が血液中に留まり続けたり、神経系にまで行ってしまいます。そうするとミエリン鞘という神経細胞を覆う脂肪の膜が破壊されて、神経伝達がうまく行われなくなり、さまざまな問題が生じてしまいます。その大事なミエリン鞘は脳の大部分の場所で、だいたい1歳までに形成されますが、脳の場所によっては、2、3歳までかかります。予防接種をする時期が早ければ早いほど、脳に障害が生じる可能性が高いのです。これは取り返しのつかない問題になってしまうのです。まして有機水銀やアルミニウム塩などが血液中に入ることで、水銀やアルミニウムが脳の蓄積し自閉症などの原因になる可能性がより高くなると考えます。
ホメオパシーでは、発達障害児にはBCGやDPTといったワクチンを希釈振盪したレメディー、ビーシージーやディーピーティーなどを与えます。自閉症多動症は、2?3歳にならなければ明確な症状が出ません。しかし、その頃にはBCG、DPT、ポリオなど8種類の予防接種は全て終わっています。ですから私は8種全てをコンビネーションしたレメディーを出します。

(引用元: http://www.jphma.org/topics/media_station/magazine/magazine_l_a1.html 強調は引用者による。)


もちろん、一番悪いのは通常医療を不当に否定するホメオパシー団体であって、その責任を朝日新聞WEBRONZAや岩澤氏に押し付けるつもりは毛頭ない。しかし、皮肉にも同じ朝日新聞のアピタルによってホメオパシーの危険性が白昼の下にさらされた現在においては、記事の中でのホメオパシーの取り扱いについてその危険性に相応しい扱いを期待しても期待しすぎということはないのではないか。そういう意味で、このような危なっかしい記事が朝日新聞のWEBRONZAに掲載されてしまったことについては非常に残念に思う。


それから、ついでに不満を言わせてもらえば、WEBRONZAの公式twitterアカウントの中の人のこの記事に関する批判に対しての不誠実な対応には、大いに不満がある*14



いわゆる後釣り宣言*15だ。おそらくこの記事で批判者を釣って意図的に議論を引き起こした、とでも言いたいのだろう。しかし、そうではなくて子どもの発達障害に悩む親たちが釣られてしまったらどうするつもりなのか? 大した邪念である。

*1:http://webronza.asahi.com/global/2010121000001.html

*2:特に同じく朝日新聞の医療系ニュースサイト アピタルのホメオパシー問題に関しての活躍があるので、そのギャップに驚かされた部分はある。

*3:ただし、即有効と判断できるわけでもない。

*4:Eur J Pediatr. 2007 May;166(5):509. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17047993

*5:例えば、普通の医薬品でも体質によって大きく効果の大きさに違いがあるのなら、事前に短期間の投与で効果の大きさを評価し、効果が期待できる人にだけその薬を使い続けるということはありだろう。

*6:これは非二重盲検による判定なので、本当にホメオパシーが効くのかはまだ分からない。

*7:Rolf H. Adlerらは当然それを理解した上で、(それ以外の理由による脱落も含めて)ふるい落としすぎて現実の治療に当てはめにくくなっている批判している。一方、ここでの私がWEBRONZAの記事について批判しているのは、ふるい落とされている事実自体が記事から抜け落ちているという別次元の問題であることに注意。

*8:私の思い過ごしならば申し訳ないが過去に同様の間違いをしている人を見たことがあるのであながち穿ち過ぎとも思えない。

*9:http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=significant&dtype=1&dname=1na&stype=0&pagenum=1&index=065840000

*10:クロスオーバー試験と言われる手法。

*11:U. Altun〓, M. H. Pittler, E. Ernst, Mayo Clinic Proceedings 82, 69 (2007).

*12:Heirs M, Dean ME. Homeopathy for attention deficit/hyperactivity disorder or hyperkinetic disorder. Cochrane Database of Systematic Reviews 2007, Issue 4. Art. No.: CD005648. DOI: 10.1002/14651858.CD005648.pub2

*13:ホメオパシーを試して"効いた"と思い込んでしまうのはある意味人間ならば誰もが陥る可能性がある錯覚の一つなので仕方ない。しかし、その錯覚を無批判に記事にしてしまうのはジャーナリストしてどうなのだろう。

*14:詳細はhttp://togetter.com/li/82630

*15:http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%BE%8C%E9%87%A3%E3%82%8A%E5%AE%A3%E8%A8%80