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Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

DNA解析サービス23andMeで自分のDNAを調べてみた

バイオ

個人のDNAを解析していろいろ教えてくれるサービス 23andMeを利用してみた。23andMeはgoogleが出資していることもあってか、当初からそれなりに注目されていて、すでにTechCrunchの記事でもレビューされているのだが、ここでは私自身の解析結果を交えつつ、その仕組みや解釈についてより詳細に紹介してみようと思う。

どうすればサービスが受けられるか

まず最初に断っておかなければいけないのは現時点で日本はサービス対象外だということだ。サービスを受けるためには唾液採取・送付のためのキットを購入する必要があるのだが、そのキットは日本向けには販売されていない。*1
キットの価格は少し前まで499ドルだったがいつの間にか下がりに下がって期間限定で99ドルに値下げされている。このキットを購入し、サンプルを採取して送り返せば、後は待つだけで解析結果がwebで見られるようになる。少なくとも現時点ではキットの価格が必要な料金のすべてであり、解析に別途料金が発生することはない。

実際に唾液を採取して送ってみる。

弁当箱サイズのキットに必要なものはすべて入っている。

下図は唾液採取用の容器*2


唾液を流しこんで蓋を閉めると青い蓋にセットされている溶液が唾液と混合される仕組みになっている。この処理により唾液に含まれるDNAが安定化され、常温で輸送しても十分な品質を保ったDNAが23andMeのラボまで送り届けられるようになるらしい。

これを説明書に従って梱包した後、付属の料金支払い済み専用封筒*3で23andMeのラボに送付した。

23andMeはゲノム解析ではなくSNP解析である

具体的な解析結果を紹介する前に、23andMeが解析の対象にしている情報を明確にしておこう。23andMeは少なくとも現時点ではゲノム解読サービスではない。23andMeが対象としているのは個人のゲノム(全遺伝情報)ではなくて、その一部、具体的には一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)だ。
Homo sapiensという単一の生物種に属する私たちのゲノムは、誰のものであってもほとんど同じだが、ところどころに個々人で異なる箇所が存在する。そのような遺伝情報の個人差のうち、塩基配列の1文字だけの違いを一塩基多型と呼ぶ。

SNPのイメージ:
A氏の塩基配列
...AGATTAGCCGCGATCAGTACGATGCCGATAGCGATTTAAAGGCG...
B氏の塩基配列
...AGATTAGCCGCGATCAGTATGATGCCGATAGCGATTTAAAGGCG...


SNPの中には髪の色などの持って生まれた性質や特定の病気への罹りやすさなどと相関関係があるものあるので、SNPを調べることでそれらの情報についてのヒントを得ることができる。

SNPはヒトゲノム中に1000万箇所あると推定されていて、23andMeはその中の1000万箇所のSNPを調査の対象にしているそうだ*4

23andMeで分かること

生まれつきの性質についての情報

23andMeのホームでTraits(形質)と書かれたリンクをクリックすると、閲覧可能な項目が一覧表示される。それぞれの項目には4個から1個の星がついていて、この数が多いほどその内容の信頼性が高いことを意味する。
四つ星で信頼性が高くて、尚且つ確かめやすいのはEarwax type(耳垢のタイプ)だ。私のGenotype(遺伝子型)はTTで、これは乾いた耳垢を意味するそうだ。確かに私の耳垢は耳かきでかくとでポロポロと崩れるような乾いた耳垢だ。染色体上のこの位置の遺伝子型がTTやCTの人はしっとりした耳垢になると予測される。


Lactose intolerlance(乳糖不耐性)も同じく四つ星で分かりやすいのだが、私の判定は以下のようなものだった。

Likely to be lactose intolerant due to lack of the lactase enzyme as an adult. Unable to drink more than a glass of milk a day due to lower adult lactase enzyme levels. (May still be lactose tolerant for environmental reasons.)


この結果によれば私は遺伝的には牛乳をほとんど飲めない体質らしいが、実際には私は牛乳を飲んでも何ともない。これはカッコ内に書かれているように環境要因に影響された結果なのかもしれない。この結果を解析技術の未熟さで説明することもできないわけではないだろうが、人の体質が往々にして遺伝子以外の要因に左右されることを考慮すれば、こうした曖昧さは将来的にも不可避のものだろう。

            ,;-==≡==-、
           シ         ミ,
           シ  ,i~⌒''~''"''-⌒、;`、
         シ  /        '、ミi
        シシシ ,;           ミミ
         シ l, / '"""'''、l  ,.==-、|ミミ
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           ノ|\Y 'l、 ̄^" ̄_ノ
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      『犯人は20代から30代もしくは40代か50代』
健康に関わる情報

一番分かりやすいのは、病気に罹るリスクの予測だろう。23andMeでは数十種類の病気についてそのリスクを予測してくれる。ただし、ここでも注意しなければいけないことがいくつかある。一つは、アジア人の私に当てはめられる予測は比較的少ないということだ*5。23andMeは基本的に査読論文として発表された研究に基づいて病気のリスクについて予測を行うのだが、そのような論文で圧倒的に多いのは欧米人を対象にした調査だ。従って、日本人を含むアジア人を対象にした調査は相対的に少なく、23andMeが予測できることも欧米人と比べて少なくなる*6。もう一つは23andMeは決して"診断サービス"ではないということだ。

There are several reasons why we cannot provide diagnoses or otherwise assess your health. First, because we don't sequence your entire genome, we may miss variation that has an impact on your health. Genetic testing services, which restrict themselves to a relatively small set of diseases, provide more exhaustive analysis of the relevant genes.

More importantly, in order to make a diagnosis, your doctor considers not only your genetic information, but also your particular personal and family history and your physical condition, as well as any symptoms you are experiencing. Other confirmatory tests are usually required, since your genotype is only part of the equation. If you learn that your personal genetic information suggests that you have a higher than average chance of developing a particular disease, you may wish to discuss your genetic information with your physician or another medical expert.

(引用元: https://www.23andme.com/you/faqwin/nodiagnosis/)


つまり、現状で提供されているサービスは病気の診断に利用出来るほど確実なものではないし、診断は医師による遺伝以外の要因も含めた総合的な判断によって行われるものだから、23andMeでそれを行うことはできないということのようだ。

これらの注意事項を承知の上で私の解析結果を見たときに何かの参考になりそうなのは、下図の2型糖尿病についての解析結果だった。


通常、アジア人の場合、20歳から79歳までの間に100人のうち27.8人が2型糖尿病を発症するが、私と同じ遺伝子型をもつアジア人の場合は100人中37.3人が発症すると予測されるらしい。現在までの科学的データに基づく限り、私は平均よりも2型糖尿病になるリスクが高いようだ。このリスクをどう捉えるかはもはや科学の範疇になく主観の問題だが、私自身はこの程度のリスクの増加を深刻には考えていない。

個人の解析結果の下には以下のような解説がつけられていた。


2型糖尿病は半分以上が遺伝子以外の要因に影響されているとのことだ。これこそが生活習慣病たる所以だろう*7。私が2型糖尿病にならないためには、相対的に影響の小さい遺伝的要因に気を揉むよりも、一部は意識的に制御可能かもしれない環境因子を良い方向に持っていくことに意味がありそうだ。


しかし、遺伝的因子自体はそれを知ったところでどうすることもできないし、糖尿病の予防に関して生活習慣を含む環境因子に注意が必要なことは解析を受ける前から分かっていたごくごく一般的で当たり前なことだ。

       /ニYニヽ
   (ヽ   /( ゚ )( ゚ )ヽ   /)
  (((i ) /::::⌒`´⌒::::\  ( i)))  でっていうwwwwwwwwwwwwwww
 /∠_| ,-)___(-,|_ゝ \
( ___、  |-┬-|    ,__ )
    |    `ー'´   /´
    |         /


面白かったし、勉強になったからいいじゃないか。どうせ診断じゃないんだもの。

祖先・血縁関係についての情報

先述のとおりDNAにはSNPと呼ばれる個人差が存在し、それは遺伝情報として子孫に受け継がれていく。逆に言えば、SNPをヒントにして祖先を探すこともできる。より正確には、同じSNPを数多く共有している人は同じ祖先をもつ可能性が高いということだ。

Y染色体のタイプ

ここで問題になってくるのが、人間が有性生殖する生き物だということだ。DNAは世代を重ねることでどんどん混ざってしまうので、太古の特定の祖先に由来するSNPを見出すのは必然的に困難になってしまう。その問題を回避できる特殊な性質をもっているのがY染色体とミトコンドリアのDNAだ。これらはそれぞれ父系・母系で遺伝し、交配によって混ざってしまうことはない。

私の場合は、23andMeによる解析の結果、Y染色体がO2bというタイプに属することが分かった。このタイプのY染色体は、日本や朝鮮半島等に多く見られ、考古学的な研究と総合して長江文明や弥生人との関連が指摘されているようだ。根拠となる論文は23andMeのウェブサイトでもきちんと紹介されているが、以下の本では日本人に対象を絞りつつ言語学や考古学の知見を交えた解説がなされていて分かりやすかった。23andMeのおかげでより深く興味をもって読書ができたとも言えるだろう。


DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?

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なお、これは私の父方を遡っていけば弥生人と呼ばれている人に行き着くと推定されるというだけで、私がO2bタイプ以外の染色体をもつ日本人とそれ以外の視点から区別されるわけではない。私の他の染色体に含まれるDNAが何十代もの交雑によって混ざり合っている以上、私が他の日本人と比べて特別に弥生人の血を濃く受け継いでいるとは言えないからだ。

Relative Finder

Relative Finderは23andMeのソーシャルネットワーク的な機能を利用したサービスで、これによって親戚だと推定されるユーザーを探すことができる。私の場合は、"ひいひいひいひいおじいさん"を共有すると推定される人 (5th cousin) が何人もヒットした。ここまで来ると事実上の他人だが、普通なら知りえないほど遠い親戚が見つかるというのは面白い*8。もちろん、プライバシーの保護のために"遠い親戚"の情報は相手の承認なしには表示されないのだが、リクエストして承認が得られれば、メッセージの交換が可能になる。

Relative Finderはハプロタイプと呼ばれる概念を手がかりにしている。先述のとおり、染色体上の遺伝子は代を重ねるごとに混ざっていってしまうのだが、これは色が違う二種類のインクを混ぜたときのように完全に混ざり合ってしまうのとは事情が異なっている。実際には、染色体に「乗換え」という現象が繰り返されることで父方の染色体と母方の染色体がモザイク状になって混ざっていくのだ。従って、代を重ねるごとにそのモザイク模様はどんどん細かくなるのだが、モザイクを構成する一つ一つの断片は祖父や曽祖父の染色体の一部分をそのまま受け継いでいることになる。誤解を恐れずに言えば、染色体上のこのような断片のことをハプロタイプと呼ぶ*9

23andMeのコンピュータは、それぞれのユーザーの染色体を比較し共通のハプロタイプを見つけ出すことで、何代も前*10の祖先を共有する遠い親戚と思しきユーザー同士を引き合わせている。この計算にはそれなりの時間が必要らしく、他の解析結果が見られるようになっても、しばらくはRelative Finderだけが利用できなかった。

総評とDNA解析サービスをめぐる環境について

23andMeは少なくとも私にとっては非常に面白いサービスだったし、今後も解析項目の追加や改善が行われるようなので長く楽しめそうだ。それぞれの解析結果には分かりやすい解説が付記されているし、判定の根拠となった論文もきちんと挙げられているので、その気になれば判定結果について深く調べることができるのも有り難い。この辺りはフジテレビが煽って、日本の代理店が一枚噛み、上海の怪しげな企業が解析するという、うさん臭さ満点のサービスとはエライ違いである*11

しかし、誰しもが論文を読めるわけではないし、たとえ読めても判定結果が深刻なものだった場合に自分自身のことについて冷静でいられるとは限らない*12。実際、アメリカでも一部の州ではこの種のサービスを規制する動きがあるようだ*13

一方で、欧米ではすでに23andMe以外の個人向けDNA解析サービスが複数開始され、現実に一つの市場が生まれ競争が始まっている*14。ネット上ではサービスの質や内容を比較したり、解析結果を元にルーツを探す人たちのコミュニティができている*15他、23andMe等で得られたデータ*16を元に解析サービスの公式サイトとは別の解析を行えるサイトも現れている*17

*1:私は非公式な方法で入手してなんとかサービスを受けられたが他の人が同じ方法でうまくいく保証はない。

*2:23andMe独自のものではなくORAGENEという製品らしい。http://www.kyodo-inc.co.jp/bio/oragene/oragene.html

*3:繰り返しになるが、日本はサービス対象外なのでこれをそのままポストに投函しても駄目。

*4:https://www.23andme.com/more/genotyping/

*5:https://www.23andme.com/health/ethnicity/

*6:ただし、人種がマッチしない場合でも、調査が行われている人種の知見に基づく予測結果が一応表示されるが。

*7:ただし、解析結果の説明を見ると"誕生時の体重"のような自分の力ではどうすることもできない因子も環境要因に含まれていることに注意しなければいけない。

*8:ただし、推定が正しければだが。

*9:などと書くと遺伝学の専門家からお叱りを受けるかもしれない。

*10:この方法ではおそらくY染色体の分析のように有史以前の祖先にまで遡れることはないだろう。

*11:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101128/p1

*12:googleの創業者のセルゲイ・ブリン氏の場合は比較的深刻な解析結果が得られたようだが、彼自身は前向きに捉えているようだ。http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2519587/3357567

*13:http://jp.techcrunch.com/archives/20080617cease-and-desist-california-tries-to-unravel-23andmes-genetic-testing/

*14:deCodeMe, Pathway Genomics, Navigenics, Lumigenixなど。一部は日本もサービスの提供範囲としているようだ。

*15:http://dna-forums.com/index.php?/?index

*16:23andMeでは解析結果の生データをダウンロードできる!

*17:http://esquilax.stanford.edu/

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