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『代替医療のトリック』感想

代替医療のトリック

代替医療のトリック


ホメオパシー・鍼治療・カイロプラクティック・ハーブ療法などの代替医療の有効性について証拠に基づいて議論し、それらがはらんでいる問題を解説した本。

一言で言えば、本書は痒いところに手が届く本だ。逆に、代替医療の支持者からしてみれば、痛いところをついてくるとも言えるだろう。著者らは彼らがどのようなロジックを使っているのか良く研究しており、彼らの定番の詭弁や言い訳のかなりの部分は看破されているように思う。

とはいえ、悲観的かつ現実的な見方をすれば、代替医療の支持者の多くはこの手の本には手を伸ばさないかもしれない。そもそもこの本に書かれている批判的な情報を理解しきちんと受け止めることがきるような思慮深い人なら、この本で批判されているようなダメな代替医療の支持に回ることは稀なのかもしれない。もっと言えば、この本を読んでも著者たちの言わんとしていることを理解できずにいる人も少なからずいるようだ。これは本書ではフォローされていない事項に関する誤解に端を発するものだったり単純な読解力の問題だったりするが、いずれ具体的にそのようなブログを引用してこの場でどう間違いなのかツッコミを入れて行きたいと思う。

ただし、悲観的になりすぎてもいけない

この本をもってしても、"代替医療のトリック"から逃れられない人もいるのは事実だが、それは何もこの本が無力であることを意味しない。代替医療の矛盾に気づきかけたときに、あるいは判断に迷っているときに、このような本があれば考えを改める足がかりになる可能性は十分ある。現に著者の一人であるE. Ernstは、元はホメオパシーの施術者だったが、ハーネマンの実験を批判的に検証した論文を読んだことを一つのきっかけにして、代替医療の研究者の道に入り、代替医療の有効性について批判的に検討できる科学者になったという。この一人の転向者がいなければ、この本は存在しなかった。この本がもっと多くの転向者を生めば、無益で時には有害な呪術から医療を分離する原動力になるかもしれない。