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科学とニセ科学について書くブログ

事件とは無関係の日本ホメオパシー振興会の言い分〜穏健なホメオパシー団体には自浄作用が期待できるか?

ホメオパシー助産師が乳児の病気予防に必要なビタミンK剤を与えずレメディで代用していたために乳児が死亡してしまったとして母親が損害賠償訴訟を起こした件*1だが、事件とは無関係だという日本ホメオパシー振興会がコメントを出した。

ホメオパシーの派閥

日本において最大勢力とされるのが株式会社ホメオパシージャパン(通称ホメジャ)を中心とするグループ*2。新聞報道では問題の助産師のバックにいるホメオパシー団体の名前が明かされていないのだが、少なくともビタミンK剤の代わりにレメディを与えるべしという事件と同様のアドバイスを行っている(た)ことは確かなようだ*3。一方、このエントリーのタイトルにある日本ホメオパシー振興会はホメジャとはライバル関係にあるらしい別団体だ*4。ちなみに日本ホメオパシー振興会は帯津良一医師が率いる日本ホメオパシー医学会*5とは友好的関係にあるようだ*6

この日本ホメオパシー振興会は訴訟の報道に関して以下のようなコメントを出した*7

「キャベツを食べる代わりにキャベツのレメディーを摂取するようなもの」

具体的にコメントの内容を見てみよう。

報道にございます「自然療法の普及に取り組む団体」とは、当振興会のことでこそありませんが、ホメオパシーに携わる者として、大きな悲しみ、そして憤りを禁じ得ません。このようなことが、ホメオパシーの名において行われたことに、心からお詫び申し上げます。そして、このようなことが二度と起きないよう、当振興会としても全力を尽くしてまいります。

(引用元:http://nihon-homeopathy.net/semi-info/comment_2010_07_09.htm)


自分たちの団体が関与していないことを明確にしている。
それに続けて「当振興会の見解」が述べられている。

ホメオパシーはその方の症状の全体像に対して1種類のレメディーを処方します。すなわち個々の症状をバラバラに見るのではなく、あらゆる症状を一元的に包括する1つのレメディーを見つけて処方します。それがホメオパシーであり、他にホメオパシーはありません。
報道によりますと、新生児の出血症を防ぐためのヴィタミンK2(以下VK2)シロップを経口投与する代わりに、その名称の「ホメオパシーレメディー」を処方し、その結果としてVK2欠乏により死に至った、ということであります。
本来のホメオパシーには、VK2シロップを代替する「VK2のレメディー」という処方はありません。本来は食事によって摂取すべきものですが、新生児の場合はさまざまな理由から不足しがちなので、経口投与するものです。
したがって、VK2の不足は、食事と同様にシロップという物質で補うべきであり、「ホメオパシーレメディーVKなるもの」がVK2シロップの代わりになるわけではありませんし、それはホメオパシーではありません。
VK2の経口投与の代わりにそのレメディーを処方する、ということは、ご飯を食べる代わりにご飯のレメディー、キャベツを食べる代わりにキャベツのレメディーを摂取するようなものです。それが無意味であるのは、言うまでもありませんし、そのように間違った考えによって、新生児に必要なVK2が投与されなかったことは、明らかに有害であり、痛恨の極みです。

(引用元:http://nihon-homeopathy.net/semi-info/comment_2010_07_09.htm 強調は引用者による。)


なるほど。自分たちのホメオパシーが正しく、問題を起こしたホメオパシーは偽ホメオパシーということらしい*8

余談ながら、「報道によりますと」と書かれているが、このコメントからリンクされている読売新聞の記事にはビタミンKという言葉はあっても、「ヴィタミンK」という言葉はなく、当然「VK2のレメディー」「ホメオパシーレメディーVK」という表現はない。日本ホメオパシー振興会の中の人も相当事件について調べているようだ。

日本ホメオパシー振興会は他人のことをとやかくいう資格があるのか?

以上のように問題の助産師のやったことが偽ホメオパシーだと言いたげな日本ホメオパシー振興会であるが、もし仮にその助産師が「お前の方こそ偽ホメオパシーだ!」と反論しだしたらどうだろうか?

私の知りうる範囲でこの論争に決着をつける唯一の公正な方法は、科学的な方法論である。この件に関して言えば、科学的な方法論に基づいてビタミンKの投与が乳児のビタミンK欠乏性出血症に有効であるというエビデンスが存在する*9ので、飽くまでビタミンKを投与すべきという日本ホメオパシー振興会の主張に軍配が上がることになる。

しかし、もしこの架空の論争で日本ホメオパシー振興会が「飽くまでビタミンKを投与すべき」という主張の根拠に過去に行われた科学的な調査を挙げたら*10、私は空かさずこうツッコミを入れることができる。


「ところで、日本ホメオパシー振興会さんは、肝心のホメオパシーそのものの有効性については、どうして科学的な方法論に基づくエビデンスを無視するんですか?」


そう、ビタミンKが乳児の病気予防に有効であるという結論が科学的な方法論に基づいて出されたのと同様に、ホメオパシーに効果がない*11ことも科学的な方法論によって証明されているのだ*12。別の流派のホメオパスが起こした問題で自分たちの身を守るときだけ「ビタミンKを投与すべき」という科学の賜物を活用し、自身の商売を否定する科学はスルーするというダブルスタンダードは許されない*13

私の知る限りすべてのホメオパシー団体は、科学を無視している。少なくともホメオパシーのエビデンスの一点に関しては必然的にそうならざるを得ないだろう。日本ホメオパシー振興会に限らず、そういうご都合主義の団体には「科学的根拠に基づく医療の否定による死亡」を批判する資格はないし、自浄作用も期待できないと思う。自浄作用があるならそもそもホメオパシー団体は自己批判で団体を維持できないことになるはずだ*14

日本ホメオパシー振興会の実態

世間には、一部の団体が過激派なだけで、それ以外の穏健なホメオパシーなら大丈夫と考える風潮があるようだ。確かに日本ホメオパシー振興会はホメオパシージャパン系のものほど目立たず一見穏健にも見える*15。では、日本ホメオパシー振興会なら大丈夫だろうか?
私はそんなことはないと思う。確かに理論上、より安全な団体というのはありうる。しかし、ホメオパシーに関して言えば、-100か-50かの違いで+にならないだろうと私は思う。これはホメオパシー自体に効果はない上に、上記のような自浄作用のなさ故のリスクが存在するためだ。

日本ホメオパシー振興会のリスクの具体例として彼らの予防接種に対する姿勢を見てみよう。

このような、極端なことをいうと「百害あって一利なし」といってもいいような予防接種が、どのような歴史を経て、現在のような広く普及してしまうような状況になってしまったのか、少し考えてみたいと思います。ここに来られた方は違うと思いますが、一般的には、予防接種は絶対受けなければいけないし、予防接種を受けないなどというのは、子どものケアを怠っているような親であると批判される風潮にあるわけです。あそこの親はそんなこともしないでということになってしまうと思います。どのような背景を経てそのようになってしまったのか、歴史的に考えてみたいと思います。

(中略)

これに対して、ホメオパシーは歴史的に感染症に大きな効果を発揮してきた歴史があります。副作用の心配もほとんどありませんし、副反応とか、子ども自体の成長を妨げることもありません。予防接種は効くかどうかすら怪しいですし、やる必要もありません。それではホメオパシーでは何ができるのか、については永松先生にお話していただきます。

(引用元:http://nihon-homeopathy.net/archives/yobousessyu_1.htm 強調は引用者による。)


引用部分は松本丈二こと大瀧丈二氏*16の言であり、引用部分以前にはワクチン製造に用いられる水銀などの化学物質について説明するなど*17し、中略部分では予防接種の効果とされるものは実は上下水道の整備による衛生状態の向上によるものだ等の強引な論理が展開されている。天然痘が撲滅されたのはなんだったのか? 世界中に上下水道が整備されたからなのか?


次に松永永松先生登場である。松永永松先生とは日本ホメオパシー振興会系のスクール、ハーネマンアカデミーオブホメオパシーの学長の永松昌泰氏のことだ。

松永永松"先生"は、この手の人に定番のエネルギー的な話をしたり*18しながら、「ホメオパシー的予防レメディー」の話を始める。

強制的な要請がない場合でも、何らかの病気が流行っているというときには色々な方法があります。ホメオパシーにはさまざまなレメディーがあります。「ホメオパシー的予防レメディー」*1と書いてある、お配りしたプリントの中にレメディーが書いてあります。

(引用元:http://nihon-homeopathy.net/archives/yobousessyu_2.htm 強調は引用者による。)


「強制的な要請がない場合でも」とあるが、実は引用部分の前の項で、流行地域に行く時には予防接種もやむなしという見解が述べられている。この辺りは穏健と言えなくもない。それに、他の部分も含め「ホメオパシー的予防レメディー」が予防接種の代わりになるとは書かれていないのだ。

ただ、松本先生に「極端なことをいうと「百害あって一利なし」といってもいいような予防接種*19」とまで言われては予防接種は止めて、その代わりにレメディで何とかしようという人が出てきても仕方ないのではないか。しかし、この書き方はそこまでは言っていないという言い訳の余地を残しているように見える。

このように絶妙な語り口でホメオパシーに誘う文章が続くわけだが、ちょっと恐ろしいエピソードが紹介されている。

この間、ファーストエイドの授業の中で松本先生に予防接種のお話を頂きました。そのときはもっと時間があったので、もう少し詳しい話がありましたが、以前は一緒に麻疹にかかるパーティー(笑)とかがあったりしたわけです。ある子どもが麻疹になったときは良いチャンスなので、一緒に麻疹になりに行くわけです。そして、麻疹をもらって帰ります。そうすると、みんな麻疹になっているので安心して麻疹になります。何かお祝いという感じになるのです。起こっていることは、いわゆる病気ではあるのですが、起こるべきことがちゃんと起こっている、とてもいいことが起こっているということを、みんなでシェアしているわけです。

(引用元:http://nihon-homeopathy.net/archives/yobousessyu_2.htm 強調は引用者による。)


やはり普通の感覚ではないようだ。

*1:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100709-OYT1T00173.htm

*2:http://d.hatena.ne.jp/mohohoman/20070603/1181146254

*3:http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?no=1342&reno=no&oya=1342&mode=msgview&list=new

*4:http://d.hatena.ne.jp/mohohoman/20070602/1181146227

*5:ホメジャ系の日本ホメオパシー医学会とは別団体である

*6:http://www.hahnemann-academy.com/blog/2008/07/post_26.html

*7:実はこの長文のコメントを出す前に短文のコメントをトップページに載せていた。この後、「ご冥福をお祈り」する言葉を追加したバージョンを掲載した。哀悼の意を表するコメントを「代替医療に関する本会の見解」としてリンクしてしまった日本助産師会と通じるものを感じる。http://sp-file.qee.jp/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%A5%DB%A5%E1%A5%AA%A5%D1%A5%B7%A1%BC

*8:しかし、このコメントには「骨折の整復は通常、整形外科で行っていますので、それをすることもホメオパシーの一部です。」とある。これは真のホメオパシーなんだろうか。ハーネマンがそんなことを言っていたとは思えないが。

*9:http://northpole587.blog17.fc2.com/blog-entry-75.html

*10:それ以外に根拠になるものがあるだろうか?

*11:もちろん、厳密にいえばプラセボと有意な差が認められないということ。

*12:A. Shang, et al. , The Lancet 366, 726 (2005).

*13:もちろん、スルーしていない。ホメオパシーを否定する論文は間違いだ、等の言い訳は想定される。

*14:この辺りの議論はこちらと共通する部分がある。http://t2sy8u.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-023e.html

*15:一つには規模の違いはあるだろうが。

*16:http://www.hahnemann-academy.com/teacher/profile.html 驚くべきことに琉球大学理学部教員。

*17:ワクチンに添加されることがある防腐剤チメロサールは確かに水銀を含み自閉症との関係が取り沙汰されていたが、現在では否定されている。http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20090212/p1 また、チメロサールを含まないワクチンもある。

*18:さすが「慶應大学、コロンビア大学、パリ大学で量子力学、数学、哲学、文学を学び、音楽、宗教、武道などに至る幅広い関心がホメオパシーに直結。」してしまっただけのことはある。http://www.hahnemann-academy.com/teacher/profile.html

*19:なるほど。「百害あって一利なし」と言い切っていない。