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科学とニセ科学について書くブログ

ホメオパシー支持者は『天動説を唱えたガリレオ』だッ(キリッ

由井寅子氏が代表を務めるホメオパシージャパン系団体、日本ホメオパシー医学協会が今度は週刊新潮の記事にコメントを出した。
http://jphma.org/About_homoe/jphmh_answer_20100819.html

新潮の記事に一定の評価を下す日本ホメオパシー医学協会

新潮の記事は取材に基づく独自情報が少なくて私は物足りない印象を持ったが、日本ホメオパシー医学協会は朝日新聞の記事に対するものと比べて、ずっと好意的な評価を下している。

今回の週刊新潮の記事では、朝日新聞社科学医療グループのようなホメオパシーならびにJPHMAたたき一色の一方的な記事とは異なり、マスコミでもはじめて、ホメオパシー新聞に書かれたJPHMAの見解がとりあげられました。また、取材を受けたJPHMA提携クリニックの山崎クリニック(佐賀県唐津市)の山崎実好院長のコメントも掲載されています。

(中略)

このようにホメオパシー療法を実際に使った多くの臨床経験がある医師の声を紹介するということは、ホメオパシーの有効性に対して正当な判断を下す適正な材料になると同時に、公正な報道において必要なことであると考えます。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_answer_20100819.html 強調は引用者による。)


ちなみに、新潮の取材を受けたという山崎クリニックのウェブサイトを確認すると

小児外来
1 当診療所では小児への投薬をなるべく行わないという診療方針のもとで外来診察を行っています。そこで治療は、副作用のないホメオパシー療法が中心となります。

(中略)

リハビリテーション外来
慢性の腰痛、肩こり、膝痛、頭痛、神経痛、アトピー性皮膚炎、不眠などに対して、ヘルストロンや、ホメオパシーの*レメディで対処いたします。

(中略)

*レメディ…薬の代わりに治療に使うもの

(引用元: http://yamasakiclinic.jp/sinryouannai.html 強調は引用者による。)


という読んでいてヒヤヒヤするような説明が書かれている。このような偏った考えをもったクリニックが取材を受けることでホメオパシーの実態が露呈してしまわないかに関する誤解が広まらないか、私は心配するばかりだ。

有名人も使っているホメオパシー

新潮の記事は『「ホメオパシー」にハマっている有名人』という見出しで、本文中ではホメオパシーを使っている有名人を列挙していた*1日本ホメオパシー医学協会はそれに対抗してか、女優、オカルティスト、19世紀のローマ教皇などを含む215人ものホメオパシーに関係する著名人を羅列した。あまりにも長大なのでその部分は引用しないが、出典の記した部分にはこう書かれている。

(「ホメオパシック・レボリューション--世界の有名人・文化人がホメオパシーを選ぶ理由--<仮題>」(ホメオパシー出版 9月25、26日つくばにて販売予定)より紹介 ※ここで紹介した人物は、本書に登場する著名人の一部になります。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_answer_20100819.html 強調は引用者による。)


「あの有名人も使っている?!」というある意味使い古された"胡散臭い"宣伝手段を、世間から疑惑の目を向けられているこのタイミングで披露してしまった*2日本ホメオパシー医学協会、さすがである。


ちなみに、類似の方法は、進化論を否定し「何らかの知的な存在が生物を設計した」とするインテリジェント・デザイン説を広めようとする勢力*3によっても実施された。彼らは「進化論に納得しない科学者が多いこと」を印象付けるために、そのような"科学者"の署名を集めて公開している*4。これに対抗してNational Center for Science Educationはスティーブという名前の科学者限定という条件で進化論を支持する科学者の署名を集める活動、プロジェクト・スティーブを開始した*5。スティーブという名前をもつ科学者は全体の1%程度だと推定されているが、プロジェクト・スティーブの署名数はどうやらインテリジェント・デザイン支持者たちの活動の署名数を上回っているようだ。


ここで私が、ホメオパシーを利用したことがある有名人のリストに対抗して、インテリジェントデザイン説・創造論を信じる有名人リスト*6を作ることも可能だが、それはインテリジェントデザイン説・創造論が有名人の中で大勢を占めていることを意味しないし、ましてやその珍説の正しさを何ら保証してくれるものではない。

ホメオパシー支持者は『天動説を唱えたガリレオ』?

珍説を主張する人々はしばしば自分たちのことをガリレオやダーウィンに例えることがある。自身の主張が世間に受け入れられない現実*7を彼らに重ねあわせているわけだ。言うまでもないことだが、ガリレオの例は正しい考えがすぐに世間に受け入れられるとは限らないということを示しているに過ぎないのであって、ある考えが世間に受け入れられないからと言ってそれがガリレオの考えと同様に正しいという保証はどこにもない。つまり、これは典型的な詭弁である。この種の詭弁は日本以外でも使われているようで、英語圏にはGalileo gambit/Galileo Fallacyという表現があるようだが*8、ここではガリレオ論法と呼ぶことにしよう。

今回の日本ホメオパシー医学協会のコメントを見る限り、先程の著名人リストの出典とされる『ホメオパシック・レボリューション--世界の有名人・文化人がホメオパシーを選ぶ理由--<仮題>』の中でもガリレオ論法が使われているようなのだが、由井寅子 会長による監修者まえがきに登場するそれは、そんじょそこらのガリレオ論法とは一味違うようだ。

いずれにせよ、ホメオパシーと物質ベースの医薬品とでは、作用のしかたがいかに異なるかが、ご想像いただけるのではないでしょうか。現代医学の発想の枠組みから理解しようとする限り、混乱や誤解を招きやすいのも無理からぬことです。著者は冒頭で天動説を唱えたガリレオを引き合いに出しています。いまとなっては周知の事実でも、当初は突拍子もない考えだと馬鹿にされたり異端視されたりした事例は、過去にいくらでもあります。しかし信じられないといってホメオパシーを切り捨ててしまうには、有力なデータや体験談が多すぎるといっているのが本書であり、またわたしたちの活動を通じた実感でもあるのです。

(引用元: http://jphma.org/About_homoe/jphmh_answer_20100819.html 強調は引用者による。)


ガリレオが提唱したのは地球が太陽を中心に公転しているとする地動説であって天動説ではない。むしろ天動説こそが当時の教会によって権威付けられていた迷信なのであって、ガリレオはそれと対立する科学的な仮説である地動説を唱えたことで異端審問にかけられたのだ。この本の原著者が地動説と天動説を混同しているか、監修者の由井氏が混同しているのか、あるいは他の誰かの単純な誤植・誤訳なのかは分からない。いずれにしても単純ミスの可能性が高いと思う。


なぜなら意図して自分たちホメオパシー支持者のことをもはや時代遅れの迷信である天動説を信じている哀れな"ガリレオ"に例えて、皮肉にも現実を露呈してしまう人などいるはずもないのだから。

*1:ただし、私が読んだ限りでは「怪しい健康法にハマっている有名人」というような語り口で好意的には読み取れなかった。

*2:実は前々からこの手のリストは公開しているがこれほどの数はなかった。 http://www.homoeopathy.co.jp/introduction/tyomeijin_index.html

*3:実質的には旧約聖書の記述を文字通りの事実と考えるキリスト教原理主義者たちのグループ。

*4:http://www.dissentfromdarwin.org/about_jpn.php

*5:http://ncse.com/taking-action/project-steve

*6:アーカンソー州知事で前回の大統領選に立候補したことで知られるマイク・ハッカビー氏、ハリウッド俳優のチャック・ノリス氏、生化学者のマイケル・ベーエ氏など。

*7:場合によってはそれに加えて迫害を受けているという妄想。

*8:http://rationalwiki.org/wiki/Galileo_fallacy