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科学とニセ科学について書くブログ

放射能の影響でチョウに異常が生じたとする大瀧准教授、ホメオパシーセミナーでかく語りき

時事通信が報じた*1ように琉球大学の大瀧(松本)丈二准教授らのグループは、福島第一原発の事故に由来する放射性物質の影響によりチョウの一種ヤマトシジミに異常が生じているとする論文を発表した。論文はオープンアクセスの科学雑誌Scientific Reportsに掲載され、ウェブで誰でも閲覧できる状態になっている。以下がその論文へのリンクである。

論文の信憑性について

信憑性についての考察は下記に詳しい。

また、Twitterでも以下のような議論がなされている。

過去に行われた青森県のヤマトシジミに関する研究との関係について

大瀧氏らのグループは、過去に青森県のヤマトシジミの研究で低温により遺伝性の変異が生じることを報告していた*2。低温によっても変異は生じるのだから、福島のチョウの変異の原因が放射性物質だとは言い切れないではないか、というのは至極当然のツッコミである。また、大瀧氏らが今回の論文で主に福島以南のデータを採用し、青森等の福島以北のデータをほとんど用いていないことも疑念の的になっている。例えば先述の『むしブロ+』の記事では、このデータの採り方に関して以下のような見解が示されている。

今回の論文では、ヤマトシジミの翅などの形質を福島周辺の個体群とそれよりも南に棲む個体群とで比較しており、福島個体群の奇形発生率の高さを根拠に放射線の影響を訴えている。奇形発生率と環境放射線量が相関しているかのように見せるために狙って実験計画を組んだ、確信犯だと言われても仕方のない研究内容である。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/horikawad/20120813/1344814974 強調は引用者による。)


原発から遠いにも関わらず変異を生じている北部のヤマトシジミのデータを不都合なものとして作為的に調査対象に含めなかったのか、そうすべき合理的理由があったのか、あるいは深い考えもなく主に福島以南だけで論文をまとめてしまったのかは分からない。しかし、後述の大瀧氏の科学者としての不誠実な発言を見ると、大瀧氏の論文のデータの偏り(のように見えるもの)を好意的に解釈することは私にはできそうもない。

ただし、一部で大瀧氏が自信自身の過去の研究を無視しているとする向きがあるが、それは誤解なのでそのことは明確にしておこう。

This outbreak of abnormal phenotypes in the Fukushima area is very different from the outbreak of wing colour-pattern changes previously observed at the northern range margins of this species, i.e., the Fukaura area(27), which is located approximately 400 km northwest of the Fukushima Dai-ichi NPP. The Fukaura populations at the time of the outbreak were composed of temperature-shock types that exhibit distinct wing colour-pattern modifications but no other wing modifications or aberrations. Moreover, to the best of our knowledge, no malformations of appendages and other parts have been detected(27), (41), (42), (43).

(引用元: http://www.nature.com/srep/2012/120809/srep00570/full/srep00570.html)


27番の引用文献は、先述の大瀧氏が青森のヤマトシジミを対象にして行った研究である。大滝氏らはその論文を引用した上で、今回彼らが放射性物質の影響とみなしている異常と青森で観察された異常とは"very different"だと述べている。とはいえ、本論文の中で同じ基準で定量的に両者を比較したデータは示されておらず、この主張に説得力がないのも事実だ。

結局、大瀧氏の論文には拭い去れない疑問点が残されている。

大瀧氏とホメオパシーの関係について

すでに指摘されているように大瀧氏とホメオパシーとの間には、ただならぬ関係がある。具体的に言えば、大瀧氏は少なくともホメオパシーの宣伝者であり、(そう装っているのでなければ)ホメオパシー信奉者であるということだ。

例えば、すでに何度か当ブログで指摘しているように、日本ホメオパシー振興会のウェブサイトで大瀧氏はホメオパシーと予防接種について以下のように語っている。

一言で言うと、インフルエンザ・ワクチンだけではありませんが、ワクチン接種というのは、百害あって一利なしということになるでしょう。統計的にも効果がないことが証明されています。

(引用元: http://nihon-homeopathy.net/archives/yobousessyu_1.htm 強調は引用者による。)


また、予防接種が普及した時期と都市の衛生環境が改善された時期が一致すると主張し、予防接種の無効性を説いた上で

これに対して、ホメオパシーは歴史的に感染症に大きな効果を発揮してきた歴史があります。副作用の心配もほとんどありませんし、副反応とか、子ども自体の成長を妨げることもありません。予防接種は効くかどうかすら怪しいですし、やる必要もありません。それではホメオパシーでは何ができるのか、については永松先生にお話していただきます。

(引用元: http://nihon-homeopathy.net/archives/yobousessyu_1.htm 強調は引用者による。)


とホメオパシーを薦めつつワクチン忌避に誘導している。

大瀧氏がホメオパシーのセミナーで語ったこと

下記はホメオパシースクールの一つ、ハーネマンアカデミーオブホメオパシーのウェブサーバーに残された2年前のセミナーの映像である。講演者は同スクールの学長の永松昌泰氏と大滝氏で、テーマは「ホメオパシーの科学性〜その作用とメカニズム〜」だ。


映像の冒頭からしばらくは永松氏がホメオパシーに対する統計学的批判についての言い訳を長々と述べている。その言い訳を受けて、大瀧氏は統計について以下のように語っている。

そうですね、あの、さきほどの永松先生の話を聞いてて一つ思ったことはですね、あの、統計の話。あの、統計ってのは非常にね、あの、それこそトリックなんです。で、永松先生おっしゃったようにね、統計って言う間はいかにも統計で処理されていると非常にそれが正しくて、統計的に否定されるとそれが嘘だ、そういう感じのね、印象をどうしても受けてしまう。

(引用元: http://hahnemann.jp/seminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flveminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flv http://hahnemann.jp/seminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flv 22:35〜 強調は引用者による)
(中略)

特に生物学の場合は、どういう視点で、もうなんか何度も言ってきたけど、繰り返してるようになりますけど、どういう視点で何を測るかというのがちょっと違うと統計の結果が本当に違ってくるんですよ、がらっと。だから極端なことを言うと出したい統計っていうのは出せるし、出したくないものは出せない。でもそれはサイエンスとしてずるをしているわけではなくて、それが科学なんです。だから、我々サイエンティストはね、ある意味統計が必要だというのは認めているんですけど、必ずしも統計に固執しないんですよ、実は。それはどういうことかというとね、あの、統計っていうのは我々、まぁ、あの私の先生が昔言ってたことは、統計はお化粧みたいなもの、で、その、自分が出た結果に最終的に何かいかにももっともらしく正当化するのが統計。正当化するっていうのとでっち上げるのとはまた違いますからね。それは、あの、適切な普通の意味でのサイエンス。でも、それはお化粧にすぎなくって、もしその統計テストが、違いがない、有意でないというふうにね、否定したとしてもね、その研究者がいやこれは絶対違うんだと、なにか違いがあるんだと思えば、やっぱり違うんですよね。ただ、その統計テストに乗ってこないだけの話なんです。だから、統計っていうのは飽くまでも、その、なんて言うかな、その研究者の主観というか、感性を反映させるために使うもの、実際そういうふうにしか使えない、統計は。

(http://hahnemann.jp/seminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flveminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flv http://hahnemann.jp/seminar/100719_osk_matsu/flv/20100719_4-200k-wt.flv 24:32〜 強調は引用者による)


統計に関してこのような見解をもつ大瀧氏が論文で述べる、統計学に裏付けられているはずの主張は信用に値するのだろうか。もちろん、少なくとも一般論としては論文はその内容によってのみ審査・評価されるべきである。また、今回の大瀧氏の論文にはホメオパシーのホの字も出てこない。しかしそうだとしても、大瀧氏は自身の過去の発言に責任を持つべきだし、大瀧氏に対する科学者としての評価と信頼が過去の言行に左右されるのは当然のことである。

そして、この種の話が当てはまるのは何も大瀧氏に限ったことではない。ホメオパシーの効果を肯定することは統計学とも物理学とも生物学とも相容れないことがもはや明白になった今日において、ホメオパシーの効果を肯定した上で科学的に正当かつ一貫した立場をとれる人がどこにいるだろうか。

*1:http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2012081001219

*2:http://www.biomedcentral.com/1471-2148/10/252