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科学とニセ科学について書くブログ

鳩山由紀夫元首相と日本ホメオパシー医学協会会長の由井寅子氏のファーストコンタクトが確認される。

日本ホメオパシー医学協会会長の由井寅子氏と民主党衆院議員の鳩山由紀夫元首相との接触が確認された。

由井氏はあの『毒と私』を鳩山氏に渡す

由井寅子氏は民主党の『統合医療を普及・促進する議員連盟』の会合に参加し、同議連の会長を務める鳩山氏に自著『毒と私』とDVDを手渡したそうだ。

由井会長からは会議終了後、鳩山前首相に、ホメオパシー治癒のエビデンスとしてホメオパシーでの発達障害など難病の治癒症例集のDVDおよびホメオパシーバッシングの真相を由井会長自身が執筆した「毒と私」を贈呈しました。

(引用: http://news.jphma.org/2012/09/95-ddab.html 強調は引用者による )


由井氏側の発表では『ホメオパシーバッシングの真相を由井会長自身が執筆した「毒と私」』とあるが、これは私がこの本を読んで理解した内容とは大きく異なる。私の理解によれば、同書は『死亡事故の責任を転嫁し、被害者のプライバシー*1を晒した怪文書』である。

政府・与党とホメオパシー団体との関係は変わったのか

これまでも民主党統合医療に積極的だった。2009年の政策集には「統合医療の確立ならびに推進」とする項目があったし、日本統合医療学会と政府・与党との間には双方向的繋がりが続いている*2。下記は2010年8月の時点で確認できた情報にもとづいて作成したホメオパシー団体と政府・与党を含む関係団体との相関図*3である。



重要なことは、この当時は、政府・与党と双方向的関係にあったのは日本ホメオパシー医学会と繋がりの深い日本統合医療学会学会のみだったということだ。当時は一方的に厚労省にアプローチするだけの存在だった日本ホメオパシー医学協会会長の由井氏が、今回はある程度双方向的なやり取りを行うことに成功した。これは新傾向である。*4


では、具体的には、どんなやり取りがあったのだろうか。由井氏側の発表によれば由井氏にも発言の機会が与えられ厚労省の担当者との間で以下のようなやり取りがあったらしい。

由井会長の発言を受け、厚労省の担当者からは、「エビデンスについては、RCTメタ分析だけでなく様々なグレードがあるとの意見を聞いており、ケースレポートでも一つのエビデンスになりうると思っている。」という見解をいただきました。今後、科学的な説明が難しい療法であっても、ケースレポートの集積で一定の評価が可能とされる流れになるのであれば、日本におけるホメオパシーの社会的地位も確保されるのではないかと期待されます。

(引用: http://news.jphma.org/2012/09/95-ddab.html )


また、今回の会合の位置づけ・参加者の選定方法は定かではないが、由井氏側の発表によれば、

通常は、この会合は厚労省担当者と国会議員のみの参加で行われるものですが、今回は8月6日に開催された政府の統合医療に関する第3回検討会についての厚労省からの報告が主要議題でもあり、漢方、アロマ、鍼灸、柔道整復、臨床心理、温泉など各療法に取り組む各療法団体初めて招かれました

(引用: http://news.jphma.org/2012/09/95-ddab.html 強調は引用者による )


とあり、直接的な言及はないが、由井氏の団体"も"招かれたとみなしても不自然な点は見当たらない*5。さらに、鳩山氏側も自身のウェブサイトにおいて、他の団体とともに由井氏のホメオパシー団体の名前を堂々と挙げている。

2012年9月6日、第12回 統合医療を普及・促進する議員連盟鳩山由紀夫会長)が開催されました。厚生労働省より「統合医療」のあり方に関する検討会についてのヒアリングを行い、ご出席賜りました関係団体の皆様と意見交換会を行いました。

出席団体(順不同)
一般社団法人日本統合医療学会
公益社団法人日本柔道整復師
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会
公益社団法人日本アロマ環境協会
日本漢方生薬製剤協会
一般社団法人日本臨床心理士会
一般社団法人国際和合医療学会
一般社団法人日本温泉気候物理医学会
一般社団法人日本ホメオパシー医学協会
名古屋大学大学院 医学系研究科 統合診療医学

(引用元: http://www.hatoyama.gr.jp/activity/detail.php?id=119 強調は引用者による )


他の団体と同列に書かれているところを見ると、由井氏の団体だけが一般公開されている会合に押しかけて一方的に持論を披露したとは考えにくい。ただし、招かれたというのが単に"募集された"程度の意味で、鳩山氏は単に募集に応えて会合に参加した団体の名前を列挙しただけという可能性も排除できない。


結局のところ、今回の一件だけでは由井氏らのホメオパシー団体と政府・与党との関係が偶発的なものなのか、それ以上の意味を持つものなのかは判断できない。両者の関係がどのように推移していくのか今後も注視を続ける必要がありそうだ。

*1:正確に言えば、プライバシーともとれる情報である。述べられているのは由井氏側の一方的主張であり、事実かどうかは実に疑わしい。しかし、事実であれどうであれ、ああいったことを本に書くというのは信じられない無神経さと言わざるをえない。引用するのも忍びないほどだ。

*2: 最近では議連メンバーと共同で視察を行っている。http://imj.or.jp/news/110901.html

*3:相関図の詳細は http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100815/1281855817

*4:ちなみに、医師である帯津良一氏が理事長を務める医学会が医師等の公的資格の保持者にのみホメオパシーを認める立場であるのに対し、医師ではない由井氏らの団体は当然そうではない。両者は同じホメオパシー信奉者でも水と油だ。

*5:ただし、これが由井氏側の発表であることには依然として留意すべきだろう。