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科学とニセ科学について書くブログ

「『サプリメントは効果なし』記事の不勉強」へのツッコミ

BLOGOSの『「サプリメントは効果なし」米医学誌がバッサリ』という記事に対して、『「サプリメントは効果なし」記事の不勉強』という批判記事が書かれた。

私は、後者を書いたid:appleflower氏の、元論文をきちんと読もうというスタンスに完全に同意するところである。しかしながら、この件に関して言えば、同氏の指摘に対して同意しがたい部分がある。そこで、本エントリーでは後者の記事に関してツッコミを入れようと思う。

ツッコミの前に。そもそもサプリメントは効くのか効かないのか

言うまでもないことだが、私は頭ごなしにサプリメントが何かに効くとか、何かに効かないと主張するつもりはない*1。それはひとつには、大変つまらないことに、私がこの分野の専門家ではなく、自信を持って明確な結論を下せないということにある。

もう一つの理由は、サプリメントが効くかどうかということは、条件次第の問題であって、単純には答えられないということにある。例えば、あるビタミンはそのビタミンの欠乏状態にある人に効くことは間違いない。そうでないなら、その物質はビタミンと呼ぶに値しないからだ。そして、ビタミン摂取量がどのレベルを下回れば欠乏と言えるかという閾値にも当然曖昧性がつきまとう*2

以上のような理由から、私はマルチビタミン、あるいは特定のビタミンが何かに効く、あるいは効かないという主張をそう安々と述べることはできないし、ここで効果の有無に関する主張を展開するつもりはない。*3

ツッコミ本編

第1の論文に関して

id:appleflower氏は、『「サプリメントは効果なし」米医学誌がバッサリ』の記事の元ネタになったと思われるAnnals of Internal Medicine誌の論説記事とそこで引用された3報の論文を挙げ、サプリメントの有効性を擁護している。同氏は「第1の論文」に関して、以下のように述べている。

第1の論文は、マルチビタミン心筋梗塞を起こした人の再発を防止するか、という臨床研究でした。マルチビタミン群とプラセボ群の間に有意差なし、という結論ですが、実はマルチビタミン群のハザード比は0.89で、有意ではないものの死亡リスクは低くなっています。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/appleflower/20131225/p1 強調は引用者による。 )


重要なことは、「有意差なし」ということだ。これは、第1の論文がマルチビタミンの有効性を統計学的に立証することに失敗したという結論の論文だという動かしようのない事実を意味する。もちろん、id:appleflower氏が指摘し、論文の著者たちも認めているように、これに関しては方法論的問題により効果があったとしてもそれが検出できなかった可能性が残されているのも事実。従って、この論文だけをもってサプリに効果がないというのが時期尚早であるというのなら分からなくもない。しかし、現時点では可能性は可能性であって効果が実際に示されたわけではないことを強調したい。*4

第2の論文に関して

第2の論文は、マルチビタミンが健常な高齢者の認知機能の低下を予防できるか、という臨床研究です。この研究では確かにマルチビタミン群とプラセボ群の間に有意差はなく、違いがありそうな様子も見られませんでした。

しかし研究者らも述べていますが、この研究の対象になったのは全員が米国の男性医師でした。つまり健康維持の知識もあり、いいものを食べて栄養も足りている人々です。そういう人々には、マルチビタミンの上乗せ効果は無かった、ということです。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/appleflower/20131225/p1 強調は引用者による。 )


重要なことは、「有意差なし有意差はなく」ということだ。これは、第2の論文がマルチビタミンの有効性を統計学的に立証することに失敗したという結論の論文だという動かしようのない事実を意味する。もちろん、id:appleflower氏が指摘し、論文の著者たちも認めているように、これに関しては方法論的問題により効果があったとしてもそれが検出できなかった可能性が残されているのも事実。従って、この論文だけをもってサプリに効果がないというのが時期尚早であるというのなら分からなくもない。しかし、現時点では可能性は可能性であって効果が実際に示されたわけではないことを強調したい。


第1と第2の論文に対するid:appleflower氏の評価に関して私が共通して言いたいことは、これらの論文の弱点を指摘するのは全く正当なことだが、これらの論文の結論を曲解してはいけないということだ。弱点が致命的だからこれらの論文が信用ならないと批判するならまだいい。そうではなく、これらの論文を支持した上で、有意差が認められなかったという主たる結論を軽くあしらい、「別の可能性」の方に主眼を置いた主張を展開することは、正当な態度とは言えないと思う。

第3の論文に関して

著者らの結論は次のようなものでした: (過去の論文をすべてまとめると)ビタミン・ミネラルが心臓動脈疾患やがんを予防するという根拠は限られている。しかし、男性ではマルチビタミンががんのリスクを下げるという質の高い研究が2つある。

つまりこれは「効果がない」という論文ではなく、男性においてはがん予防効果がある、と認めているのです。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/appleflower/20131225/p1 強調は引用者による。 )


実際、この論文にどう書かれているかというと、

In conclusion, we found no evidence of an effect of nutritional doses of vitamins or minerals on CVD, cancer, or mortality in healthy individuals without known nutritional deficiencies for most supplements we examined. In most cases data are insufficient to draw any conclusion, although for vitamin E and β-carotene a lack of benefit is consistent across several trials. We identified 2 multivitamin trials that both found lower overall cancer incidence in men (19, 21). Both trials were methodologically sound, but the lack of an effect for women (albeit in 1 trial), the borderline significance in men in both trials, and the lack of any effect on CVD in either study makes it difficult to conclude that multivitamin supplementation is beneficial.

(引用元: http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=217683http://annals.org/article.aspx?articleid=1767855 強調は引用者による。)


というように、マルチビタミンの有効性の根拠は見つけられなかったというのが主な結論で、ガンに対する有効性の話に関しては、かなり消極的・否定的な評価がなされていることが読み取れる。id:appleflower氏の解釈が180度ずれているとは言わないが、実際に元論文を読んでみるとその印象はかなり違ってくるように思う。

論説記事について

以上の3論文を引用してサプリメントの有効性を否定した論説記事に関し、id:appleflower氏は以下のような批判を加えている。

このようにこの論説は、3つの論文を引用した形をとりながらも、実はそれらの内容を正しく伝えたものではありません。3つの論文から自分に都合の良い部分だけを切り取り、日頃の自説を強引に主張しただけの、科学者としてはあるまじき、客観性と慎みを欠いた感情的・政治的な文章だと言って良いでしょう。

(引用元: http://d.hatena.ne.jp/appleflower/20131225/p1 強調は引用者による。 )


残念ながら私は件の論説記事を読んでいない。もしかしたら、そこには過剰な煽りがあったのかもしれない。そうだとすればそれは批判されてしかるべきだ。では、id:appleflower氏の記事はどうなのか? 率直に言って、id:appleflower氏が論説記事に加えた批判は、同氏自身に(も?)当てはまるのではないかと私は疑っている。

*1:世の中に「私は頭ごなしに~と主張します。」などという人はいない。

*2:実際、厚生省・厚労省はビタミンの所要量を改定する場合がある

*3:ただし、サプリメントは日本では制度上、食品であって、業者が効果を宣伝することが合法でないことは、紛れも無い事実だ。

*4:絶対にサプリメントに効果がないという極端な主張に対しては、効くかもしれないという可能性を指摘すること自体が有意義な批判となることを私は認める。