Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

PC1台で誰でも参戦できる合成生物学のコンテストGenoConのすゝめ

GenoCon*1とは、理化学研究所の生命情報基盤研究部門が主催する"情報合成生物学"のコンテストである。 このコンテストは、過去に例を見ない斬新な試みであり大会自体の歴史も浅いこともあってか、残念ながら世間の認知度はまだそれほど高くないように思う。そこで本エントリーでは、専門外の人がGenoConに参加する取っ掛かりをつかめるように、その概要と魅力を解説する。なお、当ブログはGenoCon主催者とは無関係であり、当エントリーの内容は非公式なものであることにご留意いただきたい。

GenoConは何を競うコンテストなのか?

GenoConは、一言で言えばWeb上で有用な遺伝子組換え植物を設計し、その出来栄えを競うというものである。より詳しくいえば以下のような流れでコンテストは進行する。

  1. 主催者が課題を設定する。
  2. その課題を達成すべく、コンテスト参加者が植物に導入するDNA配列をWeb上のツールで設計し、成果物を提出する。
  3. 主催者側がそれらの提出物を審査し、その審査をパスすれば実際にそのDNAが合成されて植物に組み込まれる。
  4. 出来上がった遺伝子組み換え植物が課題をどの程度クリアしているかが実験によってさらに審査され、受賞者が決定する。


GenoCon2012のテーマは以下の2つ。

GenoCon2 課題 A: 組織/時期特異的な遺伝子発現をコントロールする人工植物プロモータをデザインせよ!
GenoCon2 課題 B: 空気中からホルムアルデヒドを除去して効果的に無毒化する機能を、実験植物のシロイヌナズナに付与するための塩基配列をデザインせよ!

(引用元: http://genocon.org/ja/challenges/)

現在、課題Bの募集はすでに終了しているが、課題Aは募集継続中のようだ。課題BではJavascriptによるプログラミングの知識がある程度必要だが、課題Aは主催者側が用意したCADツールを使ってプログラミングなしでDNAを組み立てることもできる。

GenoConの魅力

合成生物学のコンテストとしてはマサチューセッツ工科大学が主催するiGEMがすでに一定の成功を収めている。iGEMは、参加者が発案から遺伝子組み換え実験、発表までを行うという方式のコンテストだ。iGEMの大学生と院生に限られている。しかも、アメリカへの渡航費用も含めて参加費はすべて参加者持ちである。参加のハードルは大多数の人にとってかなり高いと言えるだろう。
一方、GenoConは参加者が行うのはコンピュータ上のデザインだけで、実験はすべて主催者側がやってくれる。高校生以上なら誰でも参加できる*2。さらに参加費は無料である。PCを動かすための電気代、必要な論文を読むための諸経費などは当然参加者持ちだが、渡航費用どころか外に着ていく服がない人でも家にネット環境とPCさえあれば参加可能である。

DNAのオープンソース

GenoConがiGEMと異なるところは他にもある。それはGenoConではDNAのデザインが基本的にはプログラミングによってなされるということだ。*3。これは元来研究者の経験に頼るところが多かった*4DNAの設計をプログラミング言語によって客観的に記述させる狙いがある。さらにGenoConに提出されたプログラムはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで公開されることになっている。これには知識の再利用を促進するためだ*5。いわばDNAのオープンソースである。

DIYBIOとしてのGenoCon

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別のエントリでも紹介したが、アメリカでは自宅で分子生物学・遺伝子工学の実験・研究を行うアマチュア科学者たちが注目を集めている。一方、日本では法律上の制約により、一般家庭でこうした活動を行うのは困難だ。

GenoConは、設計と実験を分離し前者を研究機関に任せることで、日本の一般市民がバイオの分野に参画することを可能にしている。これは在野の分子生物学・遺伝子工学フリークにとって朗報だし、今後の日本のDIYBIOの活路はこうしたバイオインフォマティクス*6の分野にあるのかもしれない。

*1:公式サイトには「合理的ゲノム設計コンテスト」という正式名称(?)も書かれているが、ロボコンになぞらえてGenoConという愛称(?)が付けられているようだ。

*2:ただし、高校生は高校生部門、それ以外の人は研究者部門と別々にエントリーすることになる

*3:ただし、先述のようにGenoCon2012からはChallenge Aに関しては用意されたツールによるデザインも可能になったようだ

*4: どうやって異種の遺伝子を機能させるか、どうDNAを組み立ててれば狙った通りの機能を果たしてくれるか、うまく行かない時のトラブルシューティングは...といったノウハウは、研究室の先輩/教員から後輩への口伝によるところも大きい。それらのうちいくらかは論文や教科書に書かれていることだが、膨大な文献の中から有望な技術をピックアップし、どれをどう使うかとなると、人に聞くのが手っ取り早い。

*5:https://database.riken.jp/sw/wiki/ja/cria196s1ria196s5i/#QB5

*6:DNAを中心とする生物学的情報をコンピュータで扱う分野。生物情報学。