被災地でピースサインして記念撮影する由井寅子 日本ホメオパシー医学協会会長
日本ホメオパシー医学協会会長にしてホメオパシー博士の由井寅子氏が事前の予告通りに被災地入りした。同協会のウェブサイトでは写真と動画付きでその模様が紹介されている。
4月1日 福島
「放射線、X-ray、心経、祝詞のレメディー」を撒く由井先生ご一行
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110401_fukushima.html)
そう。「恥と思う」べきなのは、むしろ「得体のしれない」砂糖玉を撒いて義捐活動を気取っている由井氏らの方だろう。
「アクティブプラント、カブトムシ入りの腐葉土、ひまわりの種」を「寄贈」
果樹園の一部を借りて、由井会長を中心として、放射性物資による土壌汚染を改善していく研究が行われていきます。
協力する果樹園には、アクティブプラント、カブトムシ入りの腐葉土、ひまわりの種が寄贈されました。
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110401_fukushima.html)
由井氏がヒマワリの栽培が放射性物質による汚染除去に有効だと主張していたこととその問題点については、以前のエントリーで指摘した通りである。
「アクティブプラント」が何なのかは私にも分からない。「カブトムシ入りの腐葉土」がどう「放射性物資による土壌汚染を改善していく」のかも私には全く分からないが、一般的に果樹園においてカブトムシが害虫として扱われることは承知している。
県庁で担当者に義捐金の「目録」を受け渡す由井先生
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110401_fukushima.html)
今まさに多忙を極めていることが容易に想像できる福島県の防災担当者に、義捐金の「目録」を直接手渡す由井氏。
恥ずかしげもなく
『福島県庁の7階が受け渡し場所とのことでしたが、エレベータがとまっておりました。担当の方2名がわざわざ2階まで降りてきてくださり対応をいただきました。。』
などと書いてあるが、そんなことを恐縮する余裕があったら、端から「目録」を手渡しするなどというパフォーマンスじみた行為自体を遠慮するべきだ。
4月2日 仙台
瓦礫をバック撮った写真にポエムを重ねた日本ホメオパシー医学協会
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110402_sendai.html)
百歩譲って、被災地の実態を伝えること自体には意義を見出すことは可能かもしれない*1。しかし、そこに東京から来た由井寅子氏が映り込む必然性はないし、ましてや下らないポエムをかぶせる必要はないのだ。もしかすると、必要がないどころの話ではないかもしれない。それは、少なくとも私には、災地の惨状を「背景素材」としてポエムの演出に利用しているようにしか見えないからだ。
被災地でピースして「記念撮影」する由井先生
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110402_sendai.html)
被災地に笑顔があってはいけないとは言わないし、由井氏であろうと誰であろうと思わず笑顔になってしまうことがあるのは仕方がないことだ。しかし、「義捐活動」を報告するための写真で笑顔でピースする必要があっただろうか。「記念撮影」という言葉が実際に使われていることも彼女らの「義捐活動」の異常性を示す傍証と言えるだろう。
4月3日 盛岡
「土地の浄化」を撒いて、鎮魂を願う由井先生
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110403_morioka.html)
由井氏の行動が純粋に善意によるものだったとしても、こんなわけの分からないホメオパシーグッズで鎮魂を願われて良い気持ちがするだろうか。少なくとも私は写真を見ただけで非常に不愉快だ。
必然性もなく被災地の写真の映り込む由井先生
(引用元:http://jphma.org/gienkatsudo/20110403_morioka.html)
救援活動中の自衛隊関係者と何の必然性もなく現場の写真に映り込む由井氏は比較するのも躊躇われる。不明者の捜索が続けられているかもしれない傍らで、この記念撮影まがいの写真が撮られているかと思うと非常に嘆かわしい。
由井氏らは何がしたいのか、何をしているのか。
由井氏らの心中は想像するしかない。由井氏の行為は倫理的にも科学的にも誤りだらけだが、彼女が善意に基づいて行動している可能性を完全に排除することはできない。
想像ではなくはっきりと言えることは、由井氏らが、現実に被災地において無神経で許しがたい行動をとっているという事実だけだ。少なくとも私はそう思う。
*1:しかし、それは彼女らの仕事ではないだろう。
原発周辺の畑にレメディとヒマワリの種とデマを撒き散らそうとするホメオパシー関係者
過去の2エントリーではホメオパシーなる偽医療を信奉する人々が過去の震災に際していかなる行動に及んできたかと、今回の震災に際していかなる行動に及ぼうとしているかを指摘した*1。本エントリーでは日本ホメオパシー医学協会の由井寅子会長がウェブサイトで公表しているメッセージに含まれるデマについて指摘したいと思う。
由井寅子 ホメオパシー博士曰く、汚染された畑にレメディとヒマワリの種を撒け、そして生えてきたヒマワリは燃やせ
ホメオパシー博士の肩書きを持つ由井寅子氏は、放射性物質で汚染された畑を念頭に以下のようなアドバイスをしている。
セシューム137は、3カ月から30年間続くこともあり、農地を被曝からきれいにするためには、対策としてひまわりなど、どんなところにでも生える強い植物を植えて吸い上げさせることです。
その時にRAのレメディーを畑にまくこと、そして、そのひまわりの種は食べないで、全草燃やし、灰にすることです。本当にこれからどうやって、農業をやって行けばいいか、農家にとってもそこに住む人にとっても苦しいことになりましたね。被曝を無にできるようなものを早く開発し、日本中をきれいに浄化したいです。
今回私が訪れる時に、無農薬で育てた洞爺のひまわりの種を量は少ないけれど持って行きましょう。
苦しみの中で、皆でそれを乗り越えた時、智恵に変わります。とりあえず、今は、ふて寝して、そしてある時、立ち上がれるようにしましょう。
(引用元: http://jphma.org/gienkatsudo/20110324_miyagi_01.html 強調は引用者による)
レメディとはホメオパシー治療に用いる砂糖玉のことだ。由井氏は、通常は患者に経口摂取させる形で用いられるレメディを、今回は畑にまくべしと斜め上のアドバイスをしているのだ。もちろん、そのような行為に放射性物質対策の効果があるという証拠はどこにもない。
では、もうひとつのアドバイスであり、ホメオパシーと関係なさそうなヒマワリの話はどうだろうか。
ヒマワリを汚染された土地に撒いて放射性物質を植物体に取り込ませて、土壌を浄化しようという考え自体は、少なくとも理屈の上ではホメオパシーほどおかしな考えではない。実際、一部ではそういった研究報告もなされているらしい。しかし、その一方で、今回の原発危機をきっかけにして、それらの報告に対して誤った解釈がなされ、デマとして流布しているようだ。呼吸発電 氏は、このデマについて注意を喚起し*2、図らずもデマを助長する結果になってしまったと思われる資料を発表していた独立行政法人 土木研究所 寒地土木研究所も誤解が広まることがないように努めている*3。以下は寒地土木研究所のウェブサイトからの引用である。
補足内容
当該箇所は、植物による土壌中の放射性物質の吸収の研究事例を紹介したものです。
ここで紹介した事例は、植物が一部の放射性物質を土壌から吸収して、その植物の体内に蓄積させることを除去と表現したものであり、放射性物質を分解したり消滅させたりするものではありません。空気中や根の届かない範囲の放射性物質に対する効果は期待できませんし、全ての放射性物質に効果があるかどうかも不明です。
繰り返しになりますが、紹介した事例は、放射性物質を土壌中から吸収して植物体内に蓄積されるものであり、放射性物質を消滅させるものではありません。また、土壌の浄化には、植物の除去・運搬などの処理を行う必要があります。植物を植えたから問題が解決するというものではなく、その処理まで含めた対応が必要であることに御留意いただきますようお願いします。
(引用元: http://www.ceri.go.jp/contents/news/20110322.html 強調は引用者による。)
ヒマワリによる土壌中の放射性物質の除去の有効性については明らかでない部分が多く、現時点で汚染に対する対処法として推奨できるものでないことが分かる。「全草燃やし、灰にする」という由井氏のアドバイスが決定的に駄目なのは、この補足に明記されている「土壌の浄化には、植物の除去・運搬などの処理を行う必要があります。」の一文からも明らかだろう。期待通りにヒマワリが土壌中の放射性物質が取り込んだとしても、放射性物質は無毒化されたわけではなく植物体内にそのままの形で残っている。それを燃やしたところでやはり放射性物質は放射性物質のままなので問題の解決にはならない。そればかりか不用意に燃やせば放射性物質が飛散する可能性があるし、灰にも放射性物質が含まれるので廃棄物として適切に処理されなければならない*4。
このメッセージを読む限り由井氏は被災地に「無農薬で育てた洞爺のひまわりの種」を持ち込もうとしていたようだが、由井氏は果たしてこの計画を実行するのだろうか。少なくともデマをこれ以上広めるのはご遠慮願いたい。もっとも、これまで散々、ホメオパシーというデマを広めてきた方に今更こんなお願いをしても無駄かもしれないが。
*1:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110312/p1 http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110313/p1
*2:http://powerbreathing.seesaa.net/article/192024691.html
*3:http://www.ceri.go.jp/contents/news/20110322.html
*4:もっとも、それ以前の問題として、そういう灰を放射性廃棄物として扱わなければならないほど深刻に畑の土壌が汚染されているとは限らないという問題もある。その意味で原発周辺で今後生産される農作物について過剰な取り扱いが必要だと誤解することがないようにお願いしたい。
案の定、由井寅子氏が放射能に対処するホメオパシーのレメディについて語りだしたらしい件
すでに先日のエントリーでホメオパシー提唱者たちが震災に便乗しようとしていることを指摘した。加えて、そのエントリーでは過去に震災に便乗したホメオパシー提唱者たちには、原子力関係のデマを広めているケースがあったことも紹介した。本エントリーでは現在進行形でホメオパスが原子力に関する悪質なデマを広めていることを指摘しようと思う。
日本ホメオパシー医学協会会長であり、ホメオパシージャパン系ホメオパシー団体の実質的なトップであるホメオパスの由井寅子氏は、13日の第3回 日本ホメオパシー医学国際シンポジウムにおいて、以下のような内容について発表したようだ。
由井寅子JPHMA会長の発表は、3月11日に発生した東北地方太平洋大地震被災者への心のケア、福島原発の放射性物質漏えいで起こりえる危険性と被害と対応するレメディーの紹介から始まりました。
この未曽有の事態に対し、各家庭でホメオパシーのホームキットを利用することの大切さを再確認し、ひとりひとりが気付いて賢く、力強く生きていってほしいという願いが伝えられました。
(引用元: http://jphma.org/kyoto_symposium/index.html 強調は引用者による。)
さらに悪いことに、由井氏の配下のホメオパスたちが東北地方各地で「無料、ホメオパシー健康相談」を行おうとしているらしい。
●東北地方の各地にて、JPHMA認定ホメオパスによる無料、ホメオパシー健康相談を行う予定をしております。
開催地や時間などは、現在は未定となっておりますが、今後ホームページにてお知らせしてまいります。
(引用元: http://jphma.org/gienkatsudo/20110313_gienkin.html)
由井氏らの発表と計画は複数の意味で悪質である。まず第一にホメオパシーは全くの無効であるにも関わらず、それを被災者に用いようとしていることだ。これは、言うなれば、子ども銀行の紙幣を義援金の募金箱に入れるに等しい行為だ。
次に、「無料、ホメオパシー健康相談」というのは文字通りの意味よりも悪い物だと考えざるを得ない背景がある。これまで由井氏らの団体は「健康相談」と称して「カルマ」やそれに類する概念を持ち出して霊感商法まがいの"お医者さんごっこ"を行なってきた過去がある*1。過去の事例に照らして考えれば、少なくとも私には、「健康相談」という用語が「診断」や「治療」というNGワードを避け、医師法違反を回避するための言葉だとしか思えない。
そして、より具体的には、由井氏という人物がホメオパシーで放射線障害対策について発表したらしいことの影響力は無視することができないという事情がある。由井氏は日本最大のホメオパシー団体のボスであり、彼女の発言はその影響下にあるホメオパス*2の「健康相談」の内容に少なからず影響力をもっていると思われる。
山口県で助産師がホメオパシー*3に頼った結果、病気予防に必要なビタミンK剤を与えず乳児を死なせてしまったとして訴訟が起こされたことは記憶に新しい。実は、この事件以前に、由井氏は著書の中でこう述べていたのだ。
赤ちゃんも排泄するのです。生まれてきてすぐに脂漏性湿疹、突発性発疹になるのは、胎盤からもらった毒を排泄しているだけのことなのです。そこに亜鉛軟膏を塗ったりすると、大変なことになってしまいます。亜鉛華軟膏を使って赤ちゃんの成長が止まったり、知能が遅れたりすることはホメオパシーならばよく知られているところです。血液凝固のためにビタミンKを注射したりしますが、一足飛びにがんマヤズムが立ち上がるし、逆に出血が止まらなくなることもあるのです。そして難治の黄疸になることもあります。ホメオパシーにもビタミンKのレメディー(Vitamin-K)はありますから、それを使っていただきたいと思います。
(引用元: 由井寅子著『ホメオパシー的妊娠と出産』36ページ)
誤解のないように明確にしておきたいのだが、由井氏の発言・主張が問題の助産師の行動に繋がったとする直接的な証拠を私は持っていない。しかし、由井氏は「日本ホメオパシー医学協会会長」であり、「日本ホメオパシー財団理事長」であり、「ホメオパシー博士」なのだ。由井氏の発言が問題の助産師の行動に影響を与えたと考える蓋然性は十分にあると考える。そうでなければ、どうして出産のプロであるはずの助産師が深刻な副作用も報告されていないビタミンKの投与を怠ったのか。どうして由井氏の団体に属する他の助産師も同様にビタミンKの投与に否定的だったのか*4。
今回の震災に際しても、由井氏の配下のホメオパスたちが由井氏の発表に基づき、被災者にホメオパシーで放射線障害対策を施す可能性、最悪の場合にはそれを正しい対処の代替としようとする可能性*5を疑うのは勘ぐり過ぎではないと思う。少なくとも疑われても仕方ないことを由井氏らの団体はこれまでやってきたのだ。
以上のような理由から、ホメオパシーのレメディが砂糖玉に過ぎず、それ自体が無害だからといって、ホメオパスたちの被災者をターゲットにした活動を見過ごすことはできない*6。ホメオパスたちの活動を注視していく必要がありそうだ。
*1:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101219/p1 http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101024/p1
*2:ホメオパシーの施術者のこと。
*3:ホメオパシーにおける「薬」のことで、実際にはただの砂糖玉。尤も日本のホメオパシー関係者は少なくとも表向きには薬事法対策のため「健康食品」と位置づけている。
*4:相関図を見れば分かりやすい。http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100815/1281855817
*5:そういう対処が必要な人がホメオパスに接触する可能性はかなり低いかもしれない。ただし、ホメオパスたちが必要な人だけをターゲットにするとは限らないことも考えなければならない。彼らは、これまでも何かにつけて「カルマ」や「遺伝」、そして『電磁波』を持ち出して危機を煽ってきたのだ。
*6:かといって止める手立ても思いつかない。残念なことに。
震災に便乗するホメオパシー提唱者たち
テレビ等であの惨状を目にすれば、被災者のために何かをしたいと思うのは自然な心理だろう。しかし、その善意がホメオパシーという下らないニセ療法に向かうとすれば、それは善意をドブに捨てているようなものだ。これは善意を無駄遣いさせられているホメオパシー信奉者にとっても不幸なことだし、何より被災者に対して失礼極まりない行為だとも言える。彼らはだだの飴玉を、さも薬のようなものであるかのように宣伝し推奨しているのだ。ホメオパシー提唱者たちに商業的宣伝の意図がないにしても、結果的に今行われている行為が便乗行為にしかなっていないのは事実だろう。
恒例のホメオパシージャパン系団体の「義捐活動」
すでに『ほぼ日刊カルト新聞』が伝えているように、株式会社ホメオパシージャパン系のホメオパシー団体、日本ホメオパシー医学協会が「義捐活動」を開始している。
大地震によるショックから深い心の傷となるPTSD(心的外傷後ストレス障害)にならないために、早いうちにホメオパシーで対処する事が望ましいと思います。以下のレメディーは心のショックにとっても良いレメディーです。キットからご自分で対応出来ます。
(過去にこのような経験でPTSDをお持ちの方も以下のレメディーで対応出来ます)
Acon. (恐怖、後に恐怖が続く)
Op.(恐怖、恐怖の感覚が麻痺するほどの恐怖)
Arg-n. (恐怖、パニック)
Stram.(恐怖)
Ars.(不安、心配、下痢)
Arn.(打撲、ケガ)
の各200C
(引用元: http://jphma.org/gienkatsudo/20110311_miyagi.html)
ホメオパシージャパン系団体による便乗行為は今回が初めてではない。実は、2004年の中越地震*1、2006年の中越沖地震*2、2010年のハイチ地震*3でもホメオパシーを通じた「支援」が行われていたのだ。
他のホメオパシーホメオパシー団体も震災に便乗
先述の株式会社ホメオパシージャパン系の団体とは別系統のホメオパシー団体である日本ホメオパシー振興会・ハーネマンアカデミーの永松昌泰学長も被災者に「ほとんどオールマイティーともいえるくらいの素晴らしい力を発揮」してくれるレメディを勧めている。
今日のような状況の場合、
広く一般的に摂っていただけるレメディーが幾つもありますが、
その中でも代表的なものを挙げましょう。Aconite と Ignatia です。
http://nihon-homeopathy.net/selfcare/remedy/materiamedica/aconite.htmhttp://nihon-homeopathy.net/selfcare/remedy/materiamedica/aconite.htm
どちらも広く使えるレメディーですが、
現在のような場合に限定して書きます。アコナイトは、とにかく「突然」のことによる
心身のショック的状態。
怪我、トラウマに対して、
ほとんどオールマイティーともいえるくらいの、
素晴らしい力を発揮してくれます。
(引用元: http://www.hahnemann-academy.com/blog/2011/03/post_193.html 強調は引用者による。)
山口でホメオパシーに頼った助産師がビタミンKの投与を怠った結果、乳児が亡くなってしまったとして訴訟が起きた際、この日本ホメオパシー振興会は、問題を起こしたホメオパシージャパン系の団体のホメオパシーは「本来のホメオパシー」ではなく、自分たちの「本来のホメオパシー」は別物だと必死にアピールしていた*4。今回は図らずも同じ穴のムジナであることを露呈してしまった形だ。
ホメオパシー提唱者によるデマに注意
ホメオパシーという科学的にデタラメなものを信じている時点で、ホメオパシー提唱者たちによる科学に関係する言説は傾聴に値しないと言ってもいいだろう*5。実際、中越沖地震の時に、あるホメオパシー提唱者はこんなことを書いている。
原発の事故で放射能汚染が心配されています。地震直後に現地を視察したホメオパシー関係者の弁だと、視察後にひどい脱力感に襲われた様子です。まるでたちの悪いインフルエンザにかかってぐったり寝込まなければならない状態だったらしいのです。まさしくこれは放射能に汚染された時の症状です。
あるホメオパシー流派の団体がいち早くレメディの寄付をしたというニュースが伝わってきました。迅速な行動には頭が下がります。でもやはり「相変わらずの大量投与の原則」がとられていて、こんなに放射線関係のレメディを大量にとっていいものなのか、かえって体に悪くはないのだろうか、との不安の声も上がってきています。
ホメオパシーのレメディを有効に深く効かせるには、やはりここでも原則は「最少投与の原則」です。
チェルノブイルでも実証済みのレメディの使い方がホットな情報で入ってきましたので、すこしずつここで紹介していくことにしますhttp://blogs.yahoo.co.jp/setsu_forum_k/23403630.html。レメディの入手をお考えの方は以下からアクセスしてみてください。何か手助けできるかもしれません。
(引用元:http://blogs.yahoo.co.jp/setsu_forum_k/23265554.html 強調は引用者による)
このようなデマは地震直後にいらぬ不安を煽るばかりか、今後の復興にも悪影響を与える可能性があるという意味で悪質だ。中越沖地震の際には、放射能漏れが人体に影響を与えないレベルに留まったにも関わらず、風評被害が地元の漁業関係者や観光関係者を悩ませた*6。
今回の地震による原子力発電所でのトラブルが今後どのように推移するのかは分からないが、不確かな情報に惑わされないように注意したい。
*1:http://homepage.mac.com/hatta501/iblog/C450134500/E263702789/index.html
*2:http://www.jphma.org/gienkatsudo/tyuetsu.html
*3:http://www.jphma.org/gienkatsudo/2010_haiti.html
*4:http://www.hahnemann-academy.com/information/new/comment_2010_08_05.html
*5:もちろん、ホメオパシーと関係なく、大規模震災のときにはデマが生まれやすいので、ホメオパシー提唱者だけが特別危険だとは言い切れない。ホメオパシーと無関係なデマにも同様の注意が必要だ。
*6:http://www.news24.jp/articles/2007/08/16/0490864.html
ホメオパシー記事の訂正を拒む朝日新聞WEBRONZA
朝日新聞社が運営するニュースサイト WEBRONZAにホメオパシーが注意欠陥・多動性障害(ADHD)に有効であるとする研究を紹介しホメオパシーを肯定的に扱った記事が掲載されたのは昨年の12月13日だった。その後、twitterで批判的な議論がなされ*1、当ブログでは具体的に不備を指摘するエントリーを掲載した。その要約は以下の通りである。
- 実験の対象になったADHDの被験者62人は事前の非二重盲検試験でホメオパシーが「効く」ことが確認済みの人で、予め「効かなかった」人は除外されている。しかし、そのことは問題のWEBRONZAの記事には書かれていない。*2
- 論文では二重盲検の結果、ホメオパシーの効果に肯定的な結果を得ているが、その効果の程度は非二重盲検と比べてわずかだったと解釈されている。にも関わらずWEBRONZAでは二重盲検試験の結果、「ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させた」と書かれている。*3
- 二重盲検試験の結果には部分的にホメオパシーの有効性と矛盾する不自然な点がある。
ここで重要なのは、ホメオパシーを好意的・肯定的に扱ったこと以前に、ホメオパシーの臨床試験の結果を正しく伝えていないことが問題にされているということだ。3は解釈の問題なので異論が出る余地もあるだろうが、1と2に関しては元論文を読めば誰にでも気づくレベルの単純な指摘だ。私が思うに、紹介された臨床試験を実施しその結果を論文として発表したフライ医師らも、きっと私の1と2の指摘には同意してくれるだろう。彼らの研究成果を歪めているのはWEBRONZAの方なのだから理屈の上ではそうなる。ホメオパシーが健康被害を生む可能性があるというのは、この記事を批判する一つの動機にはなるがこの記事がホメオパシーと何の関係もない研究を紹介したものだったとしても、充分に批判に値する記事だったと言えるだろう。
以上のような指摘や批判の結果、朝日新聞科学医療グループの久保田裕氏による論点を整理する記事*4がWEBRONZAに掲載され、12月の記事に問題があったことが認められるに至った。
しかし、その一方で久保田氏の記事では、問題の記事に含まれる誤情報については私のエントリーにリンクして「本当にホメオパシーが有効なことが証明されたのか、ぜひ参考にして欲しい。」と述べるに留まり具体的には言及しなかった。いわば丸投げである。そして、問題の記事は未だに何の注釈もなく公開され続けている。
特に問題の記事がそのままの形で放置されていることについては、私を含む複数の人がTwitterで対応を促しており、1月の時点では今後の対応について前向きなツイートがなされていた。
ご期待、恐れ入ります。年明けになると思いますが、どういった事が可能か検討してみます。ただ、訂正やお詫び、撤回などとは違った形になる気がします。いずれにせよ! @Rsider 期待しています! 論文の誤読、ミスリーディングな部分は、ぜひ、元記事に訂正をお願い申し上げます。
2010-12-29 17:52:50 via web
このツイートにも関わらず、2月に入っても対応は一向になされなかったのだが、再三の催促の後にようやくWEBRONZAの公式見解が表明された。その結論は、あろうことか現時点で何の対応も行わないというものだ。
誤魔化しと論点ずらしと責任転嫁と言い訳と
一連のツイートはtogetterでまとめられている*5のだが、ここでは一つ一つWEBRONZAのツイートを追っていくことにしよう。
その際の事情説明を要約すれば、(1)元記事には議論を呼ぶ内容が含まれていたかもしれない(2)ただし、多様で有益な言論の提供を目指すWEBRONZA(ウェブロンザ)が許容する、一定の範囲内に収まっていると判断し掲載した(続
2011-02-08 17:34:05 via web
これでは久保田氏の記事と比べても後退してしまっている。問題は、「議論を呼ぶ」だけではなく、"誤情報"が含まれていたことにある。それが有益とはどういうことだろうか。誤情報以外の部分が有益だからトータルでは有益だったと言いたいにしても、それが注釈や修正の障害になるとは思えない。それにもし仮に、あんな間違いが含まれた記事が許容範囲だというのなら、自ずとWEBRONZAなるメディアそのものの信頼性の水準が伝わってくるというものだ。
続)(3)編集部の意図はツイッターなどで説明し、関連記事を含む大きな文脈は、追加記事の掲出で示した(4)読者や社内などに誤解を招いたとすればお詫びする(5)今後のWEBRONZAの展開にご期待下さい、というものです。
2011-02-08 17:34:49 via web
少なくとも私は意図の説明など求めていない。あれを読んだら誤解してしまう人がいるから、注釈をつける等*6の措置でそうなることを未然に防いで欲しいと要望しているだけだ。誤情報を放置しておいて「読者や社内などに誤解を招いたとすればお詫びする」というのもおかしな話だ。こうしている間にも、あの記事を読んで誤解した人、すなわちお詫びすべき対象が増えているのかもしれないというのに。
また、現段階で元記事への対応が難しい理由は、主に3つあります。(a)記事内容は大筋で論評の範囲内と考える(b)記事内容については媒体内で検証し、現状のように各人がウェブ上で可能(c)活字媒体のような欄外表記やリンクも含めて検討したが、システム上の都合などで困難、というものです。
2011-02-08 17:35:48 via web
(b)の下りが何を意味するのかよく分からないが、具体的な検証を私のエントリーに丸投げしている久保田氏の記事を検証と呼ぶのならそれは間違いだし、問題の記事から久保田氏の記事へのリンクも貼られていない現状では多くの人があの誤情報まみれの記事だけを読むことになってしまうので意味がない。そして、もっと理解に苦しむのは(c)だ。久保田氏の記事に当ブログへのリンクが含まれている事実からリンクそのものが不可能とは思えないし、困難なはずの修正は過去に実際に行われていたようなのだ*7。どうして過去には可能だった修正*8が今になって「システム上の都合などで困難」なのか私には想像もできない。
当方はウェブ媒体です。新聞よりも幅の広い、多様な言論を提供するのがミッションです。もちろん医療・健康記事の取り扱いには特段の留意が必要ですが、読者の誤読可能性まで含めれば、「リスクゼロ」の言論活動を実現するのは、非常に困難と考えます。
2011-02-08 17:36:41 via web
これに至っては読者への責任転嫁である。記事に明白な誤情報が含まれているにも関わらず、なぜか読者の「誤読可能性」の問題にすり替えられてしまっているのだ。あの記事を誤読なしで正確に理解できた読者でも、エスパーでなければ、「実は被験者62人が選ばれた患者だった」などという書かれてもいない重要情報を知るはずもない。ましてや記事に「顕著な効果」と書かれているのにそれを顕著とは言えない効果だと"正確に"理解してしまう読者がいるとすれば、それこそ"誤読"である。
ただし、当方の元記事の掲出方法などに、反省すべき点があったのは確かです。その点は次に活かします。また、元記事がホメオパシー擁護のために流用されるのは不本意ですので、そうしたケースを見つけたら是非ご教示ください。その時点で可能な対応策を検討します。
2011-02-08 17:37:32 via web
そうなる前になんとかして欲しいという話なのに、なぜか自ら後手後手に回りたがるWEBRONZA。第一、そういう「流用」があっても、元記事は「システムの都合上」修正不可能だというし、「流用」の方法が著作権法に基づく適正な引用だとすればWEBRONZAには何ができるというのだろうか。何かできるのなら、どうして今のうちに対処しようとしないのか。
なお、メディアが一度この手の誤情報を流してしまうとどうなるか、という問題については、科学雑誌ネイチャーが"釣り"目的でホメオパシー論文を掲載した話の顛末を例にして過去のエントリーで論じている。
特に、ホメオパシーのような問題解決のためには、科学的批判とともに感情的包摂や対人的な説得、コミュニケーションが必要ではないかと考えます。これは、科学的事実を無視してニセ科学を許容するような、安易な価値相対主義とは違うはずです。
2011-02-08 17:40:45 via web
今度は論点ずらしだ。確かに「科学的批判とともに感情的包摂や対人的な説得、コミュニケーションが必要」かもしれない。しかし、これはWEBRONZAが誤情報を垂れ流し続けることとは何の関係もない話だ。それ以前に、WEBRONZA自身がニセ科学に関する誤情報の垂れ流しで批判を浴びている今このタイミングで、批判者に対してこんなご高説を垂れる余裕があるとは大したものだ。
WEBRONZAとは何だったのか
私はもうWEBRONZAに期待するのは止めにした。これだけ具体的に説明し、実際それがtwitterを通して編集部の中の人に伝わっている*9にもかかわらず、ここまで不誠実な対応を繰り返されたのだ。
./彡川川川川川川彡彡彡彡彡ュ-, .ミミ川川川川川川彡彡彡彡彡彡彳 ;ミr>川川川川川 ヽ' -、;彡彡彡彡;l .;;j r'"^ー-- '""'ヽル' ';彡彡彡彡;;リ .;;j :: ;彡彡彡彡〈 .;;j :: :;彡彡彡ミ;l/ .;l :: ヽ;;ミ三三彳 ..i' ー=:、 _,,ュ=-ー' ヽ;ミミミミ; !.弋i;。ュ、 ィ モ。iラ kミ;;ー、 ; : ;j/ j ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。 ; :; :;;-;' 新聞社は読者の忠告を聞かないからなぁ。 ; :; / | ..; `,-' / !、_ : 'ー -―-' / !ノヽ、 :; : ̄ .,/ /:::::::::i :〉、_____ , - '" /::::::::::::::::! /;;;;;;j :::::: :: : ,/::::::::::::::::::::::::!
思い起こしてみれば、初期の後釣り宣言*10から、組織としての責任の回避・編集部の無能への開き直りともとれる久保田氏の新聞社軟体動物論*11を経て、今回の欺瞞に満ちた一連のツイートに到るまで、この不誠実さは一貫していた。
WEBRONZAなる悪質なメディアが一刻も早く世間からフェードアウトし、別のもっと有望なメディアが成長することを期待したいと思う。
*1:http://togetter.com/li/82630
*2:結論を左右しうる重要な前提条件を記載しないのは大きな落ち度だろう。
*3:論文以外のソースで著者らが、この相対的にわずかな効果を別の物差しに基づいて「顕著」と表現している可能性がないわけではないが、それなら問題の記事の筆者は反論するべきだ。もっとも論文以外のソースが科学的議論を行うに相応しい信頼性を持っているかは別問題だが。
*4:http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2010122800018.html
*5:http://togetter.com/li/98454
*6:タイトルでは訂正としたが、訂正よりも元の記事がそのまま残る注釈の追記の方が望ましかったと思う。
*7:http://twitter.com/#!/webronza/status/23226375120879618
*8:修正が可能なら、注釈の追加だって可能だろう。欄外表記に関する言い訳も理解に苦しむ。本文の最後に何個か改行を入れてから「編集部追記:」とでも書いて、どこがどう間違いだったか解説して訂正すればいい。
*9:http://twitter.com/#!/webronza/status/20550256965980160
*10:http://twitter.com/#!/webronza/status/18307077004853248
*11:新聞社は脊椎動物というよりも個々の脚が独立した意思をもって動く軟体動物だという久保田氏の持論である。本来ならば新聞社は、編集部という脳が駄目な記事をリジェクトすることで品質管理を行うことができる脊椎動物であったはずだ。詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110109/p1
元自衛隊 陸将補の池田整治氏のメルマガの陰謀論が中二病じみている件
約一年前のエントリーで指摘したように、池田整治氏は週刊SPA!の誌面で予防接種は有害且つ陰謀の産物であり、病気の予防にはホメオパシーが有効だとする持論を展開してしまったアレな元自衛隊員である。当時は現役の一等陸佐だった池田氏だが、昨年の12月、一定の条件を満たした退職者に認められる特別昇任によって陸将補に昇任して退職していたようだ*1。ちなみに池田氏は防衛大学校国際関係論の卒業で、陸上自衛隊小平学校の人事教育部長という職にあったらしく、学生に「百匹目の猿現象」を教えたりと、大変有意義な教育活動に従事されていたようだ*2。
そんな池田氏の名前を久しぶりに拝見したのは、今日あるブログ読んだときだった。『続・ホメオパシーが朝日新聞で叩かれたワケ・・・ 』と題されたそのブログにはこんなことが書いてあった。
去年、朝日新聞でのホメオパシーの不当な扱いに関する裏事情を、池田 整治(いけだ せいじ) さんがメルマガで書かれていました。判りやすかったので、一部転載させていただきました。メルマガは誰でも購読出来、バックナンバーも読めますので、是非登録してみてください。
(引用元: http://plaza.rakuten.co.jp/rietanriepon/diary/201101200000/ 強調は引用者による)
なるほど。大変興味深いことが池田氏のメルマガには書かれているようだ。このあとこのブログではホメオパシーに関する部分についての簡潔な引用がなされているのだが、私は念のため池田氏のメルマガのバックナンバーの該当記事*3の引用されていない部分も読んでみた。
要約すると以下の通りだ。
- タイタニック号沈没はロスチャイルドの陰謀
- 9・11同時多発テロも陰謀。
- 世界金融支配体制は「日本人の覚醒」を阻止しようとしている。
- 日本民族のみが宇宙の摂理である自然との一体感・共生の文明を築く可能性がある。その理由は、日本語の音域が125 Hzから1500 Hzの低音域にあるから。
- 「日本書紀」と「古事記」は韓半島から来た藤原氏による捏造である。
- 武田家はシュメール・高句麗につながる名門騎馬軍団。
- 孝明天皇親子は明治維新直前に「世界金融支配体制の魔の手に落ちた維新の若者」に暗殺された。
- 中国はやがては崩壊する。それが地球文明の進化の道である。
さすが自衛隊幹部養成機関たる防衛大学校で国際関係論を学んでいただけのことはある。浅学の私などの理解は到底及ばないハイレベルな"真実"ばかりだ。
池田氏のメルマガは以上のように濃厚かつ盛りだくさんな内容なのでここではすべてを詳細に紹介することはできない。従って、私が特に興味を持っていて、最初にご紹介したブログでも引用されていたホメオパシーに関連する部分だけをここでは引用することにしよう。
真実を知れば、生き方が変わる…
嘘はもうやめよう!今、二つの社会事象を見据えながら、
この民族の末路に対する深い哀しみと絶望感、
そしてその中にも一縷の望みを託す愛着心が私の深層心理に渦巻いている。
(中略)
いずれも彼らによる彼らのためだけの支配による世界秩序
(ONE WORLD ORDER)完成への、
つまりルシファー悪魔教による世界支配化シナリオの一環である。このシナリオが完成すると、彼ら支配階級約1万人と、
それを支える奴隷階級10億人のみが地球で生き残れる人間となる。それまでに日本人を含む有色人種は地球上から抹消され、
その中にいないことになる。エイズやSARS、豚インフルエンザ等各種ウィルス事案は、
この観点からの考察抜きでは語れない。日本におけるその二つの社会事象とは、
「子宮頚口ガン予防ワクチン接種公的支援」と
「朝日新聞による日本ホメオパシー叩き」である。一見脈絡のない別々の事象に見えるが、
実は根っこでしっかりつながっている。日本民族を化学物質漬けにして病巣化し、
そこから医薬品・医療利権で文字どおり死ぬまで搾りとる。そしてやがて「彼ら」にとっては、
不倶戴天の日本民族を戦争以外の平時謀略で根絶やしにするのである。
(引用元: http://www.emaga.com/bn/?2010090055295885010701.heart21 強調は引用者による)
つまり、"ホメオパシー叩き"は
世界秩序(ONE WORLD ORDER)完成への、つまりルシファー悪魔教による世界支配化シナリオの一環(キリッ
だったというわけだ。
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ネタはこのくらいにしておいて
メルマガの本文を読んでヒシヒシと伝わってきたのが、池田氏が「世界金融支配体制」や中国に対して抱いている異常なまでの敵愾心である。そして、その敵愾心は正しい判断材料に基づく合理的な思考によるものではなく、その正反対の根拠不明の情報に基づく妄想的な思考の産物であることは明白だ。こういう方が自衛隊のそれなりの階級のポジションにいたことは驚異であり潜在的な脅威かもしれない。例えば、もし池田氏が中国と対峙する可能性のある部隊の指揮官だったらと思うとぞっとする*4。幸いにも池田氏はもはや現役ではないのでそういう心配はもはや不要のものになった。しかし、彼がいままで自衛隊の中でどんな教育を受けてきたのか*5、そして小平学校でどんな教育を行なってきたのかと考えると、まだ十分に安心することはできそうもない。なお、元航空幕僚長の田母神氏も鹿児島県阿久根市前市長の竹原信一氏も、池田氏と同じ防衛大学校の出身である。
*1:官報 平成22年12月22日付(本紙 第5463号)6ページ
*2:http://ikedaseiji.com/
*3:http://www.emaga.com/bn/?2010090055295885010701.heart21
*4:そういう切迫した事態が起こる可能性が高くないとしても、これほどの偏見の持ち主が外国の軍事関係者とまともに交流することができるのか大いに疑問である。池田氏は日本での牛乳の普及はアメリカの「洗脳」だとするなど、中国以外の国にもかなりの偏見をもっている様子だ。
*5:池田氏がこうなのは元々かもしれないが、そうだとしてもそれが間違いだと教えられなかったのは事実だ。それに自衛隊が、そんな池田氏に教育を担当させてしまったのも事実だ。
朝日新聞WEBRONZAのホメオパシー記事、そんな事後対応で大丈夫か?
朝日新聞社のニュースサイトWEBRONZAにホメオパシーに好意的な記事*1が掲載され、それに対してTwitterでは批判的な意見が飛び交い*2、私もその記事の不備を指摘するエントリーを書いた。WEBRONZA側もそれらの批判に応え、朝日新聞科学医療グループの久保田裕氏による「ホメオパシー論争、改めて整理しよう 」と題した記事を掲載し、twitterに寄せられた意見に対しては公式アカウントから返答がなされた*3。しかし、その対応にはまだ不満が残る。
WEBRONZAは自分の言葉と責任で検証を
久保田氏の記事では発端となった記事の問題点を整理し、私のエントリーに言及している。
ホメオパシーの効果はプラセボ効果ではない、ということを示す二重盲検試験がADHDの子どもを対象にして行われている、ということが紹介されている。この二重盲検の論文に関しては、たとえば、ブログ「Not so open-minded that our brains drop out」(http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101226/p1)で、冷静な分析が行われている。本当にホメオパシーが有効なことが証明されたのか、ぜひ参考にして欲しい。
(引用元: http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2010122800018.html)
本来、原稿の妥当性を考慮して記事として採用するか判断するのは編集者の仕事であって、私の仕事ではないし当然私もその仕事を肩代わりを意図していたわけではない。プロの新聞記者に「冷静な分析」と評価してもらえるのは名誉なことかもしれないが、結局は丸投げされてしまった感がある。
それに別の見方をすれば、私の指摘に誤りが含まれている可能性*4もあるし、どこの誰かも分からない私が悪意をもって虚偽の内容を書いている可能性だって客観的みれば否定できないわけだ。
その意味でも、朝日新聞WEBRONZAにはきちんと自分の言葉と責任で疑義を投げかけられた事項について検証してもらいたいと思う。もしも「ぜひ参考にして欲しい。」と書くことで、具体的な内容についての言及することなく、やんわりと幕引きを図ろうとしていたのであれば残念なことだ。
久保田氏の新聞社ヒトデ論について
実は、今回の騒動を受けての久保田氏の記事は、ニコニコ生放送のホメオパシーについての番組を文字に起こした記事と同時に掲載された。この番組は昨年の9月に放送されたものだから、実際にはWEBRONZAの問題の記事が掲載されるよりも時系列的に前のやり取りということになる。この記事の中には以下のような久保田氏の発言が含まれていた。
久保田 最近の新聞には署名が書いてあるので、誰が書いた記事か分かる。ホメオパシー関連記事の署名を追っていただけば分かりますが、記事自体は一部の熱心な記者が頑張って書いているわけです。でも、彼らだけが突出して頑張っているのかというと、それだけではない。編集部全体のコンセンサスというか、「これは大きく報道するだけの価値がある」っていう暗黙の判断が編集部全体に行き渡ることで、紙面は出来ていくわけです。
よく、「朝日新聞はどう思っておるのか」って問われたりするんですけれども、普通の人は、朝日新聞を《脊椎動物》だと思っている。つまり、脊椎があって、大脳があって、命令系統が上のほうにあって、その脳が「右手動きなさい。左手動きなさい」って、いちいち命令して各部分が動く、というイメージですね。
でも実は、報道機関は《軟体動物》に近い。哺乳類よりもいわば、ヒトデに近いんですよ。ヒトデって5本の腕みたいなのがあって、その下に触手みたいなのがたくさんついているんですけれども、その触手がいわば記者であって、各々は気の向くままに勝手な方向に動いているわけですよ。でもなんとなく全体としては、うまいこと餌のほうに動いていく。全ての情報を統括する司令塔がどこかにあって、その命令で動いているというわけではないんですね。
(引用元: http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/special/2010122800005.html?page=1 強調は引用者による。)
*5
それは確かにそうだろう。個々の記者は個別の意思と思想を持っているから、新聞社としての統一された見解があるとは限らないことは理解できる。
このあと阪大の菊池誠氏からツッコミが入るが、それに対する久保田氏の返答の一部がWEBRONZAの記事には掲載されていない*6ため、ニコ動にアップされている動画から私が書き起こした。
菊池: 正直アレですよね、朝日だってちょっと前にはホメオパシーに割と好意的な記事も載ってなくはないですよね。
久保田: そうそうだから、なにせヒトデだからね、右足やってることを左足だって良く分からないわけよ。
(書き起こし元: http://www.nicovideo.jp/watch/sm12252083 強調は引用者による。)
私はニコニコ生放送で久保田氏のこの発言を聞いたときから違和感を持っていた*7。新聞社の記者の意見の多様性を説明する文脈で言うのはいいとしても*8、「ホメオパシーに割と好意的な記事」を載せていた*9という失敗を指摘されたときに、ヒトデの話を持ち出すのはあまりにも分が悪いのではないか。これは、偽装表示問題を引き起こした食品製造会社の中の人が「食品会社は脊椎動物というよりもヒトデなんですよ。偽装を働いた従業員が右足だとしても、左足の私はよく分からないわけですよ。」などと言い出すのとどう違うのだろう? と私は思った。
とは言え、菊池氏は特に朝日新聞の責任を追求するような言い方をしたわけでもないし、久保田氏自身が失敗の当事者でもなかったことを考えれば、久保田氏の「新聞社ヒトデ論」を一種の質の悪い言い訳として捉えてしまった私が勘ぐりすぎていたという可能性がなかったわけではない。
しかし、悪いことに久保田氏は今回のWEBRONZAの騒動を受けての記事でも新聞社ヒトデ論を引き合いに出してしまったのだ。
なお、この討論のなかで、朝日の記事がかならずしも首尾一貫しないのはなぜか、ということの説明として、「新聞社というのは、脊椎動物というより、軟体動物に近い」という説明をしてみた。新聞社は、全体を統制する頭脳のある脊椎動物というより、手足が勝手に動き回っている軟体動物のようなものなので、右手と左手が勝手にバラバラに動いてしまい、外から見ると、一体どっちを向いているのかわからないといったケースが起こりうる。
「牛にもホメオパシー」の記事がWEBRONZAの「GlobalPress」にアップされた、という今回の事態をみても、この「軟体動物説」はやはり正しかったのだろう、と改めてため息をつきながら、この小文を書かせて頂いた。
今回の騒動でご迷惑をかけた方々には、軟体動物の端っことして、お詫びを申し上げたいと思う。
(引用元: http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2010122800018.html 強調は引用者による。)
新聞社ヒトデ論を展開した後の「軟体動物の端っこ」からの「お詫び」に何の意味があるのだろうか。
事態をもっとややこしくしているのは、久保田氏はそもそも直接的には「お詫び」をする立場にないということだ。久保田氏の所属は科学医療グループであり、WEBRONZAの執筆陣に名を連ねてはいるものの編集部の中の人ではない。
「軟体動物の端っこ」に過ぎない久保田氏からしてみれば、元はといえば他の「端っこ」の迂闊な判断が招いた問題の後始末のために、おそらくは久保田氏がホメオパシーに精通しているという理由で、直接の責任はないのに引っ張り出されてしまった形になる*10。そんな久保田氏の「お詫び」がこんな取ってつけたようなものになってしまうのは、ある意味では当然の結果だろう。
そう考えると、久保田氏が気の毒にも思えてくる。この騒動の発端になった記事の掲載を許してしまったWEBRONZAの編集部の中の人は、久保田氏に謝罪させる前にやることがあるのではないか。
WEBRONZAに一番やってもらいたいこと
実は、「お詫び」より何よりWEBRONZAの中の人にお願いしたいことは、先述の通りに自分たちの言葉と責任で内容を検証した上で、発端となった記事に但し書きなり追記なりを付けて欲しいということだ。
前回のこのブログのエントリで私はWEBRONZAのtwitter公式アカウントの中の人の"後釣り宣言"に対して「子どもの発達障害に悩む親たちが釣られてしまったらどうするつもりなのか?」と指摘した。加えてWEBRONZAの中の人は私のブログを読んでくださっているそうだ*11。にも関わらず、こんなツイートをしている。
うーん、リスクはそれほど大きくないように思うのですが…。 @Mochimasa なんかwebronzaの人を急がせて中途半端な対応で済まされても困るし、あの記事を放置しておいてADHDの子の親がホメオパシーに流れちゃうリスクが増大していくのを許すわけにも行かないし、困ったな。
2010-12-31 03:49:18 via web
幸いにも、その後のやり取りでようやく私の指摘の真意が伝わり*12、今も対応を社内で議論中らしい*13ので、あまりクドクド言ってはいけないかもしれないが、さすがにこの返答には不安を覚えた。
WEBRONZAのホメオパシー記事掲載とNatureのホメオパシー論文掲載の比較から見えてくるもの
あまりに不安なので、WEBRONZAの迂闊な記事に纏わるリスクについて、もう少し別の観点からも指摘しておこうと思う。そのためには、いわゆる『水の記憶事件』とその顛末を思い出す必要がある。
『水の記憶事件』の詳細な説明は『やる夫で学ぶホメオパシー2』に譲るが、事件は1988年に当時のNature誌編集長だったジョン・マドックスがホメオパシーの効果を裏付けるとされるフランスの科学者の論文の掲載を認めたことに端を発する。まともな科学者であってもちょっとやそっとでは論文を載せられない一流誌であるNatureに、よりにもよってホメオパシーの論文が掲載されてしまったということはかなり衝撃的な出来事だったことは想像に難くない。スケールは違えど、最近までホメオパシーに批判的な報道で高評価を得ていた朝日新聞がホメオパシーに好意的な記事を載せてしまったという今回の一件と近い構図にあったと言えないこともない。ちょっと違うのは、物理学者でもあるマドックスがそんなホメオパシー論文に書いてあることを真に受けるはずもなく、明らかに「釣り」目的で掲載を決定したということだ。その証拠にマドックスは、論文の著者に掲載の条件として調査チームを受け入れることを認めさせていた。まさにこれは計画的犯行で、記事掲載後に「後釣り宣言」*14をしたWEBRONZAとは一味違う。さらにマドックスが凄かったのは、自分自身が調査チームの一員としてパリの研究室にのり込み、検証実験を実施しているということだ。検証実験の結果、バイアスを排除したより厳密な条件では論文で主張されていたようなホメオパシー的効果は観測されないことが判明し、マドックスらは"'High dilution' experiment a delusion"(「『高度希釈』実験は幻だった」)と題した調査報告を掲載して、ホメオパシー論文を叩きのめした。
ここまでやったマドックスだったが、それでも「釣り」を行ったことに関して批判されている。例えば、ある科学者はNature誌に寄せたコメントで、一流誌にホメオパシーの論文が掲載されたという認識が世界に広まってしまったこと自体がすでに有害であり、論文が撤回されたの内容が誤りだったと判明した*15としてもとしても、そのことは論文ほどは大きく報道されないだろうと指摘している*16。不幸にもこれは杞憂に終わらず、現実にホメオパシー団体は今でもなおホメオパシーの効果を裏付ける研究としてその論文を挙げているし、その後の反証実験についてはまともに紹介されない*17。
1988年、ベンベニスト教授はNature誌に自説を裏付ける論文を発表した。彼が行った実験によると、桁外れに希釈した溶液に生理的影響を及ぼす作用があることは明らかだった。こうして「水の記憶」という言葉はホメオパシー関係の人々とベンベニスト教授の説を支持する人々、そしてアレルギーの研究を行っている研究者の間では良く知られた言葉になった。
(引用元: http://www.jphma.org/topics/pdf/evidences03.pdf)
こんな調子だ。
くどいようだが、マドックスがあそこまで周到に検証・反証やっても、依然としてNature誌のホメオパシー論文は禍根を残しているのだ。一方の朝日新聞WEBRONZAはというと、まともな検証を未だ行っていない。こんな事後対応で大丈夫か?
_ __ ,、 '": : : : : : : : : : : : ` 、 /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ /: : : :/ ̄ `i / ̄ ¨丶: : : : : : : : : : : : \ /: : : /! l:i \: ヽ: : : : : \: : :\ /: : : /:.| l:i ヽ: : \: : :\:ヽ: : : ヽ /: : : ノl : l==-、 リ _.. -=='' l: : : : ヽ: :r:ゝゝ\: : \ 一番いい対応を頼む /: : i/: :i:Y:l. r弋.ハ ::::: ::ィ弋フ> l: : :iヽ: : ミミゝゝ: : : : :ゝ (: : /l: :ハ: :.l  ̄ :::  ̄ l: : l: :\ミミミゝゝ: : ゝ ヽ( l:.i: l: : :, : ::. l: : :i: : : ヽミミミゝゝく iノ !:lハ:|:ハ :. ::: 〉 ハ: :〉: : : ミミミゝゝ:〈 l/ |ハ: ハ _ _ , l-、: : : :ミミゝゝ ソ / / /: :∧ ,,,, / /:::〈: : ミミゝゝゝ 〉 __( r'" ̄ ̄`ヽ / /:::::::::::ヽ __ゝゝ/ /::::::::::::::::〈 ト ─ '"_/::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ /:::::::::::::::::::::? /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
*1:誤解がないように正確に書けば、この記事がホメオパシーに「好意」をもって書かれたかどうかは問題ではない。好意の結果であれなんであれ、ホメオパシーという偽医療の普及を利するような記事が事実をねじ曲げる形で掲載されたことは問題だ。
*2:http://togetter.com/li/82630
*3:http://togetter.com/li/84083
*4:もちろん、私はそれなりに自信をもってあのエントリーを書いたわけだが。
*5:再三にわたって指摘しているように、ヒトデは軟体動物ではなく棘皮動物なので、いろいろとおかしなことになっている。軟体動物に無脊椎動物の中でおそらく一番高度な神経系を持つタコが含まれているという意味でも、久保田氏の例え話は不適切だ。
*6:もちろん、これは朝日新聞の陰謀などではない。朝日より前にシノドスに記載された時点でこの部分は抜け落ちているし、すべてを文字に起こすのは不効率なのでそれ自体に何ら問題はないだろう。
*7:http://twitter.com/#!/Mochimasa/status/28402195056
*8:私は新聞社の中に複数の異なる意見が共存しているのは悪いことではないと思う。逆の言い方をすれば上層部の限られた人間によってガチガチに意見を統制された新聞があるとすれば、そんな新聞に大した価値はないと思う。それでも私が今回の記事が掲載されたことを問題にするのは、あの記事が「異なる意見」ではなく「低質な内容」だったからだ。ラインナップが豊富なショップはいろいろな商品を比較検討できて便利だが、その中に不良品を混ぜ込んでいるショップは優良店とは言えない。
*9:具体例はカルト新聞に詳しい。http://dailycult.blogspot.com/2010/08/vs.html
*10:もっとも、久保田氏自身が実際のところ、どう思ってこの記事を書いたのかは分からない。私にはそう見えるというだけのことなので悪しからず
*11:http://twitter.com/#!/webronza/status/20031948000862208
*12:http://twitter.com/#!/webronza/status/20550256965980160
*13:http://twitter.com/#!/webronza/statuses/22963390720770048
*14:http://twitter.com/#!/webronza/status/18307077004853248
*15:追記:この科学者は反証実験が行われる以前にコメントを寄せており、この実験結果がいずれアーティファクトとして処理されるだろうと考えていたようだ。
*16:Nature 334, 285 (1988).
*17:反証実験について言及される場合は"執拗なホメオパシー潰し"として陰謀論の文脈で取り上げられる。http://www.jphma.org/fukyu/20100206_mizu/