Not so open-minded that our brains drop out.

科学とニセ科学について書くブログ

朝日新聞WEBRONZAの記事が案の定ホメオパシーの擁護に使われている件

朝日新聞社が運営するニュースサイトWEBRONZAは昨年の12月13日に発達障害の一種である注意欠陥多動性障害(ADHD)にホメオパシーが有効であるとする記事(以下、問題の記事)を掲載した。この記事の内容が臨床試験に対する不十分な理解に基づいて書かれたものであり、読者に誤った情報を与えてしまうものだったことは12月26日の本ブログの記事で指摘した*1。その後、WEBRONZAには朝日新聞科学医療グループの久保田裕氏により、この問題を総括した記事が掲載されたが、一方で問題の記事自体は何の訂正もなく放置されている。私は問題の記事のせいでホメオパシーがADHDに有効であると信じてしまう人がでないようにと、問題の記事に注釈なり追記なりを付けるようにブログの記事twitterでの公式アカウントへのメンション、朝日新聞社の問い合わせ窓口で再三にわたって要請してきたが、朝日新聞WEBRONZA側は無視するか不誠実な対応に終始してきた*2

この問題の責任がWEBRONZAの編集部にあることは明白である。少なくとも山口県でのホメオパシーに関連した訴訟についての一連の報道*3以降にあっては「ホメオパシー」というものは注意すべきキーワードだったことは明らかで、それを無批判に扱ったこの記事が十分にチェックされることなく*4掲載されたことは落ち度と呼んでも差し支えないだろう。しかし、もっと深刻なのは問題の記事の間違いが具体的に示された今にあっても適当に理由をつけて*5問題の記事を注釈も付けずにWeb上に放置しているということだ。

そして、私は*6、科学雑誌Natureにホメオパシーを肯定する論文(実はガセ)が掲載されたケースを引き合いに出して、ホメオパシー団体がこの手の報道を都合よく宣伝に利用するおそれがあることを指摘していた*7。本エントリーでは、日本ホメオパシー医学協会会長である由井寅子氏の著書『毒と私』の中に、まさに私が懸念していた記述があることを確認したので報告する。


毒と私

毒と私

朝日新聞による正当なホメオパシー批判がWEBRONZAのヘマによって台無しにされた

問題の記述は以下に引用した通りだ。

12月、山口県の乳児死亡訴訟で和解が成立しました。それとともに、6ヶ月近くに及んだホメオパシーへのバッシングも下火になってきました。バッシングの最中でもホメオパシーを誤解と偏見から守るべく各地で講演を行い続けた私たちホメオパスの努力もあって、ホメオパシーへの世間の偏見が次第にとりはらわれてきたものと認識しています。
12月13日、ほかならぬ『朝日新聞』のネット雑誌「WEBRONZA」に、スイス在住のジャーナリスト岩澤里美氏によるホメオパシー擁護の記事が掲載され、そのなかでホメオパシーの効果が次のように報告されていました。
「ホメオパシー薬の効能の実験も進められている。たとえば、子どもの患者の8割をホメオパシー薬で治しているという首都ベルン近郊のハイネール・フライ小児科医は、ホメオパシー薬の効果が偽薬(プラシーボ)ではないことを証明しようと研究を重ねている。2001〜2005年には、治療が難しいといわれる発達障害の1つのADHD(注意欠陥・多動性障害)の子ども(6〜16歳)62人を対象に仲間たちと実験を行った。時期をずらしてホメオパシー薬と偽薬の両方を与えた結果、ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させたという。実験は二重盲検試験で、子どもたちも、親も、薬を投与した医師たちも薬の中身は知らされていなかった。」

(引用元: 由井寅子『毒と私』(幻冬舎) 149,150ページ、強調は引用者による。)


ほかならぬ『朝日新聞』という表現は、山口県での訴訟を発端にした朝日新聞によるホメオパシーに批判的な報道を念頭に念頭においたものだろう*8。つまり、"朝日新聞には相当批判されたが、結局はその朝日新聞ですらホメオパシーの効果を認めるに至った"と言いたいわけだ。少なくとも私にはそうとしか解釈できなかった。朝日新聞による正当なホメオパシー批判がWEBRONZAのヘマによって台無しにされてしまったのだ。

もしかしたら朝日新聞WEBRONZAの中の人は冒頭にも述べた久保田氏による批判的総括をもって十分に責任は果たしたつもりでいるのかもしれない。しかしながら、現実にはホメオパシー団体はそこはスルーしてホメオパシーを擁護してくれる問題の記事だけを紹介している。このことからも朝日新聞WEBRONZA編集部の考えの浅さと甘さが示されたと言えるだろう。

WEBRONZAの中の人と一色清編集長は言行を一致させるべき

WEBRONZAのtwitter公式アカウントは、問題の記事を記載したことに対する説明*9の中で以下のように述べていた。


これは2011年2月8日の時点でのtweetである。今まさに「そうしたケース」が発生しているのだから、速やかに「可能な対応策を検討」し一刻も早く実行に移していただきたいものだ。


そして、「ウェブメディアをリード」しようと企んでいるWEBRONZA編集長の一色清氏は、WEBRONZAについてのインタビューで以下のように語っている。

ただ、一つだけわかっていることがあります。どちらの方向に向いたとしても、自分たちが一次情報を集め、分析し、整理し、価値付けし、提示する立場にいなければならないということです。この立場にいることで政府の監視役となったり、ウラを取ることによって本当の情報を伝える役割を担うことができるはずです。WEBRONZAはこれからそのような立場でウェブメディアをリードしていけるようになりたいですね。

(引用元: http://www.spork.jp/2011/02/post-180.php 強調は引用者による。)


このインタビューは2010年6月30日に行われたものらしい。つまり、問題の記事がWEBRONZAに掲載される前だ。一色氏の理念通りに、自分たち*10「一次情報」であるホメオパシーの臨床試験を報告した論文を分析し、ウラを取って「本当の情報を伝える役割」を果たしていたら、こんなことにはならなかったはずだ。もうだいぶ遅いわけだが、あの記事が読者・発達障害に悩む親子に与える悪影響をこれ以上大きくしないために、今からでも言行を一致させて欲しい。

*1:誤解がないように明確にしておきたいことは、私が問題視しているのはWEBRONZAがホメオパシーに肯定したことではなく、事実に反する情報に基づいてホメオパシーを肯定するような記事、すなわち読者を錯誤に陥れるような記事を載せてしまったことだ。私はメディアの意見の多様性を損なおうとしているわけではなく、正確性を確保しようとしているだけだ。

*2:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110210/p1

*3:皮肉にも朝日新聞はこのの報道にかなり熱心だった。

*4:臨床試験を報告した論文をチェックすれば簡単に見抜ける間違いが問題の記事には含まれていた。

*5:例えば、他の記事では極普通に訂正が行われているにも関わらず、「システム上の都合などで困難」などという理由で訂正を拒んでいる。https://twitter.com/#!/webronza/status/34893143325282304

*6:もちろん、こうした事態を想定していたのは私だけではないわけだが。

*7:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110109/p1

*8:本書の中では、繰り返し朝日新聞による批判に対する言い訳と恨み節が展開されている。

*9:http://togetter.com/li/98454

*10:批判的総括を行った久保田氏はWEBRONZA編集部の外の人だし、私のブログを引用するだけで「自分たち」での検証は行っていない。