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科学とニセ科学について書くブログ

千島学説呪縛を解く2 千島学説信奉者が豚インフルエンザ騒動を批判するとこうなる。

千島学説の信奉者である稲田芳弘氏は、ガン治療のみならず、現代医学に基づく感染症対策にも概して否定的な立場をとっている。例えば、稲田氏は自身のウェブサイトの『豚インフルエンザ対策の愚』という記事で以下のように述べている。

医学の基礎理論のことを書き出すとややこしくなりますのでやめますが、
しかし、これは非常に重要な問題です。
すなわち、病気の原因は外から侵入するのか、内に潜んでいるのか。
現代西洋医学は「外から侵入」を定説とし絶対化していますが
それを真っ向から否定するのが、千島学説でありソマチッド理論です。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3668.html 強調は引用者による)
*1


前のエントリーで説明したように、稲田氏が信奉している千島学説は、自然発生説を肯定している。そんな千島学説に基づけば、病原体が体の外部から侵入しなくても、内から発生してしまうというわけだ。

ワクチンが有効に"見える"理由

稲田氏はワクチンに対しても否定的だ。

ややこしい医学理論はともかくとして、
実は現代医学の定説の間違いを実証するものがたくさんあります。
ちなみに感染症は外からと考え、それに対するワクチンが開発され、
「ワクチンの予防接種によって死亡率が低下した」と言われていますが、
それは全くのウソであり、事実誤認です。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3668.html 強調は引用者による)


私たちは予防接種の成果で感染症による死亡率が減少したと考えがちだが、稲田氏に言わせれば実際には違うらしい。どういうことか?

いったい、なぜそんなこと(治癒の成果)が起きたのかというならば、
まず、水がきれいになったこと下水処理の発達、栄養摂取、
食べ物の衛生、貧困の減少などといった生活環境の改善がありますが、
それに加えてさらに大きな原因となっているのが、
実は、流行病の原因(菌・ウィルスなど微生物)が特定できたことであり、
ちなみに百日咳や結核では、百日咳菌や結核菌が発見された直後、
病気の発症がぐ〜んと減少しています。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3668.html 強調は引用者による)


水がきれいになったこと下水処理の発達食べ物の衛生が改善が死亡率の現象につながったというのは、それらの対策が功を奏して病原体が「外から侵入」する機会が減ったためだと考えるのが普通だと思うが、これらは「大きな原因」ではないらしいのでここは深くつっこまないでおこう。*2

稲田氏がワクチンが有効だと誤認してしまう「大きな理由」として挙げたのは、病原体の特定だ。


これはどういうことか?


確かにワクチンの開発には病原体の特定が不可欠である。病原体が特定されることでワクチンが製造可能になり、それが感染症の減少につながるのは事実だ。私は、稲田氏が突然まともなことを言い出したように思えた。

だが、それは私の勘違いだった。

つまり、「病気が何か」が分かってしまうと患者さんは安心し、
そこから免疫力が回復して病気が治ってしまうという事実です。

まるでウソみたいな漫画チックな話ですが、
この事実はまぎれもなく伝染病の推移を表したグラフが証明しているのです。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3668.html 強調は引用者による)


病気の原因が特定される

患者が安心する

免疫力アップ

感染症が治る


免疫力万能神話ここに極まれり。

「事実」という言葉をこんなところで使ってしまう当たりが、稲田氏が事実をいかに軽視しているかを物語っているような気がする。ちなみに稲田氏が言う「グラフ」がどの文献のどのグラフなのかは明らかにされていない。


万歩譲ってもし本当に現代医学(というか19世紀以降の細菌学)のおかげで病原体が特定できて患者が安心した結果、病気が減っていたのだとすれば、それは歓迎すべきことで一つの現代医学の成果のように思えるのだが、飽くまで反現代医学の稲田氏はこう続ける。

ということからすれば、今回の豚インフルエンザに対しては、
マスクやうがい、手洗いのススメを報道するよりは、
「よく眠り、身体を休め、リラッックスして免疫力を高めましょう」
ということがまずメッセージされなければならないわけですが、
WHOも政府もマスメディアも、逆に警戒心を煽って不安を高めています。

この緊張感、警戒心、不安と恐れの心こそが最も免疫力を低下させますから、
いくらマスクをしても手を洗ってもあまり意味がないでしょう。
そのうえさらにワクチン(タミフルなど)を使うのですから、
豚インフルエンザが世界中に広がっていくのは当然といえるでしょう。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3668.html 強調は引用者による)


なるほど、WHOや政府、マスメディアが不安を煽っているから、「マスクやうがい、手洗いのススメ」はほとんど意味がないらしい。まして「ワクチン(タミフルなど)」(原文ママ)は逆効果であるかのような口ぶりだ。

さらに、稲田氏は別の記事『豚インフル感染ルートの怪』で、ウイルスの自然発生について明確に述べている。

このように、ハンセン病狂牛病等々のその後を観察するときに、
いまの医学、生物学がとんでもない勘違いをしていることが分かります。
昨日の神戸や大阪での「豚インフル」の発症例も、
いくら感染ルートを追いかけても出口は見えてこないと思います。
なぜなら、豚インフルは誰かから感染したのではなく、
患者その人の内側から自然発生したものだろうからです。

問題は、いったいなぜ自然発生したのか?ということですが、
その最大の原因は、マスメディアによる過剰報道でしょう。
実際、毎日のように「豚インフレが恐い恐い」と報道していれば、
その不安と恐れの波動は人々の意識に鮮烈に作用して、
環境条件と体内環境の劣化が相乗したときに、
免疫力が一気に崩れてウイルスが発生することがあります。
そしてそれが文字通り「感染」によって広がっていくことが、
かつての事例からしても、十分に考えられるのです。

(引用元: http://www.creative.co.jp/top/main3681.html 強調は引用者による)


マスクや手洗い、ワクチンでインフルエンザのリスクを低減できるとする政府やマスコミと、条件次第で免疫力が下がればウイルスは自然発生してしまうから既存の予防法・治療薬・防疫は無意味だと主張する千島学説信奉者。不安を煽っているのはどちらだろうか?

*1:ソマチッドとは稲田氏らがその存在を信じている謎の微小生命体のこと。詳しくは[http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080306#p1:title]を参照のこと。

*2:瘴気説の信奉者だったエドウィン・チャドウィックが下水道の整備を推進したことを考えれば、病原菌説を否定する稲田氏が下水処理の発達を伝染病による死亡の減少の原因に挙げるのはそれほどおかしなことではないのかもしれない。もちろん、19世紀ならばの話だが。