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科学とニセ科学について書くブログ

不死の生命体ソマチットとスターウォーズと空海と

NATROM氏の記事によれば、歌手で俳優の武田鉄矢氏がラジオで「ソマチット」についての本を紹介したらしい。本エントリーでは武田氏とNATROM氏に便乗し、武田氏が読んだという本『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』の内容の一部をご紹介したいと思う。*1


ソマチット―地球を再生する不死の生命体 (bio books)

ソマチット―地球を再生する不死の生命体 (bio books)


なお、NATROM氏も懸念しているように、本書の内容は、少なくとも潜在的には悪質なビジネスの裏付けに使われ得るものだし、実際そういったビジネスとそう遠くないと思われる製品や人物の固有名詞が登場するのも事実だ。だから、冗談や皮肉を並べる前に率直に述べておきたいのだが、この本で展開されている主張の大部分は、ほとんど疑う余地もないほど明明白白な間違いである。従って、この本に書かれているソマチット云々に基づく健康食品や医薬品まがいのもの、その他の実用品についての"甘い謳い文句"は、信じるに値しないものだということを明確に述べておくことにしよう。言うなれば、ソマチットは、ネッシーや河童のような面白おかしい存在であって、真面目な議論に耐えるような代物ではないのだ。ネッシーの尻尾や河童のお皿から作られた妙薬に期待するのは得策とは言えない。

ソマチットとは何か

本の内容に話を進める前に、ソマチットとは何かを説明しておこう。ソマチットとは、ずばり不死身の微小生命体である(キリッ。ソマチットは人間を含む動物の体内はもちろんのこと、植物、粘土や化石などの鉱物にも含まれているとされ、医療、農業、漁業、環境問題等の社会的な問題を解決するばかりか、生命の起源という純粋に科学的な謎の解明の鍵となる存在らしい。

しかし、諸般の事情によりソマチットの発見者であるフランス出身の医師ガストン・ネサン氏が開発した、その名もソマトスコープという特殊な光学顕微鏡でしか観察することができないとされたり、されなかったり*2する他、そのサイズと形は条件次第で変化してしまうので、私にはその正体をズバリ言い当てることはできない。ただし、一般には、血液などの液体の中で独特の運動をしている微粒子として紹介されることが多く、youtubeにもその様子がアップロードされている。




どう見てもブラウン運動です。ありがとうございました。


ブラウン運動とは、液体の中を浮遊する微粒子が見せるランダムな運動のことだ。これは熱運動する媒質分子(この場合は水分子)がその中を漂う微粒子に衝突することで起こる純粋に物理学的な現象である。つまり、大雑把に言えばそれなりに小さな物体が水中に漂っていれば、それが生物であろうとなかろうと、こうした運動は観察される。そして、現に、皮肉にも"ソマチットとされるもの"は野菜のような生物の一部から溶岩のような無生物的な鉱物に到るまで、さまざまな試料中に存在することになっている。




従って、ソマチットとは何かと問われて真面目に何かを答えなければならないとすれば、"ソマチットという名前で呼ばれてる微小な物"としか答えようがない。都合のいいことにソマチットは条件次第で形も大きさも変わってしまうとされているので、誰かが何かをソマチットだと言い出せば、それに反論することはなかなかできない。ソマチットなどというものは、あると言えばある、ないといえばない。そんな一つの統一的な名前をつけることに意味を見出せないものが、一部の人たちによってソマチットと呼ばれているとしか言いようがない。

ブラウン運動じゃないよ、ぜんぜんチガウヨ!

そんなふんわりした感じの定義付けしかできないソマチットだが、やはり、それを見分けるのは容易ではないらしく、発見者のネサン氏も観察方法について以下のように説明しているようだ

人の血液を観察する際、ソマチットと一緒にブラウン運動をするタンパク質球が同時に見られる。それはソマチットとよく似ているため、見間違えてしまうことが少なくない。多くの研究者が、すべてがブラウン運動であると勘違いしてしまい、それ以上の研究を断念している。
この間違いを避けるためには、スライドグラスを五十度ぐらいに温め、タンパク質を溶解した後、観察を行えば、ソマチットのみが見てとれると説明されている。

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』154ページ、強調は引用者による。)


壮絶なネタバレ感のあるキーワードがいきなり登場したが、きちんと読めばソマチットの存在を支持する人たちは何もブラウン運動を知らないわけではなく、知った上でソマチットの運動はそれとは違うと考えているらしいことが分かる。でも、どういうわけか、肝心のどう違うのかという核心をつく説明は見当たらない。それに、50度ぐらいに温めたときに残っているソマチットっぽいものの中にタンパク質が残っていないという証拠がどこにあるのかも分からない。


さて、ご存知の方も少なくないとは思うが、ここでもう少しだけブラウン運動という現象について説明を加えたい。ブラウン運動の名は、この現象を報告したイギリスの植物学者ロバート・ブラウンにちなむ。ブラウンは、水に浮かべた花粉を観察している最中に花粉が破けて中に詰まっていた微粒子が水中に漏れ、その微粒子が不規則な運動をすることを報告したのだった。



(Robert Brown 1773-1858 スコットランド・イギリス)


では、ここで改めて本の内容に話を戻そう。本書では、ソマチットが花粉の中にすら存在していることを鮮やかに示した実験が紹介されているのだ。

実験2:
植物の花粉を使用する。
花粉は一般的に二十ミクロンほどの大きさで、硬い殻に覆われている。殻を砕いて中身を二十倍の水で希釈。同様にスライドグラスとカバーグラスの間に閉じ込めた状態で観察する。
1、非常に多くのソマチットが観察される。このことから花粉の中身の五十パーセント近くがソマチットであることがわかる。

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』59ページ)


ソマチットは不滅だ!!


本の表題にもある通り、ソマチットは不死とされている。

血液中を動き回る、その謎の生命体は、炭化処理温度にも、強い放射線にも耐え、遠心分離機の残留物から取り出しても無事であり、その殻はダイヤモンドのナイフでも切ることができない硬度をもつ"不滅"の存在だった。

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』26ページ)


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  `ヽ、i (、i´ノ     ´い,, ノ '    |;;;::::::::::::::/   なんで、ソマチット不死身なん?
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節子、それ不死身なんやない! 元々、生きておらんのや!



実は先に紹介したブラウンも、古い植物標本由来の試料、アルコール処理した試料、さらにはガラスや岩石の粉末でも花粉と同様の運動が観察されたことを報告している。これらの実験を通してブラウンが行き着いた結論は本書とは真逆で、彼は過去の顕微鏡による観察では、微生物の運動とこうした無生物的な運動が混同されていた、と批判的に述べているのだ。

That molecular was sometimes confounded with animalcular motion by several of the earlier microscopical observers, appears extremely probable from various passages in the writings of Leeuwenhoek, as well as from a very interesting Paper by Stephen Gray, published in the 19th volume of the Philosophical Transactions.

Needham also, and Buffon, with whom the hypothesis of organic particles originated, seem to have not unfrquently fallen into the same mistake. And I am inclined to believe that Spallanzani, notwithstanding one of his statements respecting them, has under the head of ' Animaletti d'ultimo ordine included the active Molecules as well as true Animalcules.

(引用元:Brown, Robert (1828), "A brief account of microscopical observations made on the particles contained in the pollen of plants" in London and Edinburgh philosophical magazine and journal of science 4 :161-173. )


一方、21世紀を生きる本書の著者らは、同様の実験結果を得ているにも関わらず、斜め上どころか180度別の方向に思考の舵を取ってしまったことになる。それどころか、著者らは"ソマチットは不滅である"というご都合主義で突飛な解釈を導入することで、ソマチットのスゴさをアピールすることに成功(?)している。本当にスゴいのは、むしろ著者らの先入観と明後日の方向を向いたポジティブ思考の方だろう。

スターウォーズ弘法大師とソマチット

弘法大師と言えば、平安時代の僧侶で真言宗の開祖の空海のことだ。空海の伝説は日本中に残っているし、その卓越した能力を伝える逸話も少なくない。その空海は、どうやらソマチッドのことをよく理解していたらしい。

弘法大師は千二百年前にこのように述べている。「人は血液の中に、生命の根源をもっている。これを血脈という」と。
まさにソマチッドの存在を明確に告示しているのである。
また超能力すなわち人が失ってしまって、他の動物だけがもっている能力を取り戻す方法として、次の四つをあげ、
1、瞑想をする。
2、山中に住み、精神の浄化を図る。
3、植物のみを食する。
4、滝に打たれる
この修業を千日続けるならば、人は悟りを開く(超能力を得る)ことができる、と述べている。
弘法大師はそのように、瞑想することを超能力開発の条件としているが、これまで瞑想の効果については、科学的な説明が長いことなされていなかった。しかし、ニ〇〇八年、東京大学において、瞑想は脳の一部を大きくする(発達させる)という研究成果が発表されているので、その効果は証明ずみである。
また肉食を禁じていることは、身体の酸化を防ぐために有効であり、山野に住むことと滝に打たれる行為は、水素イオンを体内に取り込むのにもっとも有効な手段である。
これらのことから、弘法大師はソマチットをたいへんよく理解していたと考えられ、大きな驚きを覚える。

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』109,110ページ、強調は引用者による)


般  羯  多  呪  多  得  想  掛  所  亦  無  耳  不  是  異  蘊  観  仏
若  諦  呪  能  是  阿  究  礙  得  無  意  鼻  増  舎  色  皆  自  説
心  羯  即  除  大  耨  竟  ,r'""´`゙゙''、,  識  舌  不  利  色  空  在  摩
経  諦  説  一  神  多  涅  /  空海 l,  界  身  減  子  即  度  菩  訶
        呪  切  呪  羅  槃 rヽ  .,‐- ,- |. 無  意  是  是  是  一  薩  般
    波  曰  苦  是  三  三 ヾ   `゙" ,l ゙´|  無  無  故  諸  空  切  行  若
    羅      真  大  藐  世 . _>    -=='./  明  色  空  法  空  苦  深  波
    羯      実  明  三  _/|, `゙ヽー--ノヽ、,_.   聲  中  空  即  厄  般  羅
    提      不  呪  rー'""l,  'l,     / .| ||/`>、、  無  相  是  舎  若  蜜
            虚  是  /    |   'l,    /  .|./》/ ∧   色  不  色  利  波  多
    波      故  無 /  , | ヽ   ヽ,、/.@ / 《l,l / ヽ 無  生  受  子  羅  心
    羅      説  上 /  、,ヽ|/ ヾ。ツ`' 「ゞ / /《ヾ  /゙ヽ    不  想  色  蜜  経

弘法大師がソマチットを理解していたとは確かに大きな驚きである。しかし、もっと驚きなのは著者が身をもって超能力の存在を示していることだ。著者は空海の方法にならって「百日修行」を実行して「プチ超能力者」(原文ママ)になり、マカオのカジノで大当たりを出した経験を記している*3

ソマチットについての驚くべき"事実"は、空海のエピソードに留まらない。ソマチットは、ジョージ・ルーカス監督のSF映画『スターウォーズ』とただならぬ関係があるというのだ。

大阿闍梨とジェダイの秘密
「ソマチットとは何か」を説明するに当たり、真言密教の開祖、空海について、「血の中に脈々と受け継がれている尊い意識や存在」として、「血脈」という概念を語っていることを前に述べた。この、「血の中にある尊い意識や存在」とは、まさにソマチットのことではないか、という見方ができるからだ。
そして、『スターウォーズ・エピソード1』に出てくるミディークローリアンのエピソードを思い出す人もいるかもしれない。
子ども時代のアナキン・スカイウォーカー(後のダース・ベイダー)の血液サンプルに、どんなジェダイをも上回るミディークローリアンが検出される場面を取りあげた。
師であるクワイ=ガンは、アナキンにこう語りかける。「ミディークローリアンはすごく小さな生命体でね、あらゆる生物の細胞に棲んでいるんだ。(略)フォースの知識を得たり、生命が存在するのも、ミディークローリアンがいるからだ。彼らがフォースの意志を私たちに語りかけてくれる」
この部分も、かなりソマチットのあり方に肉迫している。

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』111,112ページ、強調は引用者による。)


スターウォーズなんて所詮フィクションじゃないか。馬鹿馬鹿しい」

          ,  ‐,====‐ 、
         〃   , -‐‐- 、 ハ     コホー
         |i   i !!     i iハ
         |i  _l」L =-‐ __ヽrヘ、  コホー
.          //´  ヽ.____ , '´ f rv'´)
         //        ∧ --ヘ乂/      fニニ ◎ _「Lロロ
.        //       /\`Tフ n{      __ノノ  コ !ニ, __n_ r─‐┐
       /厶   -‐=≦、_ `く ィ凧      └‐‐'   ` 廿 ′` l」Zノ  ̄ ̄
       `,ニ=‐ 、     `  _≧=‐'
    , -<     `   ‐-=≦、_
   /        ,ィ´   「 「`ヽ‐、`ヽ.
  /          /i ト、   l !  ヽ.ヽ ',
. /          //i l  \j !    i i i i
/          /\i l   lヽ!__,ノ^| l_l |
          ム /ハ___l__j_, イl   |
          ├'∨ハ i_j_j_j_j_! ! L.. -‐'77´ ̄ `二二フ
   i  i     l⌒ヽ_j__i_j二ニ=-┴ '´     //    }
   i  i     lX´,ゝ−- - --‐ァ,'      i i { {     `〈
   i  i     lX`7ニニニニニ{ {     ,L二ニ=-‐'⌒ー'
   i  i     l {`{−−−−− `  _, イ|
   i  i     ト----‐─===T丁]:| l !


と思った方は、ハリウッドを分かっていない。著者は次のページでこう解説している。

アメリカやロシアは、冷戦時代にかなり力を入れて超能力の研究をしていたらしいので、映画の素材としてこういうものが出てくるのも納得できる

(引用元: 福村一郎『ソマチット 地球を再生する不死の生命体』113ページ、強調は引用者による。)


著者は冗談で語っているわけではない。大真面目なのである。

*1:この本を昨年の7月に発見し購入していた。あろうことか(!)大学生協の書籍部の生物学のコーナーに平積みされていたのだった。

*2:末巻に解説の文章を寄せている「地域環境問題評論家」の船瀬俊介氏は、森下敬一 医師が青年時代に顕微鏡でソマチットを見つけて先輩や教授に質問するも、それはゴミだと軽くあしらわれて相手にされなかったというエピソードを披露している。船瀬氏によれば安保徹医師もそういったゴミを目にしていたそうだ。船瀬氏に森下氏に安保氏、健康に関する怪しげな書物でよく目にする名前だ。ちなみに日本ホメオパシー医学会会長で日本統合医療学会理事の帯津良一医師は本書の冒頭に文章を寄せている。

*3:113,114ページ

やる夫で学ぶマクロビの歴史と桜沢如一の生涯 3

戦後、如一はマクロビオティックの世界進出を本格化する。

マクロビの世界展開

如一は自身が世界各地に赴いて積極的にマクロビの普及に努めた他、MI*1という塾を設立して弟子たちの育成し、海外に派遣した。

弟子の中で特に有名なのは久司道夫 (くし みちお) 氏だろう。


         ___
       /     \   みち夫、
      /   \ , , /\ アメリカでも世界平和と
    /    (●)  (●) \ マクロビの普及のために
     |       (__人__)   | 頑張るんだお
      \      ` ⌒ ´  ,/
.      /⌒〜" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ
      |  ,___゙___、rヾイソ⊃
     |            `l ̄
.      |          |


         ,___
       /     \ はい、先生
      /  ⌒  ⌒ \ 行って参ります。
    /    (⌒)  (⌒) \
    |       、__',_,    |
    \       `‐'´  ,/

久司氏は東大大学院で学んでいた若者で第一期生としてアメリカに派遣された。現在も存命の人物で主にアメリカでのマクロビの普及に貢献し、現在は日本でも活動しているようだ*2

如一の最期

1966年、それは突然訪れた。


       ____
     /⌒三 ⌒\
   /( ○)三(○)\  ウッ....
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

妻リマと食事中に突然うめき声を上げて如一は倒れたという。


「あなた、あなた、しっかりして!」

         , -─‐──‐-、
          /        ゚    \  背中が痛い、押してくれ。
       / ;  ゜      °  \
      l  U      ;         l⌒ '"⌒ ヽ、
       |          u.    ;   |ー       \
.      ! u. _ノ′ヽ、__   ∪           ,;   \ ,rー、
        ゝ。((-‐)  (ー-))::。 i'′⌒ ̄ ̄` ̄ ̄ ̄ヾ`ヽ ヽ
       (  ヽ'"(__人___)"'__ ,ノ ヽ、____"___,、___ソノ__ノ
  ´ ´ `゚~゜´^" ´~`゚゜`⌒ ´"´´゚^゚^ ~゜゚`´^゙^ ^´'

「背中が痛い、押してくれ。」*3
これが私が文献から見つけ出せた範囲での如一の最後の言葉である。


こうして如一の激動の人生は終わりを告げた。
直接の死因は冠動脈血栓症だったというが、リマはアフリカ滞在時に罹ったフィラリアや如一がマクロビの研究のために飲んでいた漢方薬・紅花茶が原因ではないかと考えていたようだ。

死後の如一

      ____
    /      \  とうとう死んでしまったお
  / _ノ  ヽ、  \ 
/   (>) (<) . \ 我ながら
|    (__人__)   .  | 激動の人生だったんだお
\    .       /
  ヽ、      ../
    \   /
     ノ _.ノ
     ( .(
     )ノ
     ((
    .ノ



     |┃三
     |┃    γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
     |┃    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
 ガラッ. |┃  γ:::::::::人::::人::人::::人:::::::ヽ 如一...
     |┃  (:::::::::/  ─   ─ \:::::::)
     |┃三 \:/  (●)  (●) \ノ
     |┃     |     (__人__)    |
     |┃     \    ` ⌒´    /
     |┃三   /          /
     |┃三   \       (__ノ



         ____
       /      \   カーチャン...
      /  ─    ─\
    /    (●)  (●) \
    |     (__人__)   |
     \     ` ⌒´   ,/
    ノ           \



      _____
     / ノ' ^ヽ_\   カーチャン、
.  ゚ / 。;'⌒)  (⌒ヽ\°  逢いたかったんだお!
.  / o'゚~(___人___)~o°\゜
.  |     ゚ |/⌒ヽ|  ゚    |
  \     ` ⌒ ´    /





      _ , ― 、,__
   ,−:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ_
  ,':::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  (:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::) ドォリャー
 (:::::::::::::::::::ノ'ー'ー\ー'ー'/::::::)
 (:::::::::::::::::ノ  (●)  (●)::::)^l
  (:::::::::::::)     (__人__) |ー''''|
  `ー\ / ⌒ヽ ` ⌒´ / |  |
     /  へ  \__ /___/ /             / ̄ ̄\
   / / |    \    _ノ           / ●)) ((●\’, ・
  ( _ ノ    |      \´       _    (   (_人_)’∴ ),  ’
         |       \_,, -‐ ''"   ̄ ゙̄''―---└'´ ̄`ヽ   て
         .|                  ______ ノ    (
         ヽ           _,, -‐ ''"  ノ       ヽ   r'" ̄
           \       , '´        し/..     | J
            \     (         
              \    \    



        ____
      /      \ カーチャン、死んで早々にあんまりだお...
    /  _ノ  ヽ、_  \ なんで回し蹴り食らわすんだお?
   /  /⌒)   ⌒゚o  \ なんで死んでるのに足がついてるんだお?
   |  / /(__人__)      |
   \/ /   ` ⌒´     /





  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 如一がマクロビとかいういい加減な
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ 食事法をあっちの世界で広めてたこと、
(:::::::::/ \    / \:::::::) カーチャン、知ってるんだよ。
\:/  (●)  (●)  \ノ
 |   /// (__人__) ///.  | ちなみに足がついてるのはAAの都合だよ。
 \     ` ⌒´    / 言わせんな、恥ずかしい。
 /            /
 \       (__ノ




        ___
       /     \  マクロビはいい加減じゃないお!
     /   \ , , /\ 如一がもっと早くにマクロビに
   /    (●)  (●) \たどり着いていたら
    |       (__人__)   |カーチャンだって結核で死なずに
   \      ` ⌒ ´  ,/ 済んだんだお!
    ノ          \




  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、  如一は洋風の食事のせいで
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  カーチャンが結核で死んだと思ってる
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ みたいだけど、何の証拠があって言ってるの?
(:::::::::/ \    / \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ 当時の日本では和食で生活していた人もたくさんいたけど、
 |      (__人__)     |  その人たちにも結核で死んだ人はたくさんいたわよ?
 \     ` ⌒´    /
 /            /   洋食の人の方が結核にかかりやすかったという証拠でもあるの?
 \       (__ノ



      ____
    /:::::::::  u\  
   /ノ└ \,三_ノ\   ,∩__  じゃあ、石塚先生の食養で
 /:::::⌒( ●)三(●)\ fつuu 如一の結核が治ったのはどう説明するんだお?
 |::::::::::::::::⌒(__人__)⌒ | |   |
 \:::::::::   ` ⌒´   ,/_ |   |
   ヽ           i    丿
  /(⌒)        / ̄ ̄´
 / /       /






  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 結核は当時死の病だったのは事実だけど、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 同時に自然に治ることがある病気でもあるのよ。
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ如一の結核が治ったのは偶然じゃなくて、
 |     (__人__)     | 石塚先生の食養の成果だという証拠はあるの?
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



        ノ L____
       ⌒ \ / \  マクロビで良くなったのは
      / (○) (○)\ 如一だけじゃないんだお。
     /    (__人__)   \
      |       |::::::|     | いくらなんでもすべてを
     \       l;;;;;;l    /l!| 偶然で片付けることはできないんだお!
     /     `ー'    \ |i
   /          ヽ !l ヽi
   (   丶- 、       しE |そ  ドンッ!!
    `ー、_ノ       �堯�l、E ノ <
               レY^V^ヽl




  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、体験談なんて
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ何の証明にもならないわよ。
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)何の有効成分も含まれていない
\:/  (●)  (●)  \ノホメオパシーのレメディでも
 |     (__人__)     | 「効いた」「治った」なんて
 \    ` ⌒´     / 体験談は五万とあるじゃない。
 /            /
 \       (__ノ  体験談なんてそんなものよ。

体験談が何の参考にもならないことはこのブログで再三に渡って指摘してきたことだ。具体的には下記を参照されたい。

  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 でも、まぁカーチャンもマクロビで
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 体調が良くなった人が一人もいない
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ とまでは言わないよ。
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)
\:/  (─)  (─)  \ノ 例えば、砂糖たっぷりの料理より
 |     (__人__)     | 砂糖も果物も避けるマクロビ食の方が
 \    ` ⌒´     / 糖尿病の人にやさしいということは
 /            /   理論上ありうるわ。
 \       (__ノ



       ____
     /⌒  ⌒\  そうなんだお!
    /( ●)  (●)\強い陰性食品である砂糖の摂取は
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\厳に慎むべきなんだお。
  |     |r┬-|     |果物も食べ過ぎはよくないお!
  \      `ー'´     /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 でも、だからってマクロビが正しいという
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ことじゃないのよ、如一。
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)カーチャンが言ってるのは、
\:/  (●)  (●)  \ノ ある一つの観点から見れば、
 |     (__人__)     | マクロビ食の方がそうでない食事より
 \    ` ⌒´     / ましになる可能性があるってだけのことよ。
 /            /   
 \       (__ノ



     ____ 
   /      \    (さすがに看護婦だけあってカーチャンは手強いお)
  /  \   ,_\.  どういうことだお?
/    (●)゛ (●) \ 
|  ∪   (__人__)   |
/     ∩ノ ⊃  /
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、  糖尿病の人の食事は
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  糖分だけを制限すればいいってわけじゃないの。
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ 他の栄養素のバランスも考えなきゃだめなのよ。
(:::::::::/ \   / \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ 如一のマクロビは陰と陽だけで考えてるから、
 |     (__人__)     |  全体のバランスが蔑ろにされてるわ。
 \    ` ⌒´     / 
 /            / 例えば、如一の『新食養療法』にはこんな記述があるわよ。
 \       (__ノ  

糖尿病
 インシュリンの如きは全く無効で恐るべき大害あり一時は効いても最後に恐ろしいことになる。正食に限る塩味栗めしがよろしい。副食物で油気を強く取る事に工夫をする。殊に効果の大なるは、小豆と昆布と南瓜を塩からく煮て毎食椀に一杯宛食すること。禁物は菓子果物一切、漉餡類。パン、馬鈴薯、唐瓜、新漬物、肉類、生玉子、ビール、サイダー、酒、ブドー酒、水氷、塩うすきもの、入浴。最大毒物は酢のもの類である。口渇には玄米スープに食塩少量入れて飲用するがよい。二週間から遅くとも二ヶ月位で尿中糖分を検出しない様になる。

(引用元: 桜沢如一『新食養療法-食による健康と自由-』(1978年) 137ページ、強調は引用者による。)


       ____   我ながら全くもって合理的な処方なんだお。
     /⌒  ⌒\   無双原理では甘い砂糖は陰性で
   /( ―)  (―)\  辛い塩は陽性なんだお。
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \
  |       |++++| 」_ キラッ | 陰性の砂糖からくる糖尿には
  \     `ー''´ l   /  陽性の塩が効くんだお。



      _ , ― 、,__
   ,−:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ_
  ,':::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ オゥラ
  (:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::)
 (:::::::::::::::::::ノ'ー'ー\ー'ー'/::::::)
 (:::::::::::::::::ノ  (●)  (●)::::)^l
  (:::::::::::::)     (__人__) |ー''''|            オゥフッ
  `ー\ / ⌒ヽ ` ⌒´ / |  |
     /  へ  \__ /___/ /             / ̄ ̄\
   / / |    \    _ノ           / ●)) ((●\’, ・
  ( _ ノ    |      \´       _    (   (_人_)’∴ ),  ’
         |       \_,, -‐ ''"   ̄ ゙̄''―---└'´ ̄`ヽ   て
         .|                  ______ ノ    (
         ヽ           _,, -‐ ''"  ノ       ヽ   r'" ̄
           \       , '´        し/..     | J
            \     (           /      |
              \    \         し-  '^`-J



       ____
     /      \ なんで蹴るんだお
   /  _ノ  ヽ、_  \ひどいお
  / o゚((●)) ((●))゚o \
  |     (__人__)'    |
  \     `⌒´     /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ   
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ  カーチャンは如一を人様を
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::) 騙すような子に育てた覚えはないよ。
\:/。(。⌒) (⌒。) .。\ノ
 |     (__人__)     |  塩分は高血圧を誘発して
 \    ` ⌒´     /  糖尿病の合併症のリスクを高めるから
 /            /    取り過ぎちゃいけないのに、
 \       (__ノ    どうしてこんなことを本に書いたんだい?

現代的栄養学を知っている人は、様々な栄養素を過不足なくバランスよく摂取するのが、健康的な食事だと知っている。それに対して、マクロビオティックでは基本的に陰と陽だけに着目して、そこでバランスをとろうとしている。砂糖の過剰に塩の摂取で対抗できると考えているのはそのためだ。本当の意味でのバランスのとれた食事がマクロビオティックで実現しないのは明白だが、もしかするとルイ・ケルヴランの生体元素転換説を信じていた如一には、そんな指摘は無意味に思われたのかもしれない。


      ____
    /:::::::::  u\        それは飽くまで西洋医学の結論だお。
   /ノ└ \,三_ノ\   ,∩__  その西洋医学は間違ってるんだお。
 /:::::⌒( ●)三(●)\ fつuu
 |::::::::::::::::⌒(__人__)⌒ | |   | 無双原理こそ宇宙の真理なんだお。
 \:::::::::   ` ⌒´   ,/_ |   |
   ヽ           i    丿
  /(⌒)        / ̄ ̄´ 
 / /       /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、  ムソーだかルソーだか知らないけど、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  如一はちゃんとそれを証明したのかい?
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)お前の嫌いな西洋医学の医者はきちんと
\:/  (●)  (●)  \ノ 臨床試験で塩分が血圧を上げて合併症の
 |     (__人__)     | リスクを高めることを証明してるんだよ。
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ


       ____
     /      \   そ、そうなのかお?
   / ─    ─ \  (さすがに看護婦だけあってカーチャンは手強いお)
  / -=・=-   -=・=- \
  |      (__人__)  U  |
  \     ` ⌒´     /

Does altering dietary salt intake aid in the prevention and treatment of diabetic kidney disease?

There is strong evidence that our current consumption of salt is a major factor in increasing blood pressure (BP), whether BP levels are normal or raised. Diabetes makes it more likely to develop high BP, which increases the risk of strokes, heart attacks and speeds up the progression of diabetic kidney disease. This review found 13 studies including 254 patients with type 1 and type 2 diabetes. Reducing salt intake by 8.5 g/day lowered BP by 7/3 mm Hg. Public health guidelines recommend reducing dietary salt intake to less than 5-6 g/day and people with diabetes would benefit from reducing salt in their diet to at least this level.

(引用元: http://www2.cochrane.org/reviews/en/ab006763.html)


  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 それにマクロビのせいで
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 実際に健康被害を被ってる人
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽだっているのよ。
(:::::::::/ \    / \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ
 |   /// (__人__) ///.  | これはカーチャンが
 \     ` ⌒´    /愛読してる医学雑誌BMJに掲載された
 /            /  マクロビ食で育てられた
 \       (__ノ   赤ちゃんの写真よ。

画像はここ
左が病院に運び込まれたときの写真で、右が数週間後の写真。乳幼児としては不自然に痩せていたことが一目瞭然である。


Roberts, I. F., West, R. J., Ogilvie, D. & Dillon, M. J. Malnutrition in infants receiving cult diets: a form of child abuse. British medical journal 1, 296-298 (1979). URL http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1597704/.

  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ   
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ  カーチャンは悲しいよ。
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::) 
\:/。(。>) (<。) .。\ノ カーチャンは如一を一生懸命、
 |     (__人__)     |  育てたのに、その如一が
 \    ` ⌒´     /  人様の赤ちゃんを病気にしてしまうなんて。
 /            /
 \       (__ノ   カーチャンは死んでも死に切れないよ。




         ____
       /   u \せ、西洋医学の医者の論文なんて
      /  \    /\端から信用出来ないんだお!
    /  し (○)  (○) \
     | ∪    (__人__)  J | マクロビを陥れる陰謀論かもだお!
    \  u   `⌒´   /




       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l  そう思っていた時期が
       /  @ o  @ ヽ 私にもありました、なのだ
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::)
      リ::::::( ( ●) (●::(
.      ハ::::ハ  ,, r‐ァ j) )
        Y ヽ    ̄イ' y
        / 'ヘ   j ̄ヽ
       /、  ヾ /    ヘ
        il     Y   il
        l ヾ .._  i!  .. イl
        l j    i!    l l




         ____
       /     \ だ、誰だっけお?
.    /       \
.  / /) ノ '  ヽ、 \
  | / .イ '(ー) (ー) u|
.   /,'才.ミ). (__人__)  /
.   | ≧シ'  ` ⌒´   \
 /\ ヽ          ヽ



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 あら、如一、忘れたのかい?
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ アヴェリーヌちゃんは
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::) あなたの塾の生徒だったんだろ?
\:/  (●)  (●)  \ノ
 |     (__人__)     |
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l
       /  @ o  @ ヽ  久司道夫の妻の
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ 久司アヴェリーヌ偕子なのだ。
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j 如一先生には旧姓の横山偕子の方が分かりやすいのだ。
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::) 
      リ::::::( ( ●) (●::(  
.      ハ::::ハ  ,, r‐ァ j) )  私も昔はMI塾生で、先生の発行した
        Y ヽ    ̄イ' y   新聞『世界政府』を配ってよく公安とやりあってたのだ。
        / 'ヘ   j ̄ヽ   
       /、  ヾ /    ヘ 
        il     Y   il  思い出してくれたのだ?
        l ヾ .._  i!  .. イl
        l j    i!    l l



       ____
     /⌒  ⌒\  思い出したお
    /( ●)  (●)\ 旦那のみち夫は元気なのかお?
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /



       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l
       /  @ o  @ ヽ  いい質問なのだ。
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j でも、その前に
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::) 私がどうしてここに
      リ::::::( ( ●) (●::(  いるのか考えてほしいのだ。
.      ハ::::ハ  ,, r‐ァ j) )
        Y ヽ   ∩ ノ ⊃
      /     ./ _ノ
      (.  \ / ./ ) │
      \  “ /___|  |
.        \/ ___ /



     ____   
   /      \   ここにいるということは
  /  \   ,_\.  アヴェリーヌも死んじゃったのかお?
/    (●)゛ (●) \  
|  ∪   (__人__)    |
/     ∩ノ ⊃  /
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 如一、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  アヴェリーヌちゃんは、
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ 子宮頸がんで亡くなったのよ。
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ
 |     (__人__)     |
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l
       /  @ o  @ ヽ   そうなのだ。
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ  
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j そして、みち夫は私の子宮頸がんについて
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::) こう書いているのだ。
      リ::::::( ( ー) (ー:::(   「|
.      ハ::::ハ  ,, r‐ァ j) )   l└-、
        Y ヽ    ̄イ' y   くi_l_レ
        / 'ヘ   j ̄ヽ   〉 ノ
       /、  ヾ /    ヘ  /  }
        il     Y   i \'  /
        l ヾ .._  i!  .. イ\  /
        l j    i!    l   ー'



         ____    アヴェリーヌは油を摂り過ぎだったのですよ。
       /   u \   いくら植物油だからといっても
      /  \   / \  限度というものがあります。
    / U (○)  (○) \
    |    u  __´,_  U |
     \u    /__/   /



       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l
       /  @ o  @ ヽ       みち夫は自分の妻であり
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ      マクロビの実践者でもあった
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j     アヴェリーヌがガンになって
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::)     しまったことを素直に
      リ::::::( ( ー) (ー:::(   「|  認められなかったのだ。
.      ハ::::ハ  ,, r‐ァ j) )   l└-、
        Y ヽ    ̄イ' y   くi_l_レ そして、私がガンで死んだこと
        / 'ヘ   j ̄ヽ   〉 ノ  についてはこう書いてるのだ。
       /、  ヾ /    ヘ  /  }
        il     Y   i \'  /
        l ヾ .._  i!  .. イ\  /
        l j    i!    l   ー'



     /.: ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
    /: : :            \    妻はうかつにも放射線治療という
  /: : : _       _   \   暴力的な治療を受けてしまったのです。
/: : : : ´  , `      ´   `    \ そのせいで死んでしまったとしか
: : : : :/´ `ヽ      r´ `ヽ.     \私には思えません。
: : : ::(  f;;;;j l,     l f;;;;j )      l
: : : : ヽ_ ` _ノ     ヽ_ ´_ ノ;;:::    |
: : : : : : ´"''"   '   "''"´        l
: : : : : : . .    `           /
\: : : : : : :. ー -- - -     /
/ヽ: : : : : : : : : : :       イ\
: : : : : : : : : :.``ー- -‐'"´      \
: : : : . : : . : : .                 \



       r 、.     ,、
       l ヽ,,, -ー -', l
       /  @ o  @ ヽ   みち夫は私が死んだのを
      Y , ヘ^ ⌒ ^^⌒ヽ ヽ 私が放射線治療を受けていたせいだと
      l γ::..:::::..:::...ヘ、: : : ハ j 本に書いてるのだ。
      `ノ :ノ...:ノ ノ  ヽ ::::::) 
      リ::::::( ( >) (<::(  みち夫の頭の中にはマクロビを
.      ハ::::ハ U, r‐ァ j) )  正当化することしかなかったのだ。
        Y ヽ    ̄イ' y   だから、その対局に位置づけた
        / 'ヘ   j ̄ヽ   西洋医学の治療のせいで
       /、  ヾ /    ヘ  私が"うかつに"死んだことにすれば、
        il     Y   il  都合が良かったのだ。
        l ヾ .._  i!  .. イl


     ____
   /     \
  /  ─    ─\
/   ‐=・=‐ ‐=・= \   ・・・
|       (__人__)    |   マクロビ以前に
\     ` ⌒´   ,/      夫として、人としてどうかと思うお。

これは久司道夫氏の著書『マクロビオティックをやさしくはじめる』に書かれていることだ。

マクロビオティックをやさしくはじめる

マクロビオティックをやさしくはじめる

がんで亡くなった妻のこと
さて次章では主な病気・症状ごとに、マクロビオティックの取り組みを紹介していきたいと思いますが、その前に私は忸怩たる思いで記さねばならないことがあります。それは妻の死についてです。私はマクロビオティック運動の最良のパートナーであった妻を、二〇〇一年七月三日、子宮頸がんによって亡くしたのでした。
いうまでもなく、妻はマクロビオティックの実践者です。食事の内容に問題があったわけではありません。その妻がなぜがんに冒されてしまったのか。それは「食べ方」に問題があったからです。
彼女の好物にコンブとサワド・ブレッドがありました。サワド・ブレッドとはマクロビオティックの原則を踏まえてつくられた黒パンの一種で、私たちが普及させたものです。ですからそれを食べることにはまったく問題はありません。ところが妻は、その二つをいつも油で炒め、しかも毎日のように食べていたのです。
私は「いくら植物油でも、脂肪の取り過ぎはよくない」と諭しましたが、五黄のイノシシ生まれの彼女はなかなか頑固で、私の忠告を聞き入れません。「大丈夫よ。これは身体にいいものなんだから。逆に生野菜なんかを一緒に食べると、むしろ陰性のものの摂りすぎになるのでしょ」と反論するわけです。マクロビオティック食に関して、妻は妻なりの考え方がありました。
しかし、いくら「いいもの」でも、やはり脂肪の摂りすぎがいいはずはありません。やがてその積み重ねによって、子宮からの出血が起こるようになったのです。
私は病院での検査をすすめましたが、ここでも頑固で思い込みの強い妻は、「いいものを食べているから、月経が再発したのかしら」などといって、検査にいきませんでした。ついに痛みが伴うようになってはじめて、妻はしぶしぶ病院に足を運びましたが、検査の結果は子宮頸がんだったのです。しかも第四期まで進んでいました。
主治医の主張と妻の意向もあって、とりあえず幹部だけは放射線治療で除去しましたが、退院後は私が処方したマクロビオティック食に改めさせました。すると数ヶ月で、がんはきれいになおったのです。
こうして妻は国外への出張旅行に同伴できるまで回復し、ひと安心した私は、それまで控えていた単独での講演旅行に出るようになりました。
その留守中のこと、ハーバード大学の医学部教授が、「子宮頸がんは再発しやすいから」と、再発防止のために内部からの放射線治療を妻にすすめたのでした。「万が一の予防」という言葉に気持ちを動かされたのでしょう、彼女はうかつにもそんな治療を受けてしまったのです。
講演先のフロリダからボストンに帰り、私が慌てて病院に駆けつけたときには、すでに放射線治療は終わったあとでした。その二週間後、背中を走る経絡 (エネルギーの通路) に沿って、激しい痛みが襲うようになったのです。
医師は末期がんに特有の転移で、治療自体は正しかったと主張を譲りません。しかし、放射線を内部に当てるという暴力的な治療法が原因であることは、私の目にはあきらかでした。医師は妻の余命をニ、三ヶ月と宣告し、ホスピス (死を安らかに迎えるための環境づくり) の提案をしてきましたが私はそれを断り、彼女を家に連れ戻したのです。
それ以降は、私が再び処方したマクロビオティック食に戻ると、一週間ほどで痛みは消えました。医者の予想を裏切って、妻は命をつなぎとめ、車椅子ながら私とともに何度か旅行に出たこともあります。しかし、妻にはあまりにも短く、悔いばかりを感じ続けた日々でした。久司アヴェリーヌ偕子 (旧姓横山)、享年七八でした。

(引用元: 久司道夫『マクロビオティックをやさしくはじめる』2004年、200-202ページ、強調は引用者による)


久司道夫氏の文章からはマクロビを正当化し擁護しようという強い意思が感じとれる。そうでなかったら、病気で死んでしまった妻について「五黄のイノシシ生まれの彼女はなかなか頑固」とか「彼女はうかつにもそんな治療を受けてしまった」などという書き方で妻の責任を強調したりするだろか。仮にアヴェリーヌの死が彼女自身の責任によるものだったとしても普通はこんなひどい書き方はなかなかできないと思う。

医師が「治療自体は正しかったと主張を譲」らなかったと書かれているが、私には、むしろマクロビ自体は正しかったとして頑なになっているのは久司道夫氏の方ではないのかと思えてならない。


  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、 如一も何でもかんでもセイヨウイガクガーって
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 西洋医学を目の敵にしてるとこうなっちゃうわよ。
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ 
(:::::::::/ _ノ   ヽ_  \:::::::)それに、みち夫君だって、
\:/  (●)  (●)  \ノ 今では自分が大腸がんになって、
 |     (__人__)     |  素直に外科手術を受けてるのよ。
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



         ____
       /     \ みなさん、ご心配をおかけしましたが、
      /  ⌒  ⌒ \ お医者様の迅速で効果的な手術のおかげて
    /    (⌒)  (⌒) \私は回復に向かっています。
     |       __´___    |お医者様には感謝していますよ。
      \       `ー'´  ,/
      /⌒ヽ        ィヽ
      / rー'ゝ       〆ヽ
    /,ノヾ ,>      ヾ_ノ,|
    | ヽ〆        |´ |

Dear Friends,

I would like to thank my sons for letting all of you know that I recently had a blockage removed from my colon. Through them I have received many warm and supportive messages and prayers from you and I am infinitely grateful for your kindness.

As I hope you can imagine, my decision to have surgery was not taken lightly. My colon was nearly 100% obstructed and the risks caused by my condition were potentially fatal. It became clear that surgery was the quickest and most effective immediate solution. Though the blockage turned out to be a malignant tumor, the medical doctors were able to remove all of it and I thank them for their expertise and support.

(引用元:http://macrobiotics.co.uk/letterfrommichio.htm)


       ____
     /ノ   ヽ、_\
   /( ○)}liil{(○)\
  /    (__人__)   \   ・・・
  |   ヽ |!!il|!|!l| /   | 開いた口がふさがらないお
  \    |ェェェェ|     /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ _ノ   ヽ_  \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ   如一もいい歳なんだから
 |     (__人__)     | みち夫君を見習って
 \    ` ⌒´     / いいかげん素直になったらどうなの?
 /            /
 \       (__ノ




      ____
    /:::::::::  u\        みち夫みたいに西洋医学に頼らなくても
   /ノ└ \,三_ノ.\   ,∩__  ガンはマクロビで治せるんだお!
 /:::::⌒( ●)三(●)\ fつuu
 |::::::::::::::::⌒(__人__)⌒ | |   | 無双原理こそ宇宙の真理なんだお。
 \:::::::::   ` ⌒´   ,/_ |   |
   ヽ           i    丿
  /(⌒)        / ̄ ̄´ 
 / /       /



  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、へぇ、そうなのかい?
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ 
(:::::::::/ _ノ   ヽ_  \:::::::)
\:/  ( ―) ( ―)  \ノ
 |     (__人__)     |
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



         ____
       /      \  たしか、如一の書いた
      /  ⌒  ⌒ \ 『新食養療法』にはガンに対する
    /    (●)  (●) \マクロビ的対処法が書かれていたんだお
    .|    :::⌒(__人__)⌒::: |   __
     \      `ー' / ̄ ̄⌒/⌒  /
    (⌒\     /  養  / 新 /  みち夫もこれを読めばよかったんだお
    i\  \  ,(つ 療  / 食 ⊂)
    .|  \   y(つ 法 /,__⊆)

ガン
 正食家には絶対にない。
手当ては芋パスター、干葉湯、生姜湯。

(引用元: 桜沢如一 『新食養療法-食による健康と自由-』(1978年) 150ページ)


ガン 正食家には絶対にない。
ガン 正食家には絶対にない。
ガン 正食家には絶対にない。


大事なことなので三回書きました。

       /  ̄ ̄ ̄ \:
      ::/    u  . ::::\:
     ;: |  u     u.  :::::::| :
      \.....:::::::::    ::::, /
      r "     .r  /゚。
    :|::|  u  :::::| :::i
    :|::|:    u.:::::| :::|:
    :`.|:     .::::| :::|_:
     :.,':     .::(  :::}:
     :i      `.-‐"




  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  あら、如一、
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ なんて書いてあったんだい?
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::)カーチャンにも見せておくれよ
\:/  ( ●) ( ●)  \ノ
 |     (__人__)     |  みち夫君もこれを読めばガンを治せたんでしょ?
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ







         /  ̄ ̄ ̄ \:
      ::/   j :::::\:::/\;゚:
      ;: |     。<一>:::::<ー>| : 
       \...::::::。゚~(__人__)~゚j
       r "    ;゜.` ⌒´,;/゜カ、カーチャン...
       i::: |::::      |::|:
      :|::: |::::.      :|::|:
      :_|::: |::::.      :|.´:
      :{:::  )::.     :',.:
      ゛‐-.`       i:


      _____
     / ノ' ^ヽ_\    カーチャン、ごめんお
.  ゚ / 。;'⌒)  (⌒ヽ\° 如一はカーチャンを救えなかったから
.  / o'゚~(___人___)~o°\゜せめてマクロビで他の人を助けたかったんだお
.  |     ゚ |/⌒ヽ|  ゚    | こんなはずじゃなかったんだお
  \     ` ⌒ ´    /




  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽブワッ
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ  如一....
(:::::::::/ ─    ─ \:::::::) やっと分かってくれたのね
\:/。(。⌒) (⌒。) .。\ノ
 |     (__人__)     |
 \    ` ⌒´     /
 /            /
 \       (__ノ



       ____
     /      \  如一がしっかりしないから
   /  _ノ  ヽ、_  \ こんな間違った考えが広まってしまったんだお
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \
  |     (__人__)    | 如一は大馬鹿者なんだおっ
  \     ` ⌒´     /





      / ̄ ̄ ̄\  如一の教育が至らないばかりに
    / -―、  ―-\ みち夫は真の正食家になれず、ガンになってしまったのです。
   / ィてフ> i iィてフ> \  
   |    (__人__)    |  みち夫は如一の弟子なら
   \      ^     /   マクロビでガンを治せばよかったのです。
   /             \





           ,. -‐―――‐-、
        γ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 
       /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
      γ::::::::::::::人:人::人::人:::::::::::ヽ
     .(::::::::::::/ _ノ三ニヽ、_.\:i|:|l:::)
      \:/  (◯)三(◯). .il l |i iノ
       |     .(__人__)'l i | | || l.
       \     `⌒_´ (._.,ィ⌒).l.
              ./〈 ..K, (⌒)ト、
             /  ヽ ノノ,_(⌒)◎)゜o
             /o゜((○',..ル_に)   .ヽ、
             /       ヽ こノ     ヽ
            .|      (__., 、__)    |
             \ .     ` ⌒´    /

おわり


マクロビは単なる"個人の自由"の問題か?

言うまでもなく、個人が何を食べるかは個人の自由に帰する問題だ。では、マクロビもそれで済まされる問題だろうか。

それでは済まされないケースの一つは、カーチャンが指摘したように、保護者が子どもにマクロビ食を与える場合だ。子どもは自分の意思でマクロビ食を選べるわけではないし、子どもが親とは別人格である以上、お決まりの「自己責任」を理由にした正当化は成り立たないからだ。子どもは元々発達段階にあるから大人以上に栄養に気を使わなければならないという事情もあり、大人と比べてマクロビ食が致命的な影響を与えやすいということもある。

もう一つのケースは、誤情報に基づいてマクロビが推奨されている場合だ。これはマクロビを実践している側というよりも、マクロビを推進・宣伝している側が非難されるべき問題だろう。例えば、糖尿病の患者が如一の教えに従って塩分過多の食事をとって病状が悪化してしまった場合の責任は、基本的には患者ではなくマクロビを薦めた側にあるはずだ。

実は前者の問題も、親がマクロビ食が有害だと知りながら故意に子どもにそれを与えるはずもなく、根本的には後者の責任によるところが大きいと思う。


後者の例でタイムリーなのは、マクロビによる放射能対策だろう。例えば、如一の妻リマの名を関する株式会社リマ・コーポレーションは4月に「放射能汚染に対するマクロビオティック情報」と題したページをウェブサイトに開設し*4マクロビオティック的放射能対策を掲載している。そこに掲載されている内容は、「塩気は放射能に有効」*5だとか、「味噌に放射能を体外に排出する効果がある!」*6だとか、挙句の果ては白砂糖で白血病になりかねない*7というもはや放射能関係なくね?とツッコミを入れざるを得ないことまで書かれている。

これらの対策が有効だとする証拠は私の知る限り存在しない*8。むしろ、これらに期待して適正な放射能対策を怠ってしまったり、偏った食事で体調を崩すリスクの方が問題にされるべきだろう。

*1:フランス語のMaison Ignoramus(無知なものの家)から。

*2:http://www.macrobiotic-academy.jp/

*3:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 241ページ

*4:http://www.lima.co.jp/radioactive/

*5:http://www.lima.co.jp/radioactive/kira2_01.html

*6:http://www.lima.co.jp/radioactive/hashimoto_01.html

*7:http://www.lima.co.jp/radioactive/hashimoto_03.html

*8:味噌に関しては具体的にそれを検証し否定する情報もある。http://www.foocom.net/special/4379/

やる夫で学ぶマクロビの歴史と桜沢如一の生涯 2

第1回では、マクロビオティックの創始者 桜沢如一がその原形である食養と出会い、独自性をもった食事法・思想であるマクロビオティックが成立するまでを説明した。本エントリーでは、マクロビ自体からは少し離れて如一の破天荒な政治活動の来歴をご紹介する。

危険分子『桜沢如一

如一は1941年春、偕行社という陸軍の関連団体で講演を行った。


         ___
       /     \ キリッ
      /   \ , , /\
    /    (●)  (●) \   『日本を滅ぼすものはたれだ』
     |       (__人__)   |
      \      ` ⌒ ´  ,/
.      /⌒〜" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ
      |  ,___゙___、rヾイソ⊃
     |            `l ̄
.      |          |

講演の中身は反戦演説だったという。真珠湾攻撃が行われるのはその年の12月である。如一はこの緊迫した時期に大胆にも軍関係者の前で反戦演説をぶったのだ。なお、『日本を滅ぼすものはたれだ』という挑発的な文言は開戦直前の10月に出版され、後に発禁になる如一の著書のタイトルである。


如一の思想からは西洋文明に対する対抗意識をヒシヒシと感じるし、彼の思想には日本(人)に優越性を主張する部分*1があったように思われる。そんな如一が軍国主義的な当時の世相に反して戦争に反対した理由は以下のようなものだったらしい。

もちろん食養理論の上に立っての言動であるが、負けるから戦争をやってはいけない、やるなら食養を十分に取り入れろ、そうでないと戦死より病死が多くなるという論法であった。絶対反戦論ではなく、愛国的な発言だが、当時としては命がけだった。

(松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 73,74ページ)


さすがの如一も開戦からしばらくは表立って反戦活動することはできなかったようだが、終戦が近づく1944年、新潟県の妙高に疎開していた如一はついにある計画を実行に移す。


       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  / o゚((●)) ((●))゚o \  このままじゃ日本は戦争に負けてしまうお
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒´     /


       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \   でも、軍部は飽くまで戦争を続けるつもりだお。
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \
  |     (__人__)    |  
  \     ` ⌒´     /

 
       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   だからソビエトさんに日米の仲裁をお願いするお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

如一は満州に渡り、単身馬で国境を突破して、ソ連に日米の仲裁を依頼しに行こうと画策したのだ。


密航に成功しハルビンについた如一は、食養の講演を通して懇意にしていた浜江省次長の田村敏雄という人物に合う。田村は始め如一の説得を試みるが、最終的に折れて旅券を発行し物資を用意する。さらに、田村は内務省からの如一逮捕令を握りつぶしさえした。


しかし、


      / ̄ ̄\  銃殺されるだろ、常識的に考えて。
    /   _ノ  \
    | u   ( ●)(●)   ____
.    |     (__人__)  /:::::::::  u\      馬で国境を突破するんだおっ
     |     ` ⌒´ノ/ノ└ \,三_ノ\    ,∩__
.     |        /::::::⌒( ●)三(●)\ fつuu
.     ヽ       |:::::::::::::::::⌒(__人__)⌒ |  |   |
      ヽ      \::::::::::   ` ⌒´   ,/ _ |   |
    /  ̄\   /⌒ .ヽ          i    丿
    |  ヽ、 \/   /(⌒)       ξ) ̄ ̄´
        \ ./   / /         |

さすがの田村も国境突破だけは許さず、関東軍の特務機関に了解を得ることを求めた。

如一は説得に応じ、特務機関に乗り込み土井と直談判を試みるが、


              /:::::,r'´      ヽ:::::::::l,   
             l:::::::l_,,_    _,,-‐-: :'l:::::::::l
              ゝ::iィ'"`゙`t‐l´ ̄~゙i、:.l:::::::::l   ソ連に仲裁を依頼する?
               ゙ビ'--‐i  ゙'‐-‐'': :`'´ i丿
               ゙i    ``     : : : リノ     ハッハッハッ、
                 ゙i  r--‐ーッ : :r、ノ      冗談も休み休み言いたまえ!
                 ゙i ``''''"´ : :/::l'"
               . ゙i、,___/: :l_
               _,,(F-、, _,,-‐''''""´ !、,_
          _,,,..-‐/''´::l゙`-、-V_,,,、、-‐'''"ノ;;;;;;;`゙`'‐ 、,_
    ,,-‐'""´ ̄:::::::::/:::::::,rレ'´  i、ヽ--‐ 丿::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;`゙`'‐-- 、
  ,ィ'::::::::::::::::::::::::::::/_/     i : ヽ ,ィ':::::::::::::::::::l:::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:ヽ
 r':::::::::::::::::::::::::::::::::::::,r       i : : l:::::::<⌒ ̄:::::::::::::::::::,i::::::::::::::;;;;;;;;;;ヽ
_l;::::::::::::::::i:::::::::::::::::::::i          :l::::::::::::::>::::::::::::::::::::/:::::::::::::::::::::;;;;;;;;;l
::::::::::::::::::i:::::::::::::::::::::::ゝこヽ       :l::_,,,..-‐''´:::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;l、
::::::::::::::::::i:::::::::::::::::::::::/:::::::ゝ    ,,ィ''´::::::::::::::::::::::::::::::::::::l:::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;ヽ
   特務機関 土井将軍

当然である。むしろ田村がなぜ如一の計画に賛同したのか謎である。そして如一は逆に特務機関の手によってニュー・ハルビン・ホテルに軟禁状態に置かれてしまう。

ところが、如一はホテルの社長近藤繁司の協力を得てホテルから脱出することに成功する。


                  ,ヘ
      ____      / /
     /\  /\   / /
   /( ⌒)  (⌒)\/  /
  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\ /  特務機関恐るるに足らずだお
  |     |r┬-|       |
  \     ` ー'´     /
  /          \
 /             \
/  /\           ヽ
 /   \          ノ ミ
U      ヽ        ノ   ミ

如一は、ソ連領事館の門をくぐり得意のフランス語で総領事との面会を要求する。


       ____
     /⌒  ⌒\
    /( ●)  (●)\    イサコーンシヨンフォーメモー
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\   セシール
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

しかし、如一の思った通りにはことは運ばなかった。


  /\___/\
/ /    ヽ ::: \
| (●), 、(●)、 |
|  ,,ノ(、_, )ヽ、,,   |
|   ,;‐=‐ヽ   .:::::|
\  `ニニ´  .:::/      NO THANK YOU
/`ー‐--‐‐―´´\
       .n:n    nn
      nf|||    | | |^!n
      f|.| | ∩  ∩|..| |.|
      |: ::  ! }  {! ::: :|
      ヽ  ,イ   ヽ  :イ 
ソ連 領事館員  

如一は押し問答の末、領事館から放り出される。

すると、そこには


          |,,r''´ ̄ `''‐|_        鬼ごっこは終わりだ!!       ,-‐‐- ,,__,, -‐ 、
         r´``'‐-=-‐'"´`':、                            {,, -‐r‐ 、__r‐、>ノ
           `-ト(ミ)‐(ミ)t,,ri'´         ,, -‐''''''''''‐- 、            lj ̄`- ' l`‐' リ
          ゙i ,,┴‐-,,  'ノ         ,ィ´: : : : : : : : ノ、:\              レ  _,,.`´,,_ l´
              l "''"゙''''''゙ /~        /:::: : : : : : :;' ツ  ゙i: :i,             lヽ     l
            ヽ__∠_|           |::::: : ; ''' ´       l: :l          l__i、,,-‐-,,ノ_
       __ 〉二ヽ/こ-、|_       l  i ,. --、__, -- 、 l ノ     _,, -‐ ''''〉,,- ,,__V_,,-'::l``''‐- 、,,_
   _,, -‐'' _,, -‐''}:::::::○:::::::::l   ⌒゙i- ,,_   `>l‐'、:::::ノ l、::::::ノ〈i  , -‐ '''´  /   l`l:::::::::::○:::::::}   ヽ :::::::`''‐ 、
 /::: ''  '‐--ッ ゙i`‐'´ `''‐''ノ < ̄   `''‐- 、{ j    ' '    /l/      '--‐ッ ゙i `‐ '´  `'‐' }<⌒    ::::::ヽ
/::::: ,    <´   \   /   >    _  \l  -‐ー‐-  l'´        /  \     丿  `>     :::::::l
:::::: :l     `'‐ 、_ y''´_, -‐ '"´     l    } l    `  /l     ,     `'‐ 、,_ \__ /_, -‐''     ,   ::::l
:::  ::l        ``'´           l    rl_`'‐-ー--'__),    l         `‐-/‐''         :l   ::::l
  :::l         ○        __,,,,,, ,-‐''´{‐- ,,_ミv彡_,,-‐l`'‐、_ l            ○         ::l   ::::::l
  :::::l              , -‐''  ̄   /   l`''ッ‐'´' ; \ /    \`''‐- 、,,__                ::l   ::::::l
  ::::::l            /       /     〉' ,'   ',  ヽ  ___〉     \,              :::l    ::::::l
___ :::::l           /     ,    ̄フ  /  ,'    ;    l \_          \           :::::l    ::::::l
   :::::l         /     /    `'‐- /      ;    l_,, -''      l    l            ::::::/‐-   :::::l
   :::::ヽ      ( ノ     /       ,l  ,, -‐''-、'    ,,-l         l    `l ○      ::::::/     :::::l
   l::::::::     /     /     -='´‐' ̄`‐-‐ '''`、_,, -''-‐'         l     ヽ       :::::::l     :::::ノ
   /:::::     /        /    , -、                 , -、     l     ヽ       ::::::l   ::::::ノ
  /:::::    /        l     `- '                 `- '      l     \      ::::::l  _,,-''
  l::::::    /         l                                l       ヽ     :::::::l'´
 l::::::    /          l                                l        ヽ     :::::::l
. l::::::  _,,ィ',, -‐ '''‐-     l                                 l           l     :::::::l



      γ⌒) ))
      / ⊃__         どうしてこうなった♪
   〃/ / ⌒  ⌒\        どうしてこうなった♪
  γ⌒)( ⌒)  (⌒) \ ∩⌒)
 / _ノ :::⌒(__人__)⌒ 〃/ ノ
(  <|  |   |r┬(    / / ))
( \ ヽ \ _`ー‐'  /( ⌒)
               / /

実は如一は予め総領事に宛て、計画を説明する手紙を二通送っていたのだが、領事は関わり合いになるのを避けて、その両方ともを特務機関に届け出ていたのだ。


        ____
       /      \
     /  ─    ─\
    ./    (●)  (●) \
    |       (__人__)    |、
r―n|l\      ` ⌒´   ,/ ヽ
  \\\.` ー‐ ' .// l     ヽ
.     \        |      |
.       \ _  __ | ._   |
        /,  /_ ヽ/、 ヽ_|
\      // /<  __) l -,|__) >
  \.    || | <  __)_ゝJ_)_>
    \.   ||.| <  ___)_(_)_ >
      \_| |  <____ノ_(_)_ )
   たぶん二回目の逮捕

特務機関に逮捕された如一だったが、田村が如一には本国の内務省から逮捕令が出ていることを理由に身柄は自分が引き取ると主張し如一を救出する。


   / ̄ ̄\__
 /  _ノ ,ヽ\  \
 |   ( ●)(.●)ヽ、\  助かったお!
. |     (__人__)(<)゚o\ ありがとうだお
  |     ` ⌒人__)   |
.  ヽ      .}⌒ ´  ./
  (⌒) (⌒'― .ニ二 .イ
  .√  .ヽ ̄ ̄, -‐ i´
  .|      i ̄  . |
  .|      |     . |

田村さん如一のために尽くしすぎだろ、常識的に考えて。かくして如一は無事に帰国を果たし、妙高に戻る。


しかし、というか、やっぱり、、、


       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \    はやくこの戦争を止めさせないといけないんだお。
  / o゚((●)) ((●))゚o \   そのためには、やっぱりソビエトさんに仲裁を
  |     (__人__)    |    頼むしか無いんだお
  \     ` ⌒´     /


       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \   でも、満州からソ連に抜けるのは
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  無理だって分かったお・・・
  |     (__人__)    |  
  \     ` ⌒´     /

 
       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   だから今度はモンゴル経由でソ連に脱出するお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

かくして再び大陸への脱出を試みる如一は、1945年1月同志たちと最後の食事をとろうとしていたが、


     ___
   /⌒  ⌒\    しばらく出かけてくるけど皆もがんばるんだお。
  /( ●) (●) \    (でも、脱出計画は皆には秘密だお・・・)
/::::::⌒(__人__)⌒:::::ヽ 
|     |r┬ |  (ヽ |
\γ⌒=/⌒ヽ_(⌒ |/
/ ( ^=/   /  ヽ ノ\
| /  ,(⌒ヽ/    \
ヽ_ノ  ー '






                _,イイ / /,ィ /-ヘ
                ト、LV,.'-‐''"´ ヽ二',_
                !|´     ,.  ',-‐ト.ヽ,   警察だ!
                     l ‐- 、 r'´ ,..、,ヽ`!|f.ト ',
                 l. r 、ノ` r<ー'_  !.レヘヽ.',
               _...-:l_`'´|   ',、_  〈 V |:.:',}
             ,ィ"´ l_-_!!r:!_ト- '" 、ヽ ! /イ:ノ:.:.\
               /:l:|:./o::::ヽ-lヽ=''"_> ,./r":.:.:.:.:.:.:\
          _..ノ: :!:イ,.,=、、:::f::V:l:|ニ ニ、ノ': : /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\
        r:'": : : :.|: |l:(lll):l|::|:::_ノ:!!`: フ, -‐<:.:.:.:.,.ィ"´:  ̄: :ヽ
      ,.-┴-: :、: :';.:',|l`ー"トr-〈rT|_..-<rヘノ: l/: : :_:_: : : : : :.:.ヽ
    ,.-イ-:.:.、_: :.:.:.',: ';.:|l::::::::|:|: :レヘf:rヘへL.!: : |: :ィ: : : : : : : : : :.:.:',
.    /: : : : : : :_>-〉‐‐ヘ!ー〈ヽ/_:ノヘヽノ: :ヽ:.//: :,.-‐: ,ニ、'": :.:.:.:|
   /: : : /: :'": : :/:.:.:∧:ヽ::」:.:.Ll:.:ヽ:.ヽ:.:.:./: :.:!_: -‐/r-: : ヽ、:.:.:.|
  /ー: ": : : : : :/|:.:.:.:.!|:ヽ、::::::::::::.:.:.:.:.:トヽ_: -‐: '": :.r'":゙ー: 、: : r-:〉:.:!
  |: :/:: : : : : l:::l: : : lト:.::::::::::::::: : ::::::l :ヽ: : : : : : : :ヽ、: : : : \: /:.:.,'
  ',:':.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l:.:.ヽ:::_:ヽ、::::::::::::::::::::::::ソ: !:ヽ: :.:.:.:.:.:.:..: : ヽ、: : :/:.:.:./
   `丶-‐--‐- '"´ ̄ ',::::::::::::::::::::/イ:/:.:.:!:ヽ、:_:_:_:.ヽ: : : : :.:.:.:.:/
              ';::::::::::::::::::::::.:.:.:.:.:./:.: : ヽ: : : ヽ: ヽ: :.:.:.:/
                 |:::::::::::::::::::::::::::::::::::. : : : :';: : :: ',: :ヽ:.:.:.:.!
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        /⌒  ⌒\         ━━┓┃┃
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    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。

送別会の途中、警官隊に踏み込まれて、如一は逮捕される。


        ____
       /      \
     /  ─    ─\  どうしてバレたんだお
    ./    (●)  (●) \
    |       (__人__)    |、
r―n|l\      ` ⌒´   ,/ ヽ
  \\\.` ー‐ ' .// l     ヽ
.     \        |      |
.       \ _  __ | ._   |
        /,  /_ ヽ/、 ヽ_|
\      // /<  __) l -,|__) >
  \.    || | <  __)_ゝJ_)_>
    \.   ||.| <  ___)_(_)_ >
      \_| |  <____ノ_(_)_ )
   たぶん三回目の逮捕

実は満州の特務機関は、如一の逮捕を国内の警察に手配していたのだった。


      /                /      ゙i,  ヽ
     j                ,ィ/        |  |
     lィ'             ,ィ/j/          | iリ
    |         /l /          '"` | j
    リ!      /,ノ           _,、-''''` /リ
      |   _.._ l/   ,.--;==ミ 、 ___,.ノ /{.○-゙‐rV
     ヽ,/`ヽヽト、 ´  {,.○-`‐‐ 、,.-ト|    ,ノ
      ∧  ゙i,   `ヽ,r'´      ノ.  ゙、--‐''´|
    ,,.く  ヽ   ゙i     ヽ、 __,,、-'"     〉   /
  ハ'´  |  ゙i   |           ' '     iヽ''" ̄ ̄ ̄`゙
  ゙、゙i,_r'シニZ`ー┬ト'i       _____ ,  |  \
    _゙V  ヽ,.レ''ヽヽ     `ー─''''"´   /    \
  /./ ヽ/     ,」ヽ     __,,、-─‐-、j       ヽ
   / r'´  --‐‐'''"´ ヽ \   (.r‐'''""゙゙`ヽ,`)     /
    l .|     __,,、--`ヽ \ ___ヽ     /´|    ∠__
   j |           ,⊥`ー 、 ゙!    レ' |      |
  |  |        -‐''"´   ヽ、⊥ヽ|    |彡'|      |

如一は特別高等警察、いわゆる特高による拷問に近い取り調べを受けたが、1945年6月に釈放にこぎつける。釈放の理由は、伝記によれば、特高の依頼で如一の思想の調査にあたった平泉澄という国粋主義の学者が、如一は立派な思想の持ち主だと報告したためらしい*2国粋主義者に思想の太鼓判を押される如一、さすがである。


そして同年7月、

        ____
      /⌒  ⌒\  『帝都防衛最高司令官に
    /( ●)  (●)\ 飯村譲中将が任命』....
   /::::::⌒(__人__)⌒:::::\だってお
   |     |r┬-|     |
__ \      `ー'´     /     ___
ヽ  ̄`"¬ー--、,,,_   _,,,、-ー"´ ̄´....,., /
 ∨ ;:;:;;;;:;:;:;::;:;;;:;:;;:; `Y´ ;;::;;:::;:;:;:;:;;;:;:;:;::; /
  ', ;:;:;::;::;:;;;:;;:;:;::;;:;;:;: i ;;:;:;:/ ̄ ̄/;;:;:;: /
   ', ;:;::;;::;::;:;;::;;;;:;:;;:;: i ;;:;:/ijknw/;;:;::: /
  {⊃;;:;:;;:;::;:;;;:;::;:;;::: l ;;:;;:;;:;:;:;;;:::;:;;:;⊆}
   ヽ⊃) ̄7;;:;:;:;::;;:;: l ;:;:;:;;:;::;:;::;;::; ⊂ノ
   / /__7;;:;;;:;;::;;;; l ;;:;;:;:;:::;:;;::;;;:;: /
   / ;:;:;:;;;;::;:;:;:;::::;;;:;:; ! ;;:;::;:;:;;:;;:;::;:; {
  ノ / ̄/ ̄/ii7lkl/7 i []ikllihXCV ヘ、_
   ̄`"¬--、,,,.__¬ }L ]_,,,、-ー"´ ̄
             ̄`´ ̄


..      ____
     / ―  -\  飯村中将、
.  . /  (●)  (●)  なつかしいお。
  /     (__人__) \
  |       ` ⌒´   | 中将は正食の良き理解者だったんだお
.  \           /
.   ノ         \
 /´            ヽ


実は、開戦前の偕行社での講演も飯村中将の計らいによるものだった。


     ____       ヽ v /
   /⌒  ⌒\     -(m)-
  //・\ ./・\\       ≡
/::::::⌒(__人__)⌒:::::\    いいこと思いついたお!
|      `ー'´     |
/     ∩ノ ⊃  /
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /


       ____
     /⌒  ⌒\  飯村中将を説き伏せてクーデターを起こすんだお!
    /( ●)  (●)\  あとは食養会時代に懇意にしていた久邇宮を
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\ 総理大臣に擁立して新政府を立ち上げるおっ!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


そして、案の定、


        ____
       /      \
     /  ─    ─\
    ./    (●)  (●) \
    |       (__人__)    |、
r―n|l\      ` ⌒´   ,/ ヽ
  \\\.` ー‐ ' .// l     ヽ
.     \        |      |
.       \ _  __ | ._   |
        /,  /_ ヽ/、 ヽ_|
\      // /<  __) l -,|__) >
  \.    || | <  __)_ゝJ_)_>
    \.   ||.| <  ___)_(_)_ >
      \_| |  <____ノ_(_)_ )
   たぶん四回目の逮捕

クーデター計画が当局に漏れていたのかは不明だが、計画を実行に移す前に甲府市内で如一は逮捕されてしまった。結局、如一は拘留されたまま終戦を迎え、9月に釈放される。


釈放から程なくして如一は連合国軍GHQ)最高司令官のダグラス・マッカーサーに手紙を送る。

その内容は


         ___
       /     \
      /   \ , , /\  特高を廃絶せよ。
    /    (●)  (●) \
     |       (__人__)   |
      \      |r┬-|  ,/
     , -‐ (_).ヽ`ー'´   ィヽ
      l_j_j_j と)         i
       ̄`ヽ        | l

                     ___
                    / ,,-、、  ゙^ー-、
                   ,/ ,,-i i!;;├...,,__  ゙^-、
                   i /l=_゙三_ =_  `-、:::::/
                   `/-――-- 、..゙ー- ::|'
                    ` ,―、_,.―..、 ゙-- ,::ノ
      ・・・・            L;;/ 、ヽ::::ノ―b, i
                _    | `` ヽ   _/
                |ii.|___|、ノ___|   l .|
                |i_|     i ‐  ` /  ト、
                      `--―"  //
                      /ヽ   へ /

マッカーサーが如一からの手紙を読んだのか疑問であるが、現実に特高は廃止され、特高関係者は公職追放された。

ところが、


           / ̄ ̄\     あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 
         /       \    『おれは特高を壊滅させたと思ったら
        / ヽ   ノ  u  \   いつのまにか自分まで公職追放されていた』
       /´| fト、_{ル{,ィ'eラ,   |
     /'   \ .(__人__)⌒`  /   な… 何を言ってるのか わからねーと思うが 
    ,゙  / )ヽ(,`⌒ ´    / ヾ、  おれも何をされたのかわからなかった… 
     |/_/  /  ̄ ̄ ̄      ヽ
    // 二二二7      __    `ヽ    逮捕だとか拷問だとだとか
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´     -‐  \  そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
   / //   广¨´  /'       ´ ̄`ヽ ⌒ヽ
  ノ ' /  ノ `ー- 、___            ヽ  } もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
_/`丶 /         ̄`ー-- {.       イ 

当局は如一の反戦運動を問題視したらしい。公職追放はしばらくして解除されるのだが、如一は構わず活動を続けた。特に世界連邦運動には積極的に関与していたようだ。世界連邦運動とは世界各国を統合した連邦政府を打ち立てようとする国際運動である。ご存知の通り、今日でもその理想は実現していない。


つづく

つづきは戦後と死後の如一

如一の実力

以上のように戦時中の如一は荒唐無稽な計画を立ててそれを実行し逮捕されるということを何度も繰り返している。無邪気で幼稚にすら見える如一だが、意外にも何度も周囲の人間に助けられ、協力を得ることに成功しているのは興味深い。如一が変わり者だったことは間違いないとは思うが、単なる"孤独な奇人"ではなかったようだ。


これには軍部と密接な関係にあった食養会時代の人脈が効いている部分もあるだろうが、

  • 縁もゆかりもないフランスにほとんど裸一貫で乗り込んで、最終的には現地でも一目置かれる存在になったこと、
  • 医師でもないし特別な学識もないのに食養会の指導者に上り詰めたこと*3
  • 多くの弟子たちを育てて、海外に送り出し、結果的にマクロビオティックを世界に広めることに成功したこと、

などを考えれば*4、自ずと桜沢如一という人物のコミュ力人を動かす力の高さがうかがい知れる。桜沢の理論と思想の問題はいかんともしがたいが、純粋に人間として見た場合には、如一は脚色なしでも面白い人物だったのかもしれない*5

*1:西端に由来するものかもしれない。

*2:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 98ページ

*3:如一と袂を分かち、フランスへの旅行が取締から逃れるためだったと暴露した林仁一郎氏も、如一の能力は認めていたようだ。(林仁一郎『食養の生涯』(1977年)346ページ)

*4:ただし、今日に伝わる"如一"像がほとんど彼の支持者によって伝えられていることには注意する必要がある。

*5:ただし、遠くから見ていたい。巻き込まれると大変だ。

やる夫で学ぶマクロビの歴史と桜沢如一の生涯 1

マクロビオティック (マクロビオティクス、略してマクロビとも) は一般的には健康的な食事法の一つとされ、最近では「ハリウッドでも人気」というような触れ込みで日本でも紹介されることも多い。しかし、その触れ込みと「マクロビ」という単語の横文字の響きとは裏腹に、その源流が戦前の日本にあったことは、どれほど知られているのだろうか。

本エントリーでは、その創始者 桜沢如一(さくらざわ ゆきかず)の視点からその歴史と思想について概説し、その理論の妥当性について批判的な解説を加えていく。


幼少期の母との別れ

桜沢如一は1893年(明治26年)に孫太郎と世津子の子として和歌山で生まれた。


          毛沢東と同級生なんだお!
                  ____         ,. -‐―――‐-、
   / ̄ ̄\      /⌒  ⌒\      γ::::::世津子:::::::::::ヽ、
 /   _ノ  \   /( ⌒)  (⌒)\    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
 |  ─(⌒)(⌒)/::::::⌒(__人__)⌒::::: \ γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
 |     (__人__)|     |r┬-|     | (:::::::::/─   ─  \:::::::)
 |     ` ⌒´ノ \     `ー'´     / \:/ (⌒)  (⌒)    \ノ
 |         }   ( r        |     |    (__人__)      |
 ヽ 孫太郎  } ̄ ̄ ヽ○| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\\  ` ⌒´       / 如一は物知りなのね
  ヽ     ノ       || ((|||||||))       \ \       /
   /    く \ ((|||||||)) ,        ((|||||||)) \      (__ノ

父、孫太郎は如一が6歳のときに愛人を作って出ていってしまう。


        トーチャンがよそで女を作って蒸発しちゃったお
               ___
   .::' """".::.      / _ノ ヽ、_\      γ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
 .::.   _.:"  .::.   /( ー)  (ー) .\    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
 :   :"".::"".: .: /  .。゚ (__人__) ゚o. \ γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
 :     .:....:::.....:. |      |r┬-|      | (:::::::::::/ ─    ─ \:::::::)
 :     """..: \     `ー'´     / \:/  (○)  (○)  \ノ
 :         .:   ( r  6歳     |     |   。゚ (__人__) ゚o   | 
  :.        .: ̄ ̄ ヽ○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\\    `ー'´    / 如一は詳しいのね
  ::.     .:"     \            \      (__ノ

母、世津子は生活のために看護学・助産学の勉強をして資格を取得し、助産院を開業して如一を育てた。


  γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
(:::::::::/ \    / \:::::::)
\:/  (●)  (●)  \ノ
 |   /// (__人__) ///.  |
 \     ` ⌒´    / カーチャン、
 /            /  如一のために頑張るよ。
 \       (__ノ

しかし、


               ___
   .::' """".::.      /     \        ,:::          :.
 .::.   _.:"  .::.   /  ─   ─ \      .:            :.
 :   :"".::"".: .: /   ( ○) (○) \  .:::    .::. .::. .::. .::.   :.
 :     .:....:::.....:. |      (__人__)    |  :.   .:: "   "  ::.    .:
 :     """..: \      ` ⌒ ´   /   ::.:.::   :."".:  :."".:  ::..:
 :         .:   ( r          |      :     :....:::.....:    :
  :.        .: ̄ ̄ ヽ○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\  ::.    """    ..:
  ::.     .:"     \                        ::.
   .:   ::. \ー( )( )\              .   :.   :  .:
   :    .::. \        \                  :."" .:
    :    :".、....."".::  

過労がたたった世津子は結核にかかりこの世を去ってしまう。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴γ::::::::::::::::母::::::::::::ヽ、∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ∵∴∵∴∵:∴∵∴.∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴ γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ∴∵∴∵。∵∴∵∴∵
∴∵∴☆ミ∵∴∵∴ (:::::::::/ ─    ─ \:::::::)∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴ \:/。(。⌒) (⌒。) .。\ノ∴∵∴,∵∴.∴∵∴∵
∴∵∴∵:。∴∵∴∵∴ |     (__人__)     |∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ \    ` ⌒´     /∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ /            /∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ \       (__ノ∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∵∴∵∴∵ ∵∵∴∵∴∵ 



       ____
     /:::     \
   /::::::::::     \  カーチャン、
  /::::::::::         \ どうして死んでしまったんだお!
  |:::::::::::::::         |
  \::::::::::::::       /ヽ
   /:::::::::        くゝ  )
  ;|::::::::::::          / ;
  ;|::::::::::::::       イ ;

如一のこの体験は、後に如一がマクロビへの道を歩みだす大きなきっかけになるのだが、この時点でそれを知る者は誰もいなかったことだろう。
なお、如一は妹2人と弟1人も亡くしているそうだ。


石塚左玄の『食養』との出会い

母を失った如一は、一時は父親のところに身を寄せたようだが、その後は知人に預けられるなどして子供時代を過ごす。
しかし、青年となった如一にまたしても不幸が襲いかかる。


        ____
     ; /ノ|||| ヽ\;    カーチャンと同じ結核に
   ; /( ○)  (○)\ ;  かかってしまったお!
  , /::::::\(__人__)/::::: \; 
  ; |    | |r┬-| |    |,, 
  ′\      `ー'ォ    /´ 人生詰んだお...
    ./  ⌒ ̄ ̄`r:´> ) :
    (_ニニ>-‐'´/' (/ ;
    ; |     | ;
    ' \ ヽ/ / :
    , / /\\ .
    ; し’ ' `| | ;
          ⌒

そんな絶望のさなか、如一はある本と出会う。


         ____
       /      \    情強で貧乏な如一は
      /  _ノ   ヽ_  \   こんなときでも図書館で読書して
    /  o゚(●) (●)゚o ヽ  ピンチを打開するしかないんだお
    .|    :::⌒(__人__)⌒::: |   __
     \      `ー' / ̄ ̄⌒/⌒  /
    (⌒\     /  食  /    /
    i\  \  ,(つ 養  /   ⊂)
    .|  \   y(つ    /,__⊆)

如一は、石塚左玄が著した『食養』についての書物を読み、その考えに共鳴していった。*1


        / ̄\
       |  ◯  |  ←お医者さんのトレードマークの鏡
         \_/
         |         吾輩は石塚左玄である。
      /  ̄  ̄ \     福井藩の医者の家に生まれ、
    /  \ /  \   陸軍の薬剤監の勤めていたが、
   /   ⌒   ⌒   \  今は『食養』を広める活動をしておる。
   |    (__人__)     |
   \    ` ⌒´    /
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
  石塚左玄 (1851-1902)

『食養』とは、江戸時代以来の『食養生』という食事法・健康法をベースに石塚が考案した食事法・食事療法である。


           / ̄\
             |  ◯ |      人間はその土地土地の風土に
           \_/      あったものを食するべきである。
             |        
         /  ̄  ̄ \    従って、我々日本民族は
        /  ::\:::/::  \   古来からの米と菜食を中心とした
      /  .<●>::::::<●>  \  食事をとるべきで、
      |    (__人__)     | 欧米式の肉食中心の食事を
      \    ` ⌒´    / 真似ていてはいけないのである。
       /,,― -ー  、 , -‐ 、
      (   , -‐ '"      ) 日本人が欧米式の食事をとっていたら
       `;ー" ` ー-ー -ー'  かえって病気になってしまうのである。
       l           l

当時の日本では西洋から持ち込まれた医学がもてはやされ、特に衛生学が重視される風潮にあった。

ドイツの衛生学の流れを汲む主流の医学者らが脚気が感染症だと誤解して多くの犠牲者を出した一方で、一部の医学者・科学者が実験によって脚気の原因を食物にあることを突き止め大きな成果を挙げたという逸話は有名だ。*2

石塚の『食養』は食に着目したという点では後者に近いが、系譜としては飽くまで日本の伝統に連なるものであった。


..        ____
       / ―  -\   思えばハイカラさんだったカーチャンは
.  .   /  (●)  (●)  朝はパンに牛乳、昼はオムレツという
    /     (__人__) \ 洋風の食生活をおくっていたお!
    |       ` ⌒´   |
     \         / ̄ ̄⌒/⌒  /
    (⌒\     /  食  /    /
    i\  \  ,(つ 養  /   ⊂)
    .|  \   y(つ    /,__⊆)

看護婦・助産婦だった母、世津子はその知識故に西洋式の栄養学に基づく食生活をおくっていたとされる。


        ノ L____
       ⌒ \ / \     つまり、カーチャンは
      / (○) (○)\   西洋式の医学・栄養学のせいで
     /    (__人__)   \  死んでしまったんだお!
      |       |::::::|     |
     \       l;;;;;;l    /l!| ! 
     /     `ー'    \ |i
   /          ヽ !l ヽi
   (   丶- 、       しE |そ  ガッテンガッテンッ!!
    `ー、_ノ       ?堯?l、E ノ <
               レY^V^ヽl

事実、如一は母の死について後に以下のように述べている。


この母がとても男マサリで、京都のまちへうつると、新島襄の門下になり、西洋文明風な思想と生活法をさかんにとり入れました。そのため、母は私が十歳の時、三十歳の若さで死んでゆきました。

(桜沢如一 『新食養療法-食による健康と自由-』(1978年) 26ページ)

母が生きていたころは朝はパンとミルク、昼はオムレツでした。そんな伝統を踏みにじった生活のために母は死んだのです。

(桜沢如一 『新食養療法-食による健康と自由-』(1978年) 27ページ)



このときから如一にとっての「西洋医学」は文字通りの「親の仇」となったのだ。後年、マクロビの第一人者とになった如一は「今だったら決して死なせはしない」*3と述べて悔やんでいる。


ただし、如一の解釈はどうあれ、西洋式の医学や化学の教育を受けていた石塚自身は『食養』に科学的な考え方を盛り込んでいた。


         / ̄\
           |  ◯ |   古来から食物には陽性のものと陰性のもの
         \_/   があるとされるのである
           |
       / ̄ ̄ ̄ \  これは食品中の成分によって決まるのである。
      /   ::\:::/::::\  ナトリウム塩を多く含むものは陽性、
    /   <●>::::::<●> \ カリウム塩を多く含むものは陰性なのである。
    |     (__人__)    |
    \     ` ⌒´   / これらの偏りは病気を引き起こすのであって、
       ̄(⌒`::::  ⌒ヽ   陰と陽、すなわちナトリウムとカリウムの調和が
        ヽ:::: ~~⌒γ⌒)  大事なのであーる。
         ヽー―'^ー-'
          〉    │

食品に陰性と陽性があるという考えは古代中国から続く陰陽説に基づくものだが、それを食品中の成分であるナトリウムとカリウム*4から説明した点が石塚の斬新な点であった。

現代の視点で見れば、こじつけ臭く科学的妥当性も疑わしいが、化学的成分という定量可能な実体に基づいて検証可能な主張をしたという意味では、当時の日本の水準ではそう悪くない科学的仮説だったのかもしれない。実際、石塚のこの主張自体もドイツの生理学者が行った動物実験をヒントにしたものだったらしい*5


        / ̄\
          |  ◯ |   白い米は粕(かす)である。
         \_/
           |         /)
       /  ̄  ̄ \    ( i )))
     /  ::\:::/::  \   / /
    /  <●>::::::<●>   \ノ /
    |    (__人__)     | .,/
    \    ` ⌒´    /
    /__       /´  すなわち
   (___)     /
       米 ( ゚д゚)  白
       \/| y |\/


        ( ゚д゚)  粕
        (\/\/

この言葉遊びのような主張は実際に石塚の著書『通俗食物養生法』で展開されたものだ。


糠を剥ぎ取れば米偏に白の字すなわち粕となるものにして

(引用元: 石塚左玄 『通俗食物養生法』 (1909年) 増訂7版 110ページ http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/837061/78)


        ____
     /     \
    /  ─    ─\ なるほどなんだお。
  /    (●) (●) \
  |       (__人__)    |
  \        |\  / /|
  /     /⌒ノ  \/ ( )
  |      / / |       |



       ____
     /⌒  ⌒\
    /( ●)  (●)\  これは試してみるしかないんだお。
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /



   ↓

         ___
       / ⌒  ⌒\
      / (⌒)  (⌒)\   食養を実践したら
    /   ///(__人__)///\  結核が治ったお!
     |   u.   `Y⌒y'´    |
      \       ゙ー ′  ,/ 食養はすごいんだお!
      /⌒ヽ   ー‐    ィヽ
      / rー'ゝ       〆ヽ
    /,ノヾ ,>      ヾ_ノ,|
    | ヽ〆        |´ |

結核は明治から昭和の日本で猛威をふるった伝染病であり、戦後に抗生物質による治療が広まるまでは死に直結する病だった*6「母の結核による死」「如一自身の結核の治癒」という2つの強烈な体験が如一に食養の有用性を確信させたであろうことは想像に難くない。

事実、如一はこの体験をきっかけにして石塚が主催した『食養会』に入会し、貿易会社で働く傍ら、熱心に食養活動に参画していくことになる。

地理マニアの陸軍大佐 西端学

如一が当時、師と仰ぎ、マクロビオティックの成立に大きな影響を与えたとされるのは、元陸軍騎兵大佐で食養会理事の西端学である。西端は石塚亡き後の『食養会』において主導的役割を果たしていた人物で、如一は「私が先生というのは石塚先生と西端先生だ」*7と述べるほど西端を尊敬していたようだ。


              _,..-──‐- 、、
             ,r'´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`ヽ、
                /::::::::::::::::r、、;,::::::::::::::::::::::::\
            /:::::::::::::::/    ̄``ー- 、:::::::`,
           ,!:::::::::::::,イ         `ヾ:::::l
           |;:;:;:;:;:;:;:j -=;、、_,,  、_,,、、、 |:::ノ
            !;:;:;:;:,ィリ´ ''´テェ'~´' ,斤ェ、`,!'  寒く乾燥した大気の中でで暮らす欧州人は
           l;;;;イ´ヾ'          `,   l   体温を維持するために常に自然と戦っている。
           ヾ;;;, ゝ         j   !   だから、自然に対して陰鬱な思想を抱いて生きているのだ。
            〉;;`トーi        ` ´   ,'
            ヾ、j  l.    `ー-‐-'  /  一方、温帯に属する我が国では、四季の変化が鮮明だ。
             」  `、.     ` ̄  /   それ故、感受性が豊かでありながら不屈の精神も有している。
            i´ `ー-、\      , イ
            |l     ````ー‐‐'´lj 
          , ィ^ヽ、    rr=、`Viイ^i
___, 、、- ‐ry‐'"´ヽ ``ヽ `ゝ、 ,ゝヽ,  jル ,jト、、
_   ̄`ヾ、   ,レ'´ ̄.:.:.:.:.:.:.:.:,ィ´``ゝ'^ヘ、 `ゝー-、、_
.:.:.:``ヽ    ヽ   i.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ィ´(   ,r'⌒ヽ、:.``''ー- 、ゝ`Y''ー-、、
.:.:.::.:.:.:.:゙;、     ,!.:.:.:.:.:.:,ィ´\ ヽ r=<;;::.:.ノ `! ゝ.:.:.:.:.`, l   リ;ヽ
ー-;、、:.:.:`ミ,     」.:.:.:.:.:.:.\  人  _ノゞィゝ、ノ ゝノト、.:.:.:i l  ,l|.:.:゙l



       ____
     /⌒  ⌒\
    /( ●)  (●)\   さすがはインテリの西端先生だお!
  /::::::⌒(__人__)⌒:::::\  すごく科学っぽいくてカッコイイお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /

"土地土地には適した食べ物があり、人間はその地で産したものを食すべし"という考えは石塚左玄から続くものだが、予てから地理学に精通していた西端はその学識を裏付けにして、より先鋭化した思想を打ち出した。

しかし、その内容は地理学を悪用したこじつけそのものであり、日本の風土と民族の優位性を示そうという恣意性が感じられる。西端の介在によってニセ科学的な特徴がより鮮明になったと言えそうだ。また、後に如一が見せることになる西洋文明への対抗意識も西端の理論に影響されていた部分があったのかもしれない。


              _,..-──‐- 、、
             ,r'´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`ヽ、  然るに我々はその土地土地の環境に
                /::::::::::::::::r、、;,::::::::::::::::::::::::\ 則したものを食する必要がある。
            /:::::::::::::::/    ̄``ー- 、:::::::`, それは石塚先生もご指摘のとおり、
           ,!:::::::::::::,イ         `ヾ:::::l その土地に産する食物なのだ。
           |;:;:;:;:;:;:;:j -=;、、_,,  、_,,、、、 |:::ノ
            !;:;:;:;:,ィリ´ ''´テェ'~´' ,斤ェ、`,!'  私は、この考えを仏教の言葉を借りて
           l;;;;イ´ヾ'          `,   l   「しんどふじ」と呼ぶことにしたのだ。
           ヾ;;;, ゝ         j   !
            〉;;`トーi        ` ´   ,'   漢字では『身土不二』と書く。
            ヾ、j  l.    `ー-‐-'  /    分かるかね? 如一君
             」  `、.     ` ̄  /
            i´ `ー-、\      , イ
            |l     ````ー‐‐'´lj
          , ィ^ヽ、    rr=、`Viイ^i
___, 、、- ‐ry‐'"´ヽ ``ヽ `ゝ、 ,ゝヽ,  jル ,jト、、
_   ̄`ヾ、   ,レ'´ ̄.:.:.:.:.:.:.:.:,ィ´``ゝ'^ヘ、 `ゝー-、、_
.:.:.:``ヽ    ヽ   i.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ィ´(   ,r'⌒ヽ、:.``''ー- 、ゝ`Y''ー-、、
.:.:.::.:.:.:.:゙;、     ,!.:.:.:.:.:.:,ィ´\ ヽ r=<;;::.:.ノ `! ゝ.:.:.:.:.`, l   リ;ヽ
ー-;、、:.:.:`ミ,     」.:.:.:.:.:.:.\  人  _ノゞィゝ、ノ ゝノト、.:.:.:i l  ,l|.:.:゙l


                   ____
                /       \    よく分からないけど
               /  ─    ─ \   ありがたいお!
             /    (>)  (<) \
             |       (__人__)   |
             \            /  南無妙法蓮華経
              _rl`       /////   南無妙法蓮華経
..              /\\    ////゙l゙l    
                ,.:く::::::::`:、\ 〉l゙:l  / !.|   
.            /:.:.:.:\:.:.:.:.`:、ソ/:.:|    | |
           /.:.:.:.:.:.:.:.:.:\:.:.:.:У:.:;l   /./
.          /:.:.:.:.:.:.:.r'´`‐,`、:/.,.:‐{   | !`:、
           ,'.:.:.:.:.:.:.:.:.';_,゚.,ノ.:./,:':.:.:.:',  | |`、:|
           !:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.゙、:.::/:.:.:.:.:.:.ヽ, / ,!:.:`、

本来、仏教用語の身土不二は「しんどふに」と読み、「過去世での行為の結果としての現在の心身」と同じく「過去の報いとして受けた国土などの環境」の二者は切り離せないということを指す、一種の因果応報論の文脈での言葉らしい。一方、食養の推進者たちの『身土不二』は「しんどふじ」と読むことが多いようで*8、意味も仏教用語とはだいぶ異なっている。

このあたりから食品の成分に主眼をおいていた石塚の『食養』が思想的・宗教的要素をふんだんに含む桜沢如一の『マクロビオティック』へと変質していく過程が垣間見えてくる。


なお、『身土不二』と並んでマクロビオティックのキーワードとして挙げられるのは『無双原理』という言葉である。これは、『易経*9における陰陽思想を如一流にアレンジして食を含む森羅万象に当てはめた考え方だったようだ。

アレンジと書いたのは、


  _∩
 / 〉〉〉
 {  ⊂〉     ____
  |   |    /⌒  ⌒ \   プロトンは陽性で、エレクトロンは陰性なんだお。
  |   |  /(●)  (● ) \  長波は陽性で短波は陰性なんだお。
  |   |/:::⌒(__人__.)⌒:::  \ 「時」は陽性で、「空」は陰性なんだお!
  ヽ   |     |,┬‐ |       |
   \.\   `ー ´     /
     \       __ ヽ
      ヽ      (____/

*10



のように『易経』には書かれているはずがないものまで、陽と陰に割り振られているからだ。このあたりの割り振りはおそらくは『易経』というより如一なりの類推等によって主観的に決定されているのだろう。石塚の理論も伝統的な陰と陽の思想を受け継いではいたが、その区別をカリウムとナトリウムという化学的実体に求めるものだった。如一はむしろ、舶来の科学よりも伝統的思想の側にその理論を引き戻したと言えそうだ。

古代の占いの理論と如一の主観を取り込み、ますます変質する『食養』だったが、このころには如一は食養会の中で無視できない存在になっていた。

突然のフランス無銭旅行

ところが1929年、如一は突然、渡仏を決行する。


                  ,ヘ
      ____      / /
     /\  /\   / /
   /( ⌒)  (⌒)\/  /
  / :::::⌒(__人__)⌒:::::\ /  ちょっと、おフランスに渡米して
  |     |r┬-|  u   |   無双原理を広めてくるお!
  \ u  ` ー'´     /
  /          \
 /             \
/  /\           ヽ  ミ
 /   \          ノ  ミ
U      ヽ        ノ   ミ

などと如一は書いているが*11、後に如一と袂を分かった元関係者の林仁一郎という人物は以下のように述べている


   . |     (__人__)      医師でもないものが治療行為を
      |     ` ⌒´ノ      行うことを当局は快く思っていなかったんだろ。
.     |         }       
   .  ヽ        }       如一はその取締から逃れるためにフランスに逃げたんだろ。
   _/⌒ヽ     ィ            常識的に考えて
 i'⌒゙l |   l         \__ィ〜っ
 |  |. |   |       ト、_"__冫く;'三}
 |  | ( " ̄⌒ヽ、 |____`ー‐"
 |.   ̄ ̄ ̄ ̄|ソノノ ̄`ヽ ̄⌒ヽ.'⌒lソ
 |        l  .| y  |_ィ   |  .||
 |        |  .|.|   |  |  |   ||
 |        |   |___|  |__|  ||
 |_______.|___(__゙)__{___゙)_||

*12




なお、貿易会社で働く傍ら神戸仏語学校に通っていた経験を持つ如一はフランス語が堪能だったようだ。


          ___
        /     \   ボンジュール。
      /⌒   ⌒  \  ジュ マペル ジョルジュ・オーサワ
     / (●) ( ●)   \
      |    (__人__)      |
     \_  ` ⌒´    __/
     /´:::/ヘ;;;/∨::\::::::::`ヽ
     i:::,::>:::i/;;;;i /:::::::く:::::::,::::::ヘ
    {:::i::ヽ::i;;;;;;;/:::::/::::::::i:::::::::}

如一は後に海外ではジョルジュ(あるいは英語風にジョージ)・オーサワとして知られることになるが、如一がこの名前を名乗るようになったのは戦後のことのようだ*13。ちなみに、名字がオーサワなのは、サクラザワは外国人には読みにくかったためらしい。

逃げるように渡仏した如一はパリで極貧生活を体験することになるが、次第にフランスでも支持者を得て『無双原理』に関する本の出版にこぎつける。さらには、ルイ・ケルヴランと親交を深め、後には同氏の著書『生体による元素転換』(原題: Transmutations Biologiques )を翻訳するに至る。


ケルブランの理論は日本では『生体元素転換』あるいは『生物学的元素転換』などと呼ばれるが、
その理論を紹介する際にはニワトリを使った奇妙な実験が引き合いに出されることが多い。


       ,-'"ヽ    
      /   i、       / ̄ ̄ ヽ,      _/\/\/\/|_  
      { ノ   "' ゝ    /        ',     \          /
      /       "' ゝノ {0}  /¨`ヽ{0}     < 核融合!! >
      /              ヽ._.ノ  ',    /          \       
     i                `ー'′  '.     ̄|/\/\/\/ ̄       
    /                       }.          
    i'    /、                 ,i..          
    い _/  `-、.,,     、_       i          
   /' /     _/  \`i   "   /゙   ./          
  (,,/     , '  _,,-'" i  ヾi__,,,...--t'"  ,|           
       ,/ /     \  ヽ、   i  |           
       (、,,/       〉、 、,}    |  .i          
                `` `     ! 、、\          
                       !、_n_,〉>

                 .,,......、
    _、   _         ヽ `'i ,‐..,      ___,,,,,,,、
  '|ニ- /   !│        ,!  ゙'"  l     l  ゙    ゙l, 
   ././    .! ヽ        !  ,i--'"゛     ゙'''"'''/  ,,r'''”
   l .!     ! l \     _,,,,,,,)  |         ,,  `゙‐'゜
   ! |    / | ヽ`   /..,,,,,_.   `''-、     ,┘゙,k 
   ヽゝ-__-‐'ノ      | .'(__./  .,、  `'、.   |  '{,,___,,,,,,,,、.?
    ─‐'''´       ヽ,、   _./ `'-、,,ノ .   'v,_   ̄`  : ,,,l
                 . ̄´            .゙~゚'冖''''"'゙”″

その実験とは、カルシウム分を含まない土の上で飼育され、柔らかい殼の卵しか産めなくなってしまったニワトリにカルシウムを含まない雲母を摂取させたところ、固い殼の卵を産むようになったというものだ。

ルイ・ケルヴランは大胆にも、この実験結果が雲母に含まれるカリウムが体内で水素と核融合してカルシウムが生成したことによるものだと結論づけた。つまり、化学反応ではなく原子核反応の一つであり、一般的には超高温下でしか実現できない核融合という現象が生体内で起きていたという劇的な結論に彼はたどり着いてしまったわけだ*14

  • 骨などに含まれるカルシウムが溶け出して卵に転用されているだけではないのか?
  • そもそも柔らかい殼しか産めなくなったのは本当にカルシウム不足のせいだったのか?
  • カリウムが理論通り減っていることを確認しているのか?
  • 核融合によって生じたはずのエネルギーはどこに消えてしまったのか?

等とツッコミ出せばキリがない。

つまるところ、ケルブランの論証は穴だらけだ。それに、もし当時の分析技術で検出できるほどの『元素転換』が本当に起こっているのなら、そうした現象を考慮に入れていない物理学・生化学・栄養学はとっくに破綻しているはずだが、現実にはそうなっていないことからも、彼の主張が誤りであることは容易に理解できる。

しかし、


         ___
       / ⌒  ⌒\   ケルブラン氏の説はすごいんだお。
      / (⌒)  (⌒)\
    /   ///(__人__)///\ 食べ物を食べてから体内で元素が変換されるなら、
     |   u.   `Y⌒y'´    | 元素にこだわる栄養学は意味ないんだお。
      \       ゙ー ′  ,/
      /⌒ヽ   ー‐    ィヽ  つまり、栄養学と矛盾するマクロビは
      / rー'ゝ       〆ヽ  実は間違ってなかったんだお
    /,ノヾ ,>      ヾ_ノ,|
    | ヽ〆        |´ |

如一はケルブランの説が予てからの自説を裏付けるものと考えていたようで、これを「人生最大の収穫」と称していたそうだ*15


如一に限らず、現代の科学が間違っていたことにしたい人たちにとっては、ケルヴランの理論は「渡りに船」だった。例えば、極端な菜食主義者であるヴィーガンの中には生体元素転換を彼らの偏った食生活の正当化に利用している人がいるし*16千島学説*17の信奉者には、生体元素転換が千島学説を支持するものだと考えている人がいるようだ*18。確かに細胞分裂を否定し、細胞は新生すると説く彼らにしてみれば、ケルブランの理論は都合がいいのだろう。ありもしない「細胞の新生」を肯定するためにはありもしない生体元素転換が必要とされるというわけだ*19


なお、ルイ・ケルブランは1993年にイグノーベル物理学賞を受賞している*20のだが、この手の人にありがちなことに*21、肯定的な立場からはノーベル賞候補者だったことにされている。

 ケルヴランの研究は1975年のノーベル賞(医学・生理学賞)にノミネートされている。しかしこれは結局受賞するには至らず、彼の研究はその後ほとんど顧みられることはなかった。

(引用元: http://homepage2.nifty.com/cosmo-formalism/sakusaku/1_1.htm)


ノーベル賞の選考過程は基本的に非公開で行われ、50年後に資料が公表されることになっている。1975年ならその選考過程は公表はしばらく先のはずだが、何を根拠にノミネートされたと言っているのだろうか。

さらば、食養会

如一は1935年、日本に帰国した。
帰国後は、フランスで獲得した小型飛行機の専売権を利用して事業を起こし、その収益を食養運動に投じた。

当時の如一は食養会で精力的に活動し、宮家や徳川家の健康指導も行うまでになっていたという。そして、如一が食養会の会長となり、名実ともにトップに立つことになったのは1937年の出来事だった。


しかし、そんな矢先の1939年、食養会の理事会は思わぬ決定を下すことになった。


           / ̄ ̄\     あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 
         /       \    『おれは食養会 会長になったと
        / ヽ   ノ  u  \   思ったらいつのまにか追放されていた』
       /´| fト、_{ル{,ィ'eラ,   |
     /'   \ .(__人__)⌒`  /   な… 何を言ってるのか わからねーと思うが 
    ,゙  / )ヽ(,`⌒ ´    / ヾ、  おれも何をされたのかわからなかった… 
     |/_/  /  ̄ ̄ ̄      ヽ
    // 二二二7      __    `ヽ 
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´     -‐  \ 
   / //   广¨´  /'       ´ ̄`ヽ ⌒ヽ
  ノ ' /  ノ `ー- 、___            ヽ  } 
_/`丶 /         ̄`ー-- {.       イ



            ____
          /⌒  ⌒\
        / (●) (●) \
       /::::::⌒(__人__)⌒:::::ヽ  でも、ま、いっかお!
      / |     |    |    |  いい機会だから独立して
    /' / )    |r┬-|    /:ヽ、 無双原理を極めるんだお!
    l/_/::ヽ   `ー'´   /i:::::ヽ
    // 二二二7___/;;/::::::::/ヽ
   /'´r ー---ァ -`T´´" /::::::/-‐  \
   / //   广¨´  /   /:::::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ
  ノ ' /  ノ:::::::`ー-、__/::::::://      ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ

この追放劇の背景には、医師の理事との対立があったという。如一はこれをきっかけにして滋賀県に無双原理講究所を設立し、単なる食事法の枠に収まらない思想的側面を前面に出していくようになる。

しかし、


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     1度目の逮捕(1941年)

如一とその仲間たちは、医師法違反の嫌疑を掛けられ逮捕されてしまう。これを食養会の医師たちの差金だとする向きもある*22ようだが、真相は今となっては分からない。*23 ただし、このときは数日で釈放されたようだ。


なお、皮肉にも如一を失った食養会はその後衰退し消滅してしまう。如一のマクロビが全世界に広がっていったのとは対照的だ。



つづく


次は反戦活動家としての如一を紹介する。

マクロビオティックの"教義"

ここで改めてマクロビオティックについて整理しておこう。

如一自身は、少なくとも日本語の文献ではマクロビオティックという言葉よりも正食という言葉を用いることの方が多かったようだ。おそらくは如一の考えが海外で流行し日本に逆輸入された結果として、『マクロビオティック』という表記が広まったのだろう。なお、マクロビオティックという言葉自体は元々ヒポクラテスの時代が用いられている古代ギリシャ語に由来するそうだ*24

その"教義"をあえて3点に要約すれば以下のようなものとなる。ただし、現在では指導者による方針の違いもある他、個別に見ていくと矛盾もあるため、現実には以下の要点でマクロビのすべてが説明できるわけではないことに留意されたい。

陰陽調和(無双原理)

食べ物には陽性のものと陰性のものがあり、両者のバランスをとることが大事である。

如一は陰陽調和を独自に拡大解釈し、万物に陽と陰があると考え、その考え方を無双原理と呼んだ。

身土不二

健康のためには地元でその季節に作られた作物を食べるべきで、遠隔地で産したものは良くない。


これが彼らの言う所の「伝統食」*25を食べるべしという考えになり、反砂糖*26・反牛乳論に繋がる。なお、しばしば地産地消と混同される概念であるが、地産地消は元来"地元のものが他の比べて健康にいい"という主張は含まず、マクロビとは元々関係がない言葉だ。

一物全体

皮を剥いたりアクを抜いたりせず、食材を余すことなく丸ごと食べるのがよい。


マクロビで白米よりも玄米が推奨されるのはこの原則のためらしい。逆に精製されてできる白砂糖のような食品は一般に悪いものとして扱われる。


以上のように食事法に関する限り如一の考えは基本的に石塚のそれを踏襲している。如一独自の部分は無双原理によるところが大きく、また如一の国際性が日本古来の『食養』を『マクロビオティック』として全世界に広めることを可能にしたと言えるだろう。

参考文献

癒しを生きた人々―近代知のオルタナティブ

癒しを生きた人々―近代知のオルタナティブ


宗教学者の島薗進氏が第四章をまるまる割いてマクロビについて客観的に解説している。


食生活の革命児―桜沢如一の思想と生涯

食生活の革命児―桜沢如一の思想と生涯


桜沢如一の伝記。当然、マクロビに肯定的な立場から書かれた本だが、一次資料としての価値は高い。


新食養療法

新食養療法


如一の食養・マクロビの実践方法について病名を挙げて具体的に書かれている。

*1:この時点で石塚は故人であり、如一は石塚本人とは面識はないものと思われる。

*2:http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20081216

*3:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 50ページ

*4:石塚はこれら二つの成分を夫婦アルカリと呼んだ。

*5:もちろん、動物実験の結果を人間に当てはめられる保証はない。それに石塚の主張は基本的に江戸時代の『食養生』を踏襲するもので実験から導きだされたものではない。方法論も結論も現代の視点から見れば間違いだらけであることは明白である。

*6:感染者数は大きく減ったが、日本における感染者の割合は他の先進国と比べて高いそうだ。また、耐性菌という新たな問題も生じている。http://www.jatahq.org/siryoukan/ayumi/rekishi.html

*7:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 66ページ

*8:大辞泉 増補新装版 (デジタル大辞泉) では、それぞれ別の読みで別の項目として掲載されている。

*9:易経』とは古代中国の書物で、元来占いについて書かれたものだ。細い竹の棒を使った古式ゆかしい占いはまさにこの『易経』に基づいたもので、韓国の国旗にある黒い棒からなる記号も『易経』に起源を持つ。

*10:プロトンは水素イオン (H+)、プロトンは電子 (e-)のことだ。確かに前者がプラスの電気、後者がマイナスの電気を帯びているのは事実で、おそらくは如一もそれをヒントにこの考えに至ったのだと思う。これは一見尤もらしく見えるが、電気の歴史を考えればとてもすんなり受け入れられる類の考えではないことが分かる。実は、電気のプラスとマイナスは元々電気の実体が分かっていなかった時代に合理的な理由なく、乱暴な言い方をすればテキトーに、電気の極の一方をプラスもう一方をマイナスと決めただけのことで、もしかしたらプラスとマイナスはアベコベに定義されていたかもしれないのだ。したがって、陽気・陰気などという言葉に使われているような東洋思想の陰と陽を比喩以上の意味で電気のマイナスとプラスに当てはめることには少しも尤もらしくはない。

*11:桜沢如一 『新食養療法-食による健康と自由-』(1978年)のブックカバー裏面の年表には「『無双原理』世界観を世界に問うためパリへ無銭旅行」とある。

*12:林仁一郎『食養の生涯』(1977年)346ページ

*13:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 111ページ

*14:核融合反応からは大きなエネルギーが取り出せると期待されており、核融合炉の実現を目指した研究は国際プロジェクトとして大真面目に進められているが、未だ実用化は程遠いとされる。それだけ効率的に核融合反応を起こしそれを維持することは難しいということだ。一方で、高温でなくても核融合が実現できたとする"画期的な"報告、常温核融合は定期的に話題になるが、結局は核融合が起こっていることを十分に証明できず、立ち消えになってしまうのが半ば恒例行事となっている。

*15:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 50ページ

*16:http://inness.blog112.fc2.com/blog-entry-155.html

*17:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100721/1279717703

*18:http://www.asyura2.com/sora/bd16/msg/203.html http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page283.htm

*19:面白いことに桜沢如一の方も千島学説が彼の考えを裏付けるものだと考えていたようだ。(松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 226ページ)

*20:http://www.improb.com/ig/ig-pastwinners.html

*21:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100221/1266768657

*22:松本一朗『食生活の革命児 桜沢如一の思想と生涯』 (1976年) 73ページ

*23:如一は少なくとも後年の著書の中では「治療」「療法」という言葉を当たり前のように使っているし、具体的病名を挙げて「之を治すには正食より他はない。」(桜沢如一『新食養療法』 (1964年) 160ページ)とまで書いていたことを考えると、当局に問題視されても仕方ない活動をやっていた可能性は十分あると思う。

*24:http://www.macro-biotic.jp/contents/gendai.html

*25:伝統食と言っても日本人の食事は地域や時代によって違うわけで、飽くまでカギカッコ付きの「伝統」ということになる。

*26:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20100704/1278198841

朝日新聞WEBRONZAの記事が案の定ホメオパシーの擁護に使われている件

朝日新聞社が運営するニュースサイトWEBRONZAは昨年の12月13日に発達障害の一種である注意欠陥多動性障害(ADHD)にホメオパシーが有効であるとする記事(以下、問題の記事)を掲載した。この記事の内容が臨床試験に対する不十分な理解に基づいて書かれたものであり、読者に誤った情報を与えてしまうものだったことは12月26日の本ブログの記事で指摘した*1。その後、WEBRONZAには朝日新聞科学医療グループの久保田裕氏により、この問題を総括した記事が掲載されたが、一方で問題の記事自体は何の訂正もなく放置されている。私は問題の記事のせいでホメオパシーがADHDに有効であると信じてしまう人がでないようにと、問題の記事に注釈なり追記なりを付けるようにブログの記事twitterでの公式アカウントへのメンション、朝日新聞社の問い合わせ窓口で再三にわたって要請してきたが、朝日新聞WEBRONZA側は無視するか不誠実な対応に終始してきた*2

この問題の責任がWEBRONZAの編集部にあることは明白である。少なくとも山口県でのホメオパシーに関連した訴訟についての一連の報道*3以降にあっては「ホメオパシー」というものは注意すべきキーワードだったことは明らかで、それを無批判に扱ったこの記事が十分にチェックされることなく*4掲載されたことは落ち度と呼んでも差し支えないだろう。しかし、もっと深刻なのは問題の記事の間違いが具体的に示された今にあっても適当に理由をつけて*5問題の記事を注釈も付けずにWeb上に放置しているということだ。

そして、私は*6、科学雑誌Natureにホメオパシーを肯定する論文(実はガセ)が掲載されたケースを引き合いに出して、ホメオパシー団体がこの手の報道を都合よく宣伝に利用するおそれがあることを指摘していた*7。本エントリーでは、日本ホメオパシー医学協会会長である由井寅子氏の著書『毒と私』の中に、まさに私が懸念していた記述があることを確認したので報告する。


毒と私

毒と私

朝日新聞による正当なホメオパシー批判がWEBRONZAのヘマによって台無しにされた

問題の記述は以下に引用した通りだ。

12月、山口県の乳児死亡訴訟で和解が成立しました。それとともに、6ヶ月近くに及んだホメオパシーへのバッシングも下火になってきました。バッシングの最中でもホメオパシーを誤解と偏見から守るべく各地で講演を行い続けた私たちホメオパスの努力もあって、ホメオパシーへの世間の偏見が次第にとりはらわれてきたものと認識しています。
12月13日、ほかならぬ『朝日新聞』のネット雑誌「WEBRONZA」に、スイス在住のジャーナリスト岩澤里美氏によるホメオパシー擁護の記事が掲載され、そのなかでホメオパシーの効果が次のように報告されていました。
「ホメオパシー薬の効能の実験も進められている。たとえば、子どもの患者の8割をホメオパシー薬で治しているという首都ベルン近郊のハイネール・フライ小児科医は、ホメオパシー薬の効果が偽薬(プラシーボ)ではないことを証明しようと研究を重ねている。2001〜2005年には、治療が難しいといわれる発達障害の1つのADHD(注意欠陥・多動性障害)の子ども(6〜16歳)62人を対象に仲間たちと実験を行った。時期をずらしてホメオパシー薬と偽薬の両方を与えた結果、ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させたという。実験は二重盲検試験で、子どもたちも、親も、薬を投与した医師たちも薬の中身は知らされていなかった。」

(引用元: 由井寅子『毒と私』(幻冬舎) 149,150ページ、強調は引用者による。)


ほかならぬ『朝日新聞』という表現は、山口県での訴訟を発端にした朝日新聞によるホメオパシーに批判的な報道を念頭に念頭においたものだろう*8。つまり、"朝日新聞には相当批判されたが、結局はその朝日新聞ですらホメオパシーの効果を認めるに至った"と言いたいわけだ。少なくとも私にはそうとしか解釈できなかった。朝日新聞による正当なホメオパシー批判がWEBRONZAのヘマによって台無しにされてしまったのだ。

もしかしたら朝日新聞WEBRONZAの中の人は冒頭にも述べた久保田氏による批判的総括をもって十分に責任は果たしたつもりでいるのかもしれない。しかしながら、現実にはホメオパシー団体はそこはスルーしてホメオパシーを擁護してくれる問題の記事だけを紹介している。このことからも朝日新聞WEBRONZA編集部の考えの浅さと甘さが示されたと言えるだろう。

WEBRONZAの中の人と一色清編集長は言行を一致させるべき

WEBRONZAのtwitter公式アカウントは、問題の記事を記載したことに対する説明*9の中で以下のように述べていた。


これは2011年2月8日の時点でのtweetである。今まさに「そうしたケース」が発生しているのだから、速やかに「可能な対応策を検討」し一刻も早く実行に移していただきたいものだ。


そして、「ウェブメディアをリード」しようと企んでいるWEBRONZA編集長の一色清氏は、WEBRONZAについてのインタビューで以下のように語っている。

ただ、一つだけわかっていることがあります。どちらの方向に向いたとしても、自分たちが一次情報を集め、分析し、整理し、価値付けし、提示する立場にいなければならないということです。この立場にいることで政府の監視役となったり、ウラを取ることによって本当の情報を伝える役割を担うことができるはずです。WEBRONZAはこれからそのような立場でウェブメディアをリードしていけるようになりたいですね。

(引用元: http://www.spork.jp/2011/02/post-180.php 強調は引用者による。)


このインタビューは2010年6月30日に行われたものらしい。つまり、問題の記事がWEBRONZAに掲載される前だ。一色氏の理念通りに、自分たち*10「一次情報」であるホメオパシーの臨床試験を報告した論文を分析し、ウラを取って「本当の情報を伝える役割」を果たしていたら、こんなことにはならなかったはずだ。もうだいぶ遅いわけだが、あの記事が読者・発達障害に悩む親子に与える悪影響をこれ以上大きくしないために、今からでも言行を一致させて欲しい。

*1:誤解がないように明確にしておきたいことは、私が問題視しているのはWEBRONZAがホメオパシーに肯定したことではなく、事実に反する情報に基づいてホメオパシーを肯定するような記事、すなわち読者を錯誤に陥れるような記事を載せてしまったことだ。私はメディアの意見の多様性を損なおうとしているわけではなく、正確性を確保しようとしているだけだ。

*2:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110210/p1

*3:皮肉にも朝日新聞はこのの報道にかなり熱心だった。

*4:臨床試験を報告した論文をチェックすれば簡単に見抜ける間違いが問題の記事には含まれていた。

*5:例えば、他の記事では極普通に訂正が行われているにも関わらず、「システム上の都合などで困難」などという理由で訂正を拒んでいる。https://twitter.com/#!/webronza/status/34893143325282304

*6:もちろん、こうした事態を想定していたのは私だけではないわけだが。

*7:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20110109/p1

*8:本書の中では、繰り返し朝日新聞による批判に対する言い訳と恨み節が展開されている。

*9:http://togetter.com/li/98454

*10:批判的総括を行った久保田氏はWEBRONZA編集部の外の人だし、私のブログを引用するだけで「自分たち」での検証は行っていない。

DNA解析サービス23andMeで自分のDNAを調べてみた

個人のDNAを解析していろいろ教えてくれるサービス 23andMeを利用してみた。23andMeはgoogleが出資していることもあってか、当初からそれなりに注目されていて、すでにTechCrunchの記事でもレビューされているのだが、ここでは私自身の解析結果を交えつつ、その仕組みや解釈についてより詳細に紹介してみようと思う。

どうすればサービスが受けられるか

まず最初に断っておかなければいけないのは現時点で日本はサービス対象外だということだ。サービスを受けるためには唾液採取・送付のためのキットを購入する必要があるのだが、そのキットは日本向けには販売されていない。*1
キットの価格は少し前まで499ドルだったがいつの間にか下がりに下がって期間限定で99ドルに値下げされている。このキットを購入し、サンプルを採取して送り返せば、後は待つだけで解析結果がwebで見られるようになる。少なくとも現時点ではキットの価格が必要な料金のすべてであり、解析に別途料金が発生することはない。

実際に唾液を採取して送ってみる。

弁当箱サイズのキットに必要なものはすべて入っている。

下図は唾液採取用の容器*2


唾液を流しこんで蓋を閉めると青い蓋にセットされている溶液が唾液と混合される仕組みになっている。この処理により唾液に含まれるDNAが安定化され、常温で輸送しても十分な品質を保ったDNAが23andMeのラボまで送り届けられるようになるらしい。

これを説明書に従って梱包した後、付属の料金支払い済み専用封筒*3で23andMeのラボに送付した。

23andMeはゲノム解析ではなくSNP解析である

具体的な解析結果を紹介する前に、23andMeが解析の対象にしている情報を明確にしておこう。23andMeは少なくとも現時点ではゲノム解読サービスではない。23andMeが対象としているのは個人のゲノム(全遺伝情報)ではなくて、その一部、具体的には一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)だ。
Homo sapiensという単一の生物種に属する私たちのゲノムは、誰のものであってもほとんど同じだが、ところどころに個々人で異なる箇所が存在する。そのような遺伝情報の個人差のうち、塩基配列の1文字だけの違いを一塩基多型と呼ぶ。

SNPのイメージ:
A氏の塩基配列
...AGATTAGCCGCGATCAGTACGATGCCGATAGCGATTTAAAGGCG...
B氏の塩基配列
...AGATTAGCCGCGATCAGTATGATGCCGATAGCGATTTAAAGGCG...


SNPの中には髪の色などの持って生まれた性質や特定の病気への罹りやすさなどと相関関係があるものあるので、SNPを調べることでそれらの情報についてのヒントを得ることができる。

SNPはヒトゲノム中に1000万箇所あると推定されていて、23andMeはその中の1000万箇所のSNPを調査の対象にしているそうだ*4

23andMeで分かること

生まれつきの性質についての情報

23andMeのホームでTraits(形質)と書かれたリンクをクリックすると、閲覧可能な項目が一覧表示される。それぞれの項目には4個から1個の星がついていて、この数が多いほどその内容の信頼性が高いことを意味する。
四つ星で信頼性が高くて、尚且つ確かめやすいのはEarwax type(耳垢のタイプ)だ。私のGenotype(遺伝子型)はTTで、これは乾いた耳垢を意味するそうだ。確かに私の耳垢は耳かきでかくとでポロポロと崩れるような乾いた耳垢だ。染色体上のこの位置の遺伝子型がTTやCTの人はしっとりした耳垢になると予測される。


Lactose intolerlance(乳糖不耐性)も同じく四つ星で分かりやすいのだが、私の判定は以下のようなものだった。

Likely to be lactose intolerant due to lack of the lactase enzyme as an adult. Unable to drink more than a glass of milk a day due to lower adult lactase enzyme levels. (May still be lactose tolerant for environmental reasons.)


この結果によれば私は遺伝的には牛乳をほとんど飲めない体質らしいが、実際には私は牛乳を飲んでも何ともない。これはカッコ内に書かれているように環境要因に影響された結果なのかもしれない。この結果を解析技術の未熟さで説明することもできないわけではないだろうが、人の体質が往々にして遺伝子以外の要因に左右されることを考慮すれば、こうした曖昧さは将来的にも不可避のものだろう。

            ,;-==≡==-、
           シ         ミ,
           シ  ,i~⌒''~''"''-⌒、;`、
         シ  /        '、ミi
        シシシ ,;           ミミ
         シ l, / '"""'''、l  ,.==-、|ミミ
         || ,|/  ----、  ,___、 |/
         `6   `"--'/  、___ノ. |
          |    /l、__)、  ノ
          'l、   ',__,、,、  \/
           ノ|\Y 'l、 ̄^" ̄_ノ
         /.l  \\ 、__/  \
      _/   .ヽ、 ヽi/ ̄\ / |. \_
                  \ /
      『犯人は20代から30代もしくは40代か50代』
健康に関わる情報

一番分かりやすいのは、病気に罹るリスクの予測だろう。23andMeでは数十種類の病気についてそのリスクを予測してくれる。ただし、ここでも注意しなければいけないことがいくつかある。一つは、アジア人の私に当てはめられる予測は比較的少ないということだ*5。23andMeは基本的に査読論文として発表された研究に基づいて病気のリスクについて予測を行うのだが、そのような論文で圧倒的に多いのは欧米人を対象にした調査だ。従って、日本人を含むアジア人を対象にした調査は相対的に少なく、23andMeが予測できることも欧米人と比べて少なくなる*6。もう一つは23andMeは決して"診断サービス"ではないということだ。

There are several reasons why we cannot provide diagnoses or otherwise assess your health. First, because we don't sequence your entire genome, we may miss variation that has an impact on your health. Genetic testing services, which restrict themselves to a relatively small set of diseases, provide more exhaustive analysis of the relevant genes.

More importantly, in order to make a diagnosis, your doctor considers not only your genetic information, but also your particular personal and family history and your physical condition, as well as any symptoms you are experiencing. Other confirmatory tests are usually required, since your genotype is only part of the equation. If you learn that your personal genetic information suggests that you have a higher than average chance of developing a particular disease, you may wish to discuss your genetic information with your physician or another medical expert.

(引用元: https://www.23andme.com/you/faqwin/nodiagnosis/)


つまり、現状で提供されているサービスは病気の診断に利用出来るほど確実なものではないし、診断は医師による遺伝以外の要因も含めた総合的な判断によって行われるものだから、23andMeでそれを行うことはできないということのようだ。

これらの注意事項を承知の上で私の解析結果を見たときに何かの参考になりそうなのは、下図の2型糖尿病についての解析結果だった。


通常、アジア人の場合、20歳から79歳までの間に100人のうち27.8人が2型糖尿病を発症するが、私と同じ遺伝子型をもつアジア人の場合は100人中37.3人が発症すると予測されるらしい。現在までの科学的データに基づく限り、私は平均よりも2型糖尿病になるリスクが高いようだ。このリスクをどう捉えるかはもはや科学の範疇になく主観の問題だが、私自身はこの程度のリスクの増加を深刻には考えていない。

個人の解析結果の下には以下のような解説がつけられていた。


2型糖尿病は半分以上が遺伝子以外の要因に影響されているとのことだ。これこそが生活習慣病たる所以だろう*7。私が2型糖尿病にならないためには、相対的に影響の小さい遺伝的要因に気を揉むよりも、一部は意識的に制御可能かもしれない環境因子を良い方向に持っていくことに意味がありそうだ。


しかし、遺伝的因子自体はそれを知ったところでどうすることもできないし、糖尿病の予防に関して生活習慣を含む環境因子に注意が必要なことは解析を受ける前から分かっていたごくごく一般的で当たり前なことだ。

       /ニYニヽ
   (ヽ   /( ゚ )( ゚ )ヽ   /)
  (((i ) /::::⌒`´⌒::::\  ( i)))  でっていうwwwwwwwwwwwwwww
 /∠_| ,-)___(-,|_ゝ \
( ___、  |-┬-|    ,__ )
    |    `ー'´   /´
    |         /


面白かったし、勉強になったからいいじゃないか。どうせ診断じゃないんだもの。

祖先・血縁関係についての情報

先述のとおりDNAにはSNPと呼ばれる個人差が存在し、それは遺伝情報として子孫に受け継がれていく。逆に言えば、SNPをヒントにして祖先を探すこともできる。より正確には、同じSNPを数多く共有している人は同じ祖先をもつ可能性が高いということだ。

Y染色体のタイプ

ここで問題になってくるのが、人間が有性生殖する生き物だということだ。DNAは世代を重ねることでどんどん混ざってしまうので、太古の特定の祖先に由来するSNPを見出すのは必然的に困難になってしまう。その問題を回避できる特殊な性質をもっているのがY染色体とミトコンドリアのDNAだ。これらはそれぞれ父系・母系で遺伝し、交配によって混ざってしまうことはない。

私の場合は、23andMeによる解析の結果、Y染色体がO2bというタイプに属することが分かった。このタイプのY染色体は、日本や朝鮮半島等に多く見られ、考古学的な研究と総合して長江文明や弥生人との関連が指摘されているようだ。根拠となる論文は23andMeのウェブサイトでもきちんと紹介されているが、以下の本では日本人に対象を絞りつつ言語学や考古学の知見を交えた解説がなされていて分かりやすかった。23andMeのおかげでより深く興味をもって読書ができたとも言えるだろう。


DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?

DNAでたどる日本人10万年の旅―多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?


なお、これは私の父方を遡っていけば弥生人と呼ばれている人に行き着くと推定されるというだけで、私がO2bタイプ以外の染色体をもつ日本人とそれ以外の視点から区別されるわけではない。私の他の染色体に含まれるDNAが何十代もの交雑によって混ざり合っている以上、私が他の日本人と比べて特別に弥生人の血を濃く受け継いでいるとは言えないからだ。

Relative Finder

Relative Finderは23andMeのソーシャルネットワーク的な機能を利用したサービスで、これによって親戚だと推定されるユーザーを探すことができる。私の場合は、"ひいひいひいひいおじいさん"を共有すると推定される人 (5th cousin) が何人もヒットした。ここまで来ると事実上の他人だが、普通なら知りえないほど遠い親戚が見つかるというのは面白い*8。もちろん、プライバシーの保護のために"遠い親戚"の情報は相手の承認なしには表示されないのだが、リクエストして承認が得られれば、メッセージの交換が可能になる。

Relative Finderはハプロタイプと呼ばれる概念を手がかりにしている。先述のとおり、染色体上の遺伝子は代を重ねるごとに混ざっていってしまうのだが、これは色が違う二種類のインクを混ぜたときのように完全に混ざり合ってしまうのとは事情が異なっている。実際には、染色体に「乗換え」という現象が繰り返されることで父方の染色体と母方の染色体がモザイク状になって混ざっていくのだ。従って、代を重ねるごとにそのモザイク模様はどんどん細かくなるのだが、モザイクを構成する一つ一つの断片は祖父や曽祖父の染色体の一部分をそのまま受け継いでいることになる。誤解を恐れずに言えば、染色体上のこのような断片のことをハプロタイプと呼ぶ*9

23andMeのコンピュータは、それぞれのユーザーの染色体を比較し共通のハプロタイプを見つけ出すことで、何代も前*10の祖先を共有する遠い親戚と思しきユーザー同士を引き合わせている。この計算にはそれなりの時間が必要らしく、他の解析結果が見られるようになっても、しばらくはRelative Finderだけが利用できなかった。

総評とDNA解析サービスをめぐる環境について

23andMeは少なくとも私にとっては非常に面白いサービスだったし、今後も解析項目の追加や改善が行われるようなので長く楽しめそうだ。それぞれの解析結果には分かりやすい解説が付記されているし、判定の根拠となった論文もきちんと挙げられているので、その気になれば判定結果について深く調べることができるのも有り難い。この辺りはフジテレビが煽って、日本の代理店が一枚噛み、上海の怪しげな企業が解析するという、うさん臭さ満点のサービスとはエライ違いである*11

しかし、誰しもが論文を読めるわけではないし、たとえ読めても判定結果が深刻なものだった場合に自分自身のことについて冷静でいられるとは限らない*12。実際、アメリカでも一部の州ではこの種のサービスを規制する動きがあるようだ*13

一方で、欧米ではすでに23andMe以外の個人向けDNA解析サービスが複数開始され、現実に一つの市場が生まれ競争が始まっている*14。ネット上ではサービスの質や内容を比較したり、解析結果を元にルーツを探す人たちのコミュニティができている*15他、23andMe等で得られたデータ*16を元に解析サービスの公式サイトとは別の解析を行えるサイトも現れている*17

*1:私は非公式な方法で入手してなんとかサービスを受けられたが他の人が同じ方法でうまくいく保証はない。

*2:23andMe独自のものではなくORAGENEという製品らしい。http://www.kyodo-inc.co.jp/bio/oragene/oragene.html

*3:繰り返しになるが、日本はサービス対象外なのでこれをそのままポストに投函しても駄目。

*4:https://www.23andme.com/more/genotyping/

*5:https://www.23andme.com/health/ethnicity/

*6:ただし、人種がマッチしない場合でも、調査が行われている人種の知見に基づく予測結果が一応表示されるが。

*7:ただし、解析結果の説明を見ると"誕生時の体重"のような自分の力ではどうすることもできない因子も環境要因に含まれていることに注意しなければいけない。

*8:ただし、推定が正しければだが。

*9:などと書くと遺伝学の専門家からお叱りを受けるかもしれない。

*10:この方法ではおそらくY染色体の分析のように有史以前の祖先にまで遡れることはないだろう。

*11:http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101128/p1

*12:googleの創業者のセルゲイ・ブリン氏の場合は比較的深刻な解析結果が得られたようだが、彼自身は前向きに捉えているようだ。http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2519587/3357567

*13:http://jp.techcrunch.com/archives/20080617cease-and-desist-california-tries-to-unravel-23andmes-genetic-testing/

*14:deCodeMe, Pathway Genomics, Navigenics, Lumigenixなど。一部は日本もサービスの提供範囲としているようだ。

*15:http://dna-forums.com/index.php?/?index

*16:23andMeでは解析結果の生データをダウンロードできる!

*17:http://esquilax.stanford.edu/

モテる科学力を磨くための4つの心得「無精卵を食べられない女をアピールせよ」等

元ネタ:
『モテる女子力を磨くための4つの心得「オムライスを食べられない女をアピールせよ」等』
http://youpouch.com/2011/04/26/162331/



こんにちは、分子生物学を専攻しているMochimasaです。私はお金も権力もありませんしキモメンですが、科学に関してはプロフェッショナル。今回は、モテる科学力を磨くための4つの心得を皆さんにお教えしたいと思います。

1. あえて4〜5世紀前の学説を飲み会で持ち出す

あえて4〜5世紀前の学説を使うようにしましょう。そして飲み会の場で好みの理系男子がいたら話しかけ、わざとらしく古い学説を持ち出してオチョクってみましょう。そして「あ〜ん! この学説本当にマジでチョームカつくんですけどぉぉお〜!」と言って、男に「どうしたの?」と言わせましょう。言わせたらもう大成功。「天体とか詳しくなくてぇ〜! ずっと天動説信じてるんですけどぉ〜! 惑星の運動を説明しにくいんですぅ〜! ぷんぷくり〜ん(怒)」と言いましょう。だいたいの理系男子は新しい学説を持ち出したがる習性があるので、古かったとしてもティコ・ブラーエの修正天動説を採用しているはずです。

そこで理系男子が「地動説にしないの?」と言ってくるはず(言ってこない年周視差も観測できない男はその時点でガン無視OK)。そう言われたらあなたは「なんかなんかぁ〜! 最近、理研サイクロトロンが人気なんでしょー!? あれってどうなんですかぁ? ヒッグス粒子が欲しいんですけどわかんなぁぁああい!! 私かわいそーなコ★」と返します。すると男は「CERNの大型ハドロン衝突型加速器でしょ? 仁科芳雄博士のサイクロトロンは戦後、GHQに破壊されたよ。本当に良くわからないみたいだね。どんな加速器が見たいの?」という話になって、高エネルギー加速器研究機構の次の一般公開日にふたりでつくばに行けるというわけです。あなたの科学力が高ければ、理系男子が駅で化石チョコ買ってくれるかも!?


2. 計算で>>を使うとモテる

「非常に大きい」とか「非常に小さい」などを表現する「>>」を計算に入れると、理系の男子は「なんかこの子、近似が効くなぁ」や「十分に小さいから無視してあげたいかも」と思ってくれます。科学の計算では純粋数学よりも解析の容易さが重視されるので、「>>」 を多用することによって男性はあなたを科学がデキル女子だと勘違いしてくれるのです。そういうキャラクターにするとほぼ絶対に同性から計算高い奴だと嫌われますが気にしないようにしましょう。


3. とりあえず男には「えー! なにそれ!? 知りたい知りたーい♪」と言っておく

飲み会などで男が女性に話すことといえば科学や技術の話ばかり。よって、女性にとってどうでもいい話ばかりです。でもそこで適当に「へぇーそうなんですかぁ〜?」とか「よくわかんないですけどすごいんですねぇ」と返してしまうと、さすがの男も「この女文系だな」と気がついてしまいます。文系女だとバレたら終わりです。そこは無意味にテンションをあげて、「えー! なにそれ!? 知りたい知りたーい♪」と言っておくのが正解。たとえ興味がない話題でも、テンションと積極性でその場を乗り切りましょう。積極的に話を聞いてくれる女性に男は弱いのです。

いろいろと話を聞いたあと、「ブロントサウルスはアパトサウルスで、ペーハーがピーエイチなんですね! 覚えたぞぉ! メモメモ!」とコメントすればパーフェクト。続けて眼からレーザーを出して「ピカピカピカ! ピカピカピカ!」と言って、「どうしたの?」と男に言わせるのもアリ。そこで「私のホログラフィック・バーサタイル・ディスクに記録しているのでありますっ☆」と言えば科学力アップ! そこでまた男は「この子おもしろくてカワイイかも!?」と思ってくれます。ホログラフィック記憶装置は光学系装置が複雑で大型になりがちですが、コリニア方式を使えば小型化できたりするのです。電子デバイスは小型化がキモですからね。

4. 学食ではオムライスを食べられない女をアピールせよ

男と学食に入ったら、真っ先にオムライスなどの卵を使った料理を探して「あーん! 私これ食べられないんですよねぇ〜(悲)」と言いましょう。するとほぼ100パーセント「どうして? 嫌いなの?」と聞かれるので、「嫌いじゃないし食べたいけど食べられないんですっ><」と返答しましょう。ここでまた100パーセント「嫌いじゃないのにどうして食べられないの?」と聞かれるので、うつむいて3〜5秒ほど間をおいてからボソッとこう言います。「……だって、……だって、卵焼いたらタンパク質が不可逆的に熱変性しちゃうじゃないですかぁっ! 無精卵ちゃんかわいそうですぅ! まだ受精もしてないのにぃぃ〜(悲)。第一卵割すらできないんですよ……」と身を震わせて言うのです。

その瞬間、あなたの科学力がアップします。きっと男は「なんて優しい生物学者のようなコなんだろう! 絶対にゲットしてやるぞ! コイツは俺の女だ!」と心のなかで誓い、あなたに惚れ込むはずです。意中の男と付き合うことになったら、そんなことは忘れて好きなだけオムライスを食べて大丈夫です。「食べられないんじゃなかったっけ?」と言われたら「動物実験倫理委員会は通した」とか「発生学実習で慣れた」、「産み落とされてしまった無精卵を今から受精させることは困難」と言っておけばOKです。